階段を上がって、地上に出て、少し歩く。
日が傾き、風が涼しくなっていた。
シンジとレイが商店街に入っていく。

「さー、いらっしゃい、いらっしゃい。」
八百屋の主人の威勢のいい掛け声が響く。
「すみません。」
シンジが声をかける。
「お、今日は、彼女と買い物かい？」
八百屋の主人が軽く言う。
「あ．．．そういうわけじゃ．．．」
シンジが顔を赤らめて俯く。
レイは、興味深そうに店先に広げられた野菜や果物を見ていた。
「ははは、今日は何が入りようなんだい？」
八百屋の主人が笑いながら聞く。
「あの、キャベツと山芋ともやしと．．．それに、にんじんとピーマンを少し．．．」
「あいよ。」
主人が手馴れた手つきで袋に詰めていく。
「１２００円でいいよ。」
「はい。」
シンジが、財布からお金を出し、主人に渡す。
「はい、毎度。」
主人が野菜の入った袋を渡した。
「ありがとう。」
シンジがレイを見る。
「行こう。」
レイが何かを見ていた。
シンジがレイの視線をたどると桃の盛られた皿があった。
シンジがレイを見る。
レイがシンジを見ていた。
「行かないの？」
レイが言う。
「．．．行こうか。」
シンジとレイが歩き出す。
「まいどありい。」
シンジの背中に、八百屋の主人の声がかかった。

この後、シンジは、卵と豚肉、桜海老、鰹節を買った。
商店街を、家の方へ歩き出す。

「ね、綾波？」
シンジが言う。
「何？」
「桃、食べたい？」
「どうして？」
「八百屋さんで見てたから。」
「．．．」
「食べたい？」
「ええ。」
「そう．．．」
シンジが立ち止まる。
「．．．」
レイがシンジを見る。
「それじゃ、ちょっと、駅の方に戻って、果物屋さんに寄ろう。」
シンジがレイを見る。
「ありがとう。」
レイが微笑んでいた。
 

シンジとレイが、家へと歩いていた。
シンジが急に立ち止まる。
レイがシンジを見る。
「どうしたの？」
シンジがレイを見た。
「ここに．．．第三新東京市に父さんに呼ばれてきた日に、ミサトさんと待ち合わせしたんだ。」
レイがシンジを見ている。
「けど、使徒が来ていて、皆、シェルターに非難してるし、ミサトさんにも会えなくて。」
「．．．」
「それで、そこの電話から電話したんだけど、つながらなくて。」
「．．．」
「それで、なんとなく、振り返ったら。」
「．．．」
シンジが、道路の真ん中あたりを指差しながら言う。
「あのあたりに、制服姿の綾波が、一瞬、見えたんだ。」
「そう．．．」
沈黙が流れた。

「ごめん。」
シンジが唐突に言う。
「何が？」
シンジが見ると、レイが不思議そうな顔をしている。
「なんだか、おかしな事言ってるな、と思って。」
「．．．」
「あの時、綾波は、本部の病院に入院してたんだもんね。」
「．．．」
「それに、一瞬で消えてしまったし。」
「．．．」
「けど、その綾波と一緒に、ここを歩いているって．．．」
「．．．」
「なにか、不思議な感じがする。」
「そう。」
沈黙が流れた。

「行こうか。」
シンジが、微笑みながらレイに言う。
「ええ。」
シンジとレイが歩き始めた。
「私は、一人じゃないから．．．」
レイが小さく呟く。
「何か言った？」
シンジがレイを見る。
「何も．．．」
視線を遠くに向けながら、レイが呟いた。
 

ドアを開けて、シンジがレイに言う。
「さ、入って。」
「ええ。」
たたきに揃えてある靴をみて、シンジが声をかける。
「ただいまー。」
「おかえりー。」
奥からアスカの声がした。

買い物袋をキッチンに運び込む。
「鞄、部屋に置いてくるから。綾波は．．．リビングにでも置いておくといいよ。多分、アスカもリビングにいると思うし。」
アスカがキッチンに入ってきた。
「シンジ、早く晩御飯つくってよ。
  あら、ファースト。」
「あぁ、ごめん。今日、宿題を付き合ってもらったお礼に、晩御飯に来てもらったんだ。」
「そう。じゃ、今夜は肉抜き？」
「その辺は変えられるように、お好み焼きにしたから．．．」
「お好み焼き？ああ、なるほど。ＯＫ。じゃ、待ってるわ。」
「うん。」
「優等生、今、ゲームしてるんだけど、する？」
「いえ、いいわ。」
「そう。それじゃ、後で。」
アスカは、シンジの方を少しだけ見てリビングに戻っていった。

シンジがレイを見る。
「じゃ、部屋に．．．綾波、鞄。」
「？」
「僕の部屋に置いておくよ。」
「そう。」
そう言って、レイは椅子から立ち上がり、足元に置いてあった鞄を取り上げ、シンジに手渡した。
「じゃ、ちょっと待ってて。」
「ええ。」
シンジがキッチンを出ていった。

シンジが部屋の扉を開けようとする。

カタッ。

シンジが振り向くと、レイが立っていた。
「あ．．．綾波。どうしたの？」
「碇君の部屋。見たい。」
「え？あ、んー。」
レイがシンジを見ている。
「分かった。綾波の部屋に入ったこともあるしね。」
レイが微笑む。
扉を開き中に入る。机に歩いていき、鞄を置くシンジ。
レイの方を振り返る。
「綾波？」
レイは、部屋に少し入ったところで、部屋の中を見ていた。
「あ、あんまり、見ないでよ。」
ほんの少し顔を赤らめながら言うシンジ。
「碇君？」
「何？」
「ここにいていい？」
「え？」
「夕飯ができるまで。」
「えー？！んー．．．」
酷く狼狽するシンジ。
その横をすり抜け、ベッドに腰掛けるレイ。
「碇君の匂いがする。」
レイがシンジを見上げた。
「綾波．．．」
シンジの額に汗が浮かぶ。
「ただいまー。」
ミサトの声。
「おかえりなさい。」
シンジが部屋の入り口を見て言う。
シンジがレイを見た。
「僕、夕飯の準備するから。」
「ええ。」
シンジが、灯かりのスイッチを入れて、部屋を出て、扉を閉めた。
「綾波。」
ドアの前でシンジが呟く。
シンジが、ダイニングへと、歩き出した。

シンジが、ダイニングに入ろうとすると、中からミサトが出てきた。
「あ！おかえりなさい。」
「ただいま。レイがきてるの？」
「ええ。」
「ふーん。」
ミサトが、シンジの顔を覗き込む。
「あ、あの、今日、一緒に宿題をしてもらったから。それで、夕飯を食べに来ないって．．．」
「そうなんだぁ。」
ミサトが、悪戯っぽく微笑む。
「そ、そんなんじゃ．．．」
シンジが顔を赤くする。
「恥ずかしがらなくてもいいのよ、シンちゃん。それに、たくさん人がいた方が、食事はおいしいし。あ、けど、レイかぁ。」
「ミサトさん！」
「ごめんごめん。ところで、夕飯の用意できてないみたいだけど。」
「すみません。今帰ってきたところなんです。」
「いいわ。どの位でできそう？」
シンジが、視線を左上に向けて、考えるようにする。

「下拵えは３０分位だと思いますけど．．．」
「今日は、何？」
「お好み焼きです。」
「はーん。レイがいるんだもんね。」
「ごめんなさい。」
「わかったわ。シャワー浴びて、ビール飲んでるから。」
微笑みながら、ミサトが歩き出す。
「はい。」
シンジが、ダイニングに入っていった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
日曜の午後 Genesis 0:1 完 

日曜の午後 Genesis 0:2へ

Evaメニューに戻る