「ミサトさん、具はなんにします？」
「あー、適当でいいわ。ビールにあうのがいいわね。」
「じゃ、タマゴ抜きに桜海老大目で、ソースの代わりに塩振ってみます？」
「それ、いいかも。」
シンジが、ミサトの分を茶碗に入れはじめる。

アスカがキッチンに入ってきた。
「アスカ、具はなんにする？」
「そぉねぇ、あたしの口に合うように作ること！」
「はいはい、わかりました。」
「なにか文句あるの？」
「いーえ。何もございません。あ、お腹すいてるんだよね。」
「もー、ぺこぺこよ。ぐちゃぐちゃ言ってないで、早く作ればいいのよ！」
「あれ、レイは？」
ミサトが言う。
「あ、じゃ、呼んできます。えーと、これ、ミサトさんの一枚目の分です。」
シンジが、ミサトに茶碗を渡す。
「オッケー、あとは、焼けばいいのね。」
「はい。で、これが、アスカの一枚目の分。」
「なんか、随分多いわね。それにヤキソバまで。」
「ミサトさんのは、おつまみだから。アスカのは、少し説明がいるかな。」
シンジが、アスカの茶碗から、半分ホットプレートにあけ、お好み焼きを焼きはじめた。脇で、ヤキソバを焼きはじめる。
「これが生焼けになったら、卵焼きを作って、卵焼きの色が変わってきたら、生地の方に味付けしたヤキソバと好きな具をのせて、残りの生地をかけて、ひっくり返して卵焼きにのせて仕上げるんだ。あ、あと、キャベツを少し大目に入れて。」
「なんか、これ一枚で、お腹一杯になりそうね。」
「おいしそうでしょ？」
「ま、まあね。」
シンジが、茶だんすに歩いていき、お好み焼きソースと塩を持ってくる。
「これ、ソースと塩です。じゃ、綾波呼んできます。」
「「了解。」」
二人は、お好み焼きの焼け具合に集中している。
シンジが、ダイニングを出た。

「綾波、入るよ。」
シンジが扉をあける。
「綾波、夕飯の用意．．．」
レイが、ベッドで仰向けになって眠っていた。
少し乱れたスカートの裾から伸びる白い足。
制服の上からも分かる細くくびれた腰。
脇に流れるしなやかな細い腕。
息で上下する胸の膨らみ。
ぬけるように白く、か細い首筋。
頬と額に流れる水色の髪。

シンジがベッドにひざをついて、レイの顔を覗き込む。
なめらかな瞼と長く黒いまつげ。
細い鼻筋。
少し白っぽく光る唇．．．
シンジの唇がレイの唇に．．．

「しんちゃーん。つぎつくってぇー。」
ミサトの声がした。
シンジがレイから離れる。
「はーい。」
レイが目を開く。
レイが体を起こし、シンジを見た。
「綾波．．．夕飯、できたから。」
「そう。」
そう言って、レイがベッドから降りる。
シンジが、レイを見ていた。
「行きましょう？」
「う、うん。」

レイとシンジがダイニングに入ってくる。
「シンちゃーん、はやく作って。」
ミサトが言う。
アスカは、卵を割ろうとしている所だった。
「あ、アスカ、僕がやるよ。」
「そう？じゃ、はい。」
シンジが、卵を受け取ってテーブルの縁で割り、プレートに落とす。お好み焼きに、ヤキソバとキャベツをのせて、少し生地を加えて、白く色を変えだした卵に、ひっくり返す。
「ミサトさん、さっきのと同じでいいですか？」
「うん、さっきのお願い。」
シンジが、桜海老ときざんだチーズを生地に入れた。
「はい、今度は、チーズも少し入れました。」
「それ、ナイス。なにか、足りない気がしたのよね。さすが、シンちゃん。ね、マジで、私のお婿に来ない？」
「え？」
「ミサト！」
「はいはい、私が悪うございました。そんな顔することないでしょ、三人共。」
シンジがレイを見る。
レイが、少し睨むような顔をしていた。
「綾波、遅くなってごめん。今から作るから。」
「ええ。」

「おまたせ。」
シンジがレイの皿にお好み焼きをのせる。
「ありがとう。」
レイが、箸でお好み焼きを切り、口に入れる。
レイが微笑んだ。
アスカが、口を開く。
「ファースト、それ、一口もらっていい？」
「ええ。」
レイが差し出した皿に、アスカが箸を伸ばして、お好み焼きを取り、口に入れる。
「おいしー。なによこれ！シンジ、私にもこれ！」
「あ、私もいいかな？」
ミサトがレイに言う。
「ええ。」
ミサトが、お好み焼きを口に入れる。
「おいしー。歯ごたえがさくっとして、しかも、その後、だし汁が口の中にひろがるなんて。シンちゃん、レイのお好み焼きだからって気合入れすぎよ。」
「あ、いや、その．．．だし汁で戻した椎茸に片栗粉をまぶして、山芋大目の生地に入れたんですけど、ミサトさんも、これにします？」
「もちろん。」
「綾波は？」
「さっき、葛城さんが食べてたの。」
「うん。わかった。あと、自分の広島風かな．．．」

「フー。もう、お腹一杯。」
アスカが息をつく。
「じゃ、桃むくね。」
「あ、デザート、桃なんだ。」
「うん。」
皿を片づけながら、シンジが言う。
「アスカ、ホットプレート、いいかな。」
「とりあえず、テーブルからおろすだけでいい？」
「うん。まだ熱いから気をつけて。」
「分かってるって。」
シンジが、冷蔵庫から桃を出して、洗い始めた。

シンジが手馴れた手つきで、桃の皮をむいていく。芯を残して切る。
「はい。アスカ。」
皿に盛ってフォークを添えて渡す。
「Ｄａｎｋｅ　ｓｃｈｏ‥ｎ！」
アスカが桃を食べはじめる。
シンジが、次の桃を剥きはじめる。
「冷たくておいしー。」
「はい。綾波。」
「ありがとう。」
レイが微笑む。
「シンちゃん、私にも。」
ビールを片手にミサトがいう。
「わかってます。ちょっと、待っててくださいね。」
ミサトが、シンジの手元を見ている。
「はい。」
「サンキュー。」

「「「「ごちそうさまでした。」」」」
アスカが立ち上がる。
「これからまたゲームするけど、ファースト、する？」
「私、そろそろ帰らないと。」
「そう。じゃ、また明日。Ａｕｆ ｗｉｅｄｅｒｓｅｈｅｎ！」
「ええ。」
アスカがダイニングを出ていく。
「碇君。」
「なに？」
「お水、もらえる？」
「うん。」
シンジがコップに水を汲む。
「はい。」
「ありがとう。」
レイが、コップを持って、ダイニングを出ていった。
「じゃ、私は、部屋にいるから。」
「はい。」
ミサトがダイニングを出ていった。

シンジが、ホットプレートをしまい終えたところだった。
「碇君。」
レイの声がした。
シンジが振り返ると、鞄を持ったレイがいた。
「ああ、ちょっと待ってて、送るから。」
「．．．」
シンジは、自分の部屋に戻り、財布を持ってリビングへと歩き出した。
ミサトの部屋の前で立ち止まる。
「ミサトさん、綾波、送ってきます。」
「わかったわ。遅くなったり、泊まる時は電話してね。」
「ミ、ミサトさん！」
扉が開く。
「冗談よ、じょ・う・だ・ん。それとも、図星かな？」
ミサトが悪戯っぽく微笑む。
「もう、止めてくださいよ。」
「照れない照れない。私も玄関まで送るわ。」
「もう。」
二人がダイニングへ歩き出す。

「綾波、お待たせ。」
レイがダイニングに立っていた。
「行こうか。」
「ええ。」
玄関で靴を履く。
「じゃ、いってきます。」
「いってらっしゃい。レイ、また明日。」
「はい。」
 

レイの住む団地

月が出ていた。
昼間の工事の音もせず、風の音だけがしていた。
涼しげな風が流れる。
階段を上り、綾波の住む階へ。
足音が鈍く響く。
レイの部屋の前。
「じゃ、今日は、ありがとう。」
「．．．ありがとう。」
「じゃ、また明日。」
シンジは微笑むと、階段の方へと歩き始めた。
「碇君。」
レイの声がした。
「何？」
シンジが振り向くと、レイが歩いてきた。
レイがシンジを見ている。
「目、つぶって。」
「え？うん。いいけど。」
シンジが目を閉じると、レイがシンジの唇に唇を重ねた。
シンジが目を見開く。
レイが唇を離す。
レイが目を開けた。
「あの．．．綾波？」
シンジが、顔を真っ赤にしながら言う。
「さっきのお返し．．．」
ほんの少し微笑みながら、レイが言う。
「さよなら。」
そう言って、レイがドアの中に消えた。
シンジはその場に、暫く立ち尽くしていた。
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日曜の午後 Genesis 0:2 完 

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