プシュー。

タッタッタッタッ。

ドアの閉まる音がしたあと、駆けていくアスカの靴音が響く。
シンジは、シャツに頭を通しながら、それを聞いていた。

日曜日。シンクロテストが早く終わり、午後は自由となった。
「アスカ、委員長と、どこか行くのかな。」
ワイシャツのボタンを留めながら、シンジが呟く。
「お昼、どうしようかな。ミサトさん、今日も忙しいみたいだったし．．．」
シンジが、バックを肩にかけ、更衣室を出る。

プシュー。

女子更衣室の扉が同じ音を立てた。
シンジが見ると、レイが更衣室から出てきたところだった。
「あ。」
シンジが呟く。
レイがシンジを見る。
沈黙が流れた。

「さよなら。」
レイが歩き出そうとする。
「綾波？」
シンジが、やっと口を開く。
レイが振り向いた。
「なに？」
「お昼．．．一緒に食べない？」
レイがシンジを見る。
少しの間の後、レイが口を開く。
「いいわよ。」
シンジが、ほっとしたような顔をする。
「カフェテリアでいいかな？」
「ええ。」
シンジは、なんとなく、レイが微笑んだような気がした。
 

カフェテリア

シンジが、とんかつ定食ができるのを待っていた。
「へい、お待ち。」
「ありがとう。」
シンジが、定食の載ったトレイを持って、キャッシャーを通る。
「ありがとうございました。」

シンジが、カフェテリアの中を見まわす。
シンジが、テラスへのドアに歩き出した。

プシュー。

シンジがテラスに出る。
レイが、柵のそばのテーブルで空を見ていた。
「綾波。」
レイがシンジを見る。
シンジがレイの向かいにトレイを置き、椅子に腰を下ろした。
レイのトレイには、サンドイッチと、ミルクの入ったコップが置かれていた。
「ごめんね。待たせちゃって。」
レイが静かに首を振る。
「食べようか。」
レイが頷く。
「いただきます。」
「いただきます。」
レイが、サンドイッチを取り、口に運んだ。

「綾波は、このあと、どうするの？」
シンジがカツを口に運びながら言う。
「宿題をするつもり。」
レイが答える。
「そう．．．」
沈黙が流れた。

「どこでするの？」
シンジが口を開く。
「図書室。」
レイが答える。
「ここの？」
「ええ。」
「そう。」
沈黙が流れた。

「一緒にしていいかな．．．」
シンジが口を開く。
レイがサンドイッチを取る。
「ええ。」
レイがサンドイッチを口に運んだ。
「ありがとう。」
シンジが呟く。
レイがシンジを見た。
 

図書室

図書室には、ほとんど人影がなかった。
それほど大きなものでもなく、蔵書も、普通の図書館と大して違わない、一般書籍中心のものである。
レイとシンジがノートパソコンのキーボードを叩く音が響いていた。

ふと、シンジがレイを見ると、レイがシンジを見ていた。
「．．．どうしたの？」
「ただ見ていただけ。なんでもないわ。」
「そう．．．」
シンジが、また、ノートパソコンの画面を見始めた。

「やっと、終わった。」
シンジが、腕を上げて、背伸びをする。
レイが、読んでいた本を閉じる。
「ごめん。つき合わせちゃって。」
シンジが、ノートパソコンを閉じながら、言う。
「ううん。」
レイが本を鞄に入れる。
「さよなら。」
そう言って、レイが立ちあがった。
「うん。今日は、ありがとう。」
シンジが言う。
レイが図書館を出ていった。

レイが通路を歩いていた。
「綾波！」
後ろからシンジが駆けてくる。
レイが振り向く。
「綾波．．．
  はぁ、はぁ、はぁ．．．」
シンジが肩を上下している。
レイがシンジを見ていた。
「綾波．．．夕飯、どうするの？」
シンジが、息を整えながら言う。
「カフェテリアで何か食べるわ。」
レイが答えた。
「それじゃ、さ、家に来ない？」
「．．．」
「ね、３人分も４人分も変わらないから。」
「．．．」
「だめ、かな。」
シンジが、俯きながら言う。
「いいわよ。」
シンジが顔を上げて、微笑む。
「よかった。それじゃ、ちょっと待っててくれる？荷物取ってくるから。」
「ええ。」
レイがシンジを見ていた。
 

地下鉄

地下鉄特有の騒音が流れていた。
シンジとレイが、前を見て座っている。

「綾波って、いつも、夕飯とかどうしてるの？」
シンジが、少し大きな声で言う。
「いつもって？」
レイが前を見たまま言う。
「学校に来たときとか。」
シンジが向かい側の窓ガラスに映ったレイを見ながら言う。
沈黙が流れた。

「肉嫌いだから。」
唐突にレイが口を開く。
「．．．」
「コンビニのサラダとか、野菜サンドとか、ラーメンとか、おにぎりとか。」
「．．．」
「本部に行くほうが多いし。」
「．．．」
「食べないこともある。」
沈黙が流れた。

「そうなんだ。」
シンジが言う。
レイは、窓ガラスを見ている。
「今日は何がいい？」
「．．．」
「肉はダメだから．．．そうだね．．．」
「．．．」
「魚もダメなの？」
「ええ。」
「そっか．．．」
シンジが、頭の後ろに手を組んで、天井を見上げた。

シンジが口を開く。
「お昼に食べてた、サンドイッチ、野菜サンド？」
「ええ。」
レイが答える。
「卵は食べられるんだ。」
「少しなら。」
「そう。」
シンジが腕組みをして考えている。

地下鉄が止まった。
「碇君。」
レイが口を開く。
シンジがレイを見る。
「何？」
レイが、立ちあがる。
シンジが、窓の外を見た。
「あ！降りなくちゃ。」
「ええ。」
レイが微笑んだ。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
日曜の午後 Genesis 0:0 完 

日曜の午後 Genesis 0:1へ

Evaメニューに戻る