「リツコさんのこと？」
「ああ。」
「リツコさんは、リツコさんでしょう？」
「．．．」
「マヤさんも、リツコさんだと思ってるみたいだし。」
「．．．」
「．．．」
「そうか。」
そう言うと、ゲンドウは、浴場に入っていった。
シンジも、靴下を籠に入れて、浴場に入っていった。

ゲンドウが頭を洗っていた。
シンジも頭を洗い始めた。

シンジが顔を洗い終わると、ゲンドウは、すでに浴場にいなかった。
「これで、いいんだよね．．．綾波．．．」
シンジが呟いた。

シンジが浴場を出ると、脱衣所にも、ゲンドウはいなかった。
「早く、夕飯作らないと。」
そう呟いて、シンジは、服を身に着け始めた。
 
 

マヤが、リツコを見ていた。
「私は、汚れているから．．．」
その言葉を、頭の中で繰り返していた。
重苦しい空気が流れた。

「先輩？」
マヤが沈黙を破る。
「何。」
リツコが床を見たまま答える。
「先輩は、司令を．．．愛してるんですか？」
マヤがリツコを見ながら問う。
「ええ。」
リツコが床を見たまま答える。
「殺されたのに？」
マヤがリツコを見据える。
「ええ。」
リツコが床を見たまま答える。
悲痛な表情で、目を逸らすマヤ。
沈黙が流れた。

「食堂に行ってます。」
マヤが呟いた。
「ええ。」
リツコが呟く。
マヤが踵を返し、ランドリーを出ていった。
リツコは、床を見ていた。

しばらくして、シンジがランドリーに入ってきた。
「リツコさん？」
シンジがリツコに話し掛ける。
リツコがシンジを見る。
「シンジ君。」
リツコが口を開く。
「夕飯できましたけど。」
シンジが言う。
「そう。ありがとう。」
リツコが立ち上がる。
シンジがリツコを見ている。
「どうしたの？」
「いえ、別に。」
「そう。」
リツコがシンジに微笑む。
『ありがとう。碇君。』
シンジの頭の中で声が聞こえた。
シンジがリツコに微笑む。
「行きましょう、リツコさん。」
シンジが歩き出す。
「ええ。」
リツコも歩き出した。

リツコとシンジが食堂に入ると、ゲンドウとマヤがテーブルについていた。
テーブルの上には、それぞれ、ご飯とハンバーグ、わかめの酢の物とお味噌汁が置かれていた。
リツコとシンジがテーブルにつく。
「お待たせ。」
シンジが言う。
「いただきます。」
シンジが言った。
皆が箸を動かし始める。
沈黙が流れた。

「シンジ。」
ゲンドウが口を開く。
「はい。」
シンジが、箸を置いて、ゲンドウから茶碗を受け取り、ご飯をよそっていく。
「はい。」
シンジがゲンドウの前に茶碗を差し出す。
ゲンドウが、無言で茶碗を受け取り、また食べ始める。

「「「「ごちそうさまでした。」」」」
シンジが食器を片し始める。
「失礼する。」
ゲンドウが席を立った。食堂を出て行く。
リツコとマヤが見ていた。
「先輩？」
マヤが口を開く。
「何？」
リツコがマヤを見る。
「何か、甘いもの食べません？」
「あるのかしら。」
「シンジ君、知らない？」
食器を持って、調理場に行こうとしていたシンジがマヤを見る。
「何か、缶詰があったと思いますけど。」
「食料庫？」
「ええ。」
マヤがリツコを見る。
「探しに行きましょう？」
マヤが微笑む。
「ええ。だけど．．．」
マヤが真顔になる。
「シンジ君？！」
リツコが、少し大きな声を出す。
「はーい。」
シンジが調理場から答える。
「コーヒーはないのかしら？」
「あー、ちょっと分かりません。」
「分かったわ。ありがとう。」
リツコがマヤを見る。
「コーヒーもタバコもなしじゃ、商売あがったりだわ。」
リツコが苦笑いする。
「けど、先輩は、少し控えた方が健康にいいと思います。」
マヤが微笑んだ。
「悪かったわね。」
リツコが、少し怒ったような顔をする。
「ごめんなさい、先輩。」
ちょっと申し訳なさそうな顔をするマヤ。
「冗談よ。」
リツコが微笑む。
マヤが微笑んだ。

食料庫の中をリツコとマヤが歩いている。
「どの辺りかしら。」
マヤが言う。
「マップがありそうなものだけど。」
リツコが言う。
「普通、入り口に置かないかしら。」
リツコが続ける。
「そうですね。戻ってみます？」
マヤが言う。
「ええ。」

入り口に戻ると、ドアの内側に大雑把な配置図が貼られていた。
「この辺りかしら。」
リツコが、ある一角を指差す。
「結構広いですよ、そこ。」
「そうね。けれど、とりあえず、行ってみましょう。」
「はい。」
リツコとマヤが歩き出した。

並んでいる棚の一番端に、配置図が貼られていた。
「この列みたいね。」
リツコが入っていく。
マヤが後ろからついていく。

「何にする？」
リツコがマヤに聞く。
「パインとか。」
「そう。」
リツコがパインの缶詰を手に取った。
「行きましょうか。」
「はい。」

歩き始めたリツコに、マヤが声をかける。
「先輩？」
「何？」
歩きながらリツコが答える。
リツコの背中に硬いものがあたった。
リツコが足を止める。
「マヤ？」
リツコが振り返ろうとする。
「動かないで！」
マヤが、大きな声を出す。
「マヤ？」
リツコが、少し掠れた声で言った。
「私と死んでください。」
マヤが、抑揚を押さえた声で言う。
「な．．．」
「．．．」
「何を言ってるの？」
「これ以上．．．
　これ以上、先輩が汚れるのは、嫌なんです！
　だから。だから！」
「．．．」
「だから、私と．．．」
「．．．」
「私と．．．死んでください．．．」
マヤが目線を落とす。
「マヤ？！」

ダンッ。

リツコが前に倒れる。
白衣が赤く染まっていく。
「先輩．．．」
マヤがリツコを見ながら呟く。
「私も．．．すぐに行きますから。」
マヤが銃をこめかみにあてる。
マヤが引き金を引き絞る。

ダンッ。

マヤが倒れた。
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モニターのこちら側 Genesis 5:8 完 

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