「シャワーを浴びてくる。」
シェルターの階段を降りたところで、ゲンドウが言った。
「うん。」
シンジが言った。 

衣料庫の前でゲンドウと別れると、シンジは食堂に歩いていった。
食堂に入ると、マヤが椅子に掛けていた。
マヤの前に包みが３つと、水筒が３つあった。
マヤがシンジを見る。
「シンジ君。」
シンジがマヤの前の椅子に腰を下ろす。
「司令は？」
シンジがマヤを見る。
「シャワーを浴びてます。」
「そう。」
沈黙が流れた。 

「シンジ君。」
シンジがマヤを見る。
マヤが視線をテーブルに落としていた。
「ごめんね。」
マヤが呟いた。
沈黙が流れた。 

「見てたんですか。」
シンジが呟く。
「ええ。」
マヤが呟いた。
沈黙が流れた。 

「マヤさんを殺しても、綾波が生き返るわけじゃないから。」
シンジが呟く。
マヤがシンジを見た。
シンジが、テーブルを見ていた。
「フォース・インパクトを起こしたら、綾波に会えるかもしれませんね。」
シンジが冷たい目でマヤを見る。
マヤが目を見開いて、シンジを見た。
マヤが目線をテーブルに落とす。
「．．．そうしたい？」
沈黙が流れた。 

「いいえ。」
シンジが呟く。
「あれは違うと思うから．．．」
「．．．」
「あれは違うと思ったから．．．」
「．．．」
「これでいいんですよ。」
「．．．」
「マヤさんのせいじゃない。」
「．．．」
沈黙が流れた。 

靴音が響いた。
「遅くなった。すまない。」
ゲンドウが言う。
「いいえ。」
マヤが言う。
ゲンドウが、マヤとシンジ、そしてテーブルの上を見る。
「行こうか。」
「はい。」
マヤが言った。 

外に出ると、すでに日差しが強くなっていた。
「昼前には、着かないわね。」
マヤが言う。
「今日は、芦ノ湖往復だけで終わりかもしれんな。」
ゲンドウが言った。
シンジがおもむろに傘を開く。
ゲンドウとマヤもそうした。 

１時間程歩いて、芦ノ湖の見える高台に着いた。
「休んでもいい？」
シンジが言う。
「ああ。」
ゲンドウが言った。
シンジが、鞄からビニールシートを取り出し、敷いていく。
シンジがシートに腰を下ろした。
ゲンドウとマヤもそうした。
シンジが、水筒を鞄から出す。水筒の口を開けて、水を飲んだ。
ゲンドウも、そうした。
マヤは、しばらく二人を見ていたが、水筒の口を開けて、水を飲んだ。 

シンジがマヤを見ていた。
「どうしたの？」
視線に気づいて、マヤが言う。
「いいえ、何も。」
シンジが言う。
「そう。」
マヤが言う。
沈黙が流れた。 

「何で、はじめ、水を飲まなかったのかな、と思って。」
シンジが呟く。
「．．．」
マヤがシンジを見た。
さらにシンジが呟く。
「毒でも入れたのかと思って。」
マヤがシンジを見つめる。
「シンジ君？」
「はい。」
「それ．．．」
シンジが、マヤを見ている。
「ううん．．．
  何でもない．．．
  何でもないよ．．．」
マヤが俯く。
シートに涙が落ちた。 

「行こうか。」
ゲンドウが言う。
「うん。」
シンジが呟いた。
「いいかね？」
ゲンドウがマヤを見る。
「はい。」
俯いたまま、マヤが呟いた。
３人が立ち上がり、シンジがシートを畳んで、鞄にしまう。
３人が歩き出した。 

１時間ほど歩いて、芦ノ湖に着いた。
相変わらず赤い湖。
「飯にしようか。」
ゲンドウが言う。
「うん。」
シンジが鞄からビニールシートを取り出し、砂浜に敷いていく。
シンジがシートに腰を下ろした。
ゲンドウとマヤが腰を下ろす。
３人がそれぞれ、おにぎりと水筒を出して、食べ始めた。 

３人とも、芦ノ湖を見ていた。
量産機や、巨大なレイの残骸は、いつのまにか消えていた。
『何かが起こっている。』
シンジは、ふと、そう思った。 

「２時間後に、ここに戻ってきてくれ。」
ゲンドウが言う。
「俺は、右の方に行くから、伊吹君とシンジは、左の方に行ってくれ。」
「了解しました。」
マヤが答える。
「．．．すまないが、頼む。」
ゲンドウが呟いた。
「．．．いいえ。」
マヤが呟いた。 

シンジとマヤは、ゲンドウが歩いていくのを見送っていた。
「シンジ君？」
マヤがシンジを見る。
「．．．」
シンジがマヤを見た。
「あの．．．」
マヤの言葉が途切れた。
沈黙が流れた。 

「ごめんなさい。マヤさん。」
シンジが、芦ノ湖を見ながら言った。
「．．．」
マヤがシンジを見た。
「おかしなこと言って。」
「．．．」
沈黙が流れた。 

「行きましょうか。マヤさん。」
シンジがマヤを見た。
「うん。」
マヤが微笑んだ。 

１時間後。
白い砂浜に敷かれたビニールシートに、シンジとマヤが腰を下ろしていた。
「誰もいないわね。」
「そうですね。」
「すべて、破壊されているし。」
「．．．」
沈黙が流れた。 

「ね。」
マヤが呟く。
「．．．」
シンジがマヤを見た。
「キス、したことある？」
「．．．」
沈黙が流れた。 

「ええ。」
シンジが呟く。
「そう。」
マヤが呟いた。
沈黙が流れた。 

「そろそろ戻ろうか。」
マヤが言う。
「そうですね。」
そう言って、シンジが立ち上がる。
マヤも立ち上がった。
シンジが、シートを畳み、鞄に入れる。
「行きましょう？」
マヤが微笑んだ。 

シンジとマヤが、元の場所に戻ると、ゲンドウが、ビニールシートに腰を下ろしていた。
「父さん？」
シンジが言う。
「シンジか。」
ゲンドウが答えた。
「どうだった？」
「見事に破壊されているな。」
そう言って、ゲンドウは、芦ノ湖に視線を移した。
シンジがゲンドウの脇に腰を下ろす。
その脇にマヤが腰を下ろした。 

「そろそろ戻るか。」
しばらくして、ゲンドウが言った。
「そうですね。」
マヤが言う。
３人が立ち上がり、ゲンドウが、シートを畳んでいく。
ゲンドウがシートを鞄に入れた。
「行こうか。」
「はい。」
マヤが答える。
３人が歩き出した。 

バシャッ。 

３人の背後で水音がした。
３人が振り返る。 

バシャッ。バシャッ。バシャーン。 

３人の方に歩いてきていた人が倒れた。
水の中に入っていくゲンドウ。
「先輩？」
そう言って立ち尽くすマヤ。
シンジは、ゲンドウを見ていた。 

ゲンドウに肩を借りて歩いてくるリツコ。
ゲンドウとリツコが、シンジとマヤの前で足を止める。
リツコがマヤを見る。
「久しぶりね。マヤ。」
リツコがシンジに目線を移す。
「久しぶりね。シンジ君。」
シンジがリツコを見る。
「あなた、誰ですか？」
マヤがリツコを見て言う。
「何のこと？マヤ。」
怪訝な顔をするリツコ。
「あなた、レイなんじゃないの？」
「マヤ。何を言っているのか分からないわ。」
「補完計画が始まった時、私の前には、先輩の姿をしたレイが現れて、抱きしめられて、そして．．．」
リツコがゲンドウから手を離し、マヤの前に歩を進める。
リツコがマヤを抱きしめた。
「先輩？」
「そして？」
「ＬＣＬになりました。」
「久しぶりね。マヤ。」
「先輩．．．先輩．．．う．．．先輩！
  う．．．うわぁぁああぁぁ．．．」
「泣くことないじゃない。マヤ。」 

しばらくして、マヤが泣き止んだ。
「戻ろうか。」
ゲンドウが言う。
「はい。」
マヤが言った。
３人が歩き始める。
ゲンドウ、そしてリツコとマヤが歩き始める。
シンジは、リツコを見ていた。
リツコとマヤが、シンジの横を通り過ぎた瞬間、シンジの頭の中で、懐かしい声が聞こえた。 

『ただいま。碇君。』 

シンジが振り向くと、マヤと並んで歩くリツコが、顔を半分、シンジの方に振り向けていた。 

リツコの半顔には、艶然とした微笑みが浮かんでいた。
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