「９時半までみたいだね。大浴場に、露天風呂に、クアハウスに、プールか．．．」
シンジがページをめくりながら言う。
「クアハウスっておもしろそう。」
レイが、観葉植物がたくさん置かれた写真を見て言う。
「水着を着て入るんだ。」
「プールみたいなところね。」
「そうだね。けど、９時半だと、今日は、ちょっと大変かな。」
「そっか。そうね。じゃあ、明日のお楽しみかな。」
「そうだね。海から少し早めに帰ってくるとか。」
「うん。」
「あ。けど、花火とかする？」
「あ。それもいいな。」
「うーん。前の川は、ちょっとダメそうだし。どうしようかな。」
「じゃあ、食べたら、海に行って、花火する？」
「そう．．．ちょっと不安な感じはするけどね。」
「そう。」
「ごめん。まあ、夕飯食べてからにしよう。」
「うん．．．」
シンジが、お茶を飲む。
レイもそうした。
沈黙が流れた。

しばらくすると、仲居さんが、料理を運びこんできた。
「お飲み物は何にいたしましょう？」
茗荷の添えられた小さな寿司、うにと野菜、酢の物を、お膳に並べながら言う。
シンジが、レイを見た。
レイが、シンジを見る。
「じゃあ、僕は、ウーロン茶。」
「私も。」
「かしこまりました。」
仲居さんが、出ていった。

二人が、料理を眺めていると、仲居さんが戻ってきた。
「お待たせしました。」
大き目のコップに入れられたウーロン茶が二人の前に置かれた。
そして、海老の造り、揚げ茄子、鮎の冷やし煮浸し、鱒を焼いたもの、そして、鯛の船盛り、蕎麦の器が置かれた。
「あと、デザートがありますので。何かありましたら、お電話をお願いします。」
仲居さんが言う。
「はい。」
「失礼します。」
仲居さんが出ていった。

「食べる？」
シンジが聞く。
「うん。」
レイが軽く頷きながら言う。
「じゃあ、いただきます。」
「いただきます。」
シンジが、寿司を口に入れる。
「うん。」
シンジが、うにに箸を伸ばした。
レイも寿司を口に入れる。
「おいしいね。」
レイが、シンジに微笑んだ。

「ちょっと多いかな。」
蕎麦をすすって、レイが言う。
「そうだね。けど、旅館の夕飯って、こんな感じだよ。」
シンジが答える。
「旅館、前にも泊まったことあるの？」
レイが、シンジを見る。
「ああ。うん。中学生のころにね。」
「そうなの。」
レイが、寂しそうな複雑な表情をする。
「あ．．．ごめん。」
シンジが呟く。
「あ．．．ううん。ごめんね。そのときは誰と行ったの？」
「そのころ、僕の保護者役だった人と、あと、中学の頃にしていたあることの都合で、その保護者役の人の家に、一緒に住んでいた女の子とだよ。」
「そうなの。」
レイが、お膳に視線を落とす。
「二人とも、死んでしまったけど。」
レイがシンジを見る。
「．．．ごめんね。」
そう言って、レイが、左下に視線をそらした。
「ん？ああ。別に、気にしなくていいよ。」
「そう．．．」
レイが、呟いた。

「４０２号室の碇ですけど。あの、食事、終わりました。」
『はい。それでは、デザートをお持ちしますので。』
「はい。」
シンジが、受話器を置いた。

「失礼します。」
仲居さんが入ってきた。
「お待たせしました。」
仲居さんが、お膳に、メロンを置く。
「それでは、ごゆっくり。」
シンジが、軽く頭を下げる。
仲居さんが出ていった。

「花火、する？」
シンジが、メロンにスプーンを入れながら言う。
「うん。」
レイが、メロンにスプーンを入れながら答えた。
 

フロント

「すみません。車のキーを貰えますか？」
部屋の鍵を渡しながら、シンジが言う。
「かしこまりました。」
フロント係が、キーを戻し、車のキーを取って、シンジの前に置く。
「どうぞ。」
「どうも。それで、花火をしたいんですけど．．．」
「花火ですか。海に行かれますか？」
「ええ。この辺では無理だと思うので。」
「そうですね。飛ばないものならできますが。」
「そうですよね。それで、どこで買えます？」
「街中のコンビニがいいと思います。地図はいりますか？」
「あ、はい。お願いします。」
「どうぞ。」
「ありがとう。」
「いいえ。いってらっしゃいませ。」
フロント係が頭を下げる。
シンジがレイを見る。
レイが、シンジを見て頷いた。
 

セブンイレブン 湯河原駅前店

「どれにする？」
シンジが、花火の棚の前に立って、レイを見る。
「うん。シンジが好きなのでいいよ。」
レイが、花火を見ながら言う。
「あんまり種類ないから．．．」
シンジが、打ち上げが多く入った花火を取った。
「あと一つ、レイが取ってよ。」
「うん。じゃあ、これ。」
レイが、手持ちの花火が多く入った花火を取った。
「ＯＫ。じゃあ、あと、これかな。」
シンジが、ロケット花火の袋と線香花火の袋を取る。
「うん。」
レイが呟いた。
 

湯河原海水浴場

浜辺には、何台か車が止まっていて、花火をやっている人達もいた。
「そんな遅くなかったみたいね。」
レイが言う。
「そうだね。」
シンジが答えた。

シンジが、空缶にロケット花火を刺し、ライターで火をつける。

ヒュー。パン。

ロケット花火が、小さく火の粉を飛ばして消えていく。
レイが、同じようしてにロケット花火に火をつける。

ヒュー。パン。

ロケット花火が、小さく光った。
 

シュッ。シュッ。シュッ。

打ち上げ花火が、次々に色の変わる光りを打ち上げていく。

シュッ。パンッ。

打ち上げ花火が、上で丸く広がった。

「綺麗ね。」
レイが言う。
「そうだね。」
シンジが答えた。
 

シュー。

手持ち花火の炎の色が赤、青、緑と変わりながら、音を立てる。

シュー。

ドラゴンが白い光りを吹き上げる。

「これが一番綺麗かも。」
レイが、そう言って、シンジの手を握った。
「そうだね。」
シンジが、レイの手を握り返した。

チリチリチリチリパチパチ。

線香花火が光りの玉の形を変えながら音を立てていく。
二人が、その様子を見ていた。
波の音が聞こえていた。

「じゃあ、行こうか。」
立ち上がって、シンジが言う。
「うん。」
レイも立ちあがった。
「あ！」
レイが声をあげる。
「え？」

ドカッ。

「ウ．．．」
シンジがうめいて、その場に倒れこんだ。
シンジの後ろから背広を着た男が現れた。
「あ．．．」
レイが、その男を見る。
「一緒に来ていただきましょうか。」
レイが、その男を見ていた。
「はい。」
少し悲しげな諦めたような表情で、レイが頷いた。
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モニターのこちら側 Genesis 5:50 完

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