「目が覚めたようだね。碇シンジ。」
キールの声がした。
シンジが目を開けると、周囲に、赤い文字の浮かんだ墓標のようなものが並んでいた。
「．．．」
周囲を見まわすシンジ。
「そうか。君と直接会うのは初めてだな。我々は、以前、君の父上と、ある計画を進め、そして、君にサード・インパクトを起こさせた者だ。セカンド・インパクトを起こしたのも、我々だよ。」
「人類補完委員会？」
シンジが呟く。
「知っているのか。」
ほんの少し驚いたような、笑いを含んだ声がした。
「．．．」
「今の、この姿の時は、ゼーレと言う。」
「．．．」
「そして、我々は、今から、新たな儀式を行うのだよ。君を使って。」
シンジから少し離れたところに、新たなスポットライトがあたり、そこに、レイの姿が浮かび上がった。
「レイ！」
シンジが声をあげる。
「彼女に君を殺してもらう。」
声が、そう言った。
『え？』
シンジが、虚を突かれたように、目を見開いて、レイを見る。
レイが、銃を構える。
『本気みたいよ。』
頭の中でレイの声がした。
「何故？
  何のために？
  レイ．．．？」
シンジが、うろたえた表情で言う。
レイが、銃を構えている。
沈黙が流れた。

「私．．．記憶を取り戻したいの．．．」
レイが呟く。
「．．．」
シンジが、レイを見ていた。
「シンジ．．．サード・インパクトを起こしたんでしょう？」
「．．．」
シンジが、目を見開く。
「私の記憶は、サード・インパクトでなくなったの．．．」
「．．．」
「今まで、色んなことをしてきたの。けど、ダメだった。」
「．．．」
「そしたら．．．フォース・インパクトを起こせば、戻せるかもしれないって．．．」
「．．．」
「なくしたものを、呼び戻すことができるんでしょう？」
「！」
「だから、だから、シンジに近づいて、そして、そして．．．」
「．．．」
シンジが、やりきれないような、悲しそうな表情をする。
「だから．．．死んで．．．私のために．．．」
レイが、目を伏せる。
シンジが俯き、目を閉じた。
『綾波？』
『何？』
『ごめん．．．』
『．．．』

「できないよ．．．」
小さな声がした。
シンジが目を開ける。
レイの頬に、涙が流れていた。
レイが、シンジの脇に駆け寄り、鎖に銃口をあてる。
「鎖を切るから！逃げて！」
レイが言う。

ダン。

銃声がして、そして、それにはじかれるように、レイが倒れた。
「レイ？！」
シンジが、倒れたレイを見て、思わず、叫ぶ。
レイは、倒れたまま、動かなかった。
『綾波？』
『ごめんね．．．碇君．．．』
『綾波？！』
『．．．』
『綾波！！！！！』
『．．．』
『綾波！！！！！！！！！！！！！』

「あ．．．」
シンジの目に涙が浮かぶ。
「やはり、彼女には、無理だったようだな。」
シンジが、正面の墓標を睨み付ける。
「しかし、彼女は、ほどなく復活するのだろう？」
墓標から声がした。
「．．．」
「そのとき、君が死んでいれば、彼女は、フォース・インパクトを起こすのではないのかね？君を復活させるために。」
「．．．」
シンジが歯軋りをする。
周囲の墓標から、声がし始める。
「新たな補完の時。」
「リリスの本来の意志による人類の再生。」
「全ての生命が『死』をもってひとつに。」
「今度こそ、我々の願いがかなう。」
「死に給え。碇シンジ。」

『綾波．．．』
『．．．』
『ごめん．．．』
『．．．』

ダン。
ガキィ。
キン。

銃声がした瞬間、枷の弾け飛ぶ音と、弾丸のはじかれる音がした。

「何？！」
墓標が声をあげる。
十字架の前にうずくまるシンジの周囲に、ＡＴフィールドが展開していた。

「ＡＴフィールド？！」
墓標から、うろたえた声がした。

シンジが、顔を上げて、前を見る。
「ＡＴ．．．フィールド？」
驚いた表情のシンジの顔、そして体の輪郭がぼやけ、次の瞬間、蒼髪、紅眼で、白い肌の女性の姿になった。
「リリス？！」
墓標が声をあげる。
レイが、無表情に墓標を見ていた。
「やはり、そこにいたのか。」
キールが呟く。
次の瞬間、部屋の中の人間が、そして、世界各地では、ゼーレのメンバーがＬＣＬ化し、衛星軌道上のエヴァシリーズが、活動を停止した。

レイが立ちあがり、倒れているレイに近づく。
『僕は、彼女に会ったことがある気がする。』
『そう．．．』
『彼女は．．．』
『．．．』
『．．．』
『人は、自分からは逃げられないわ。』
『．．．』
『．．．』
『そう．．．』

倒れているレイが、ＬＣＬ化した。

レイが踵を返し、そして、歩き出す。
『綾波？』
『何？』
レイの姿が、シンジの姿に戻った。
『もう会えないの？』
『．．．』
『．．．』
『さっき、碇君は、死んでいたわ。』
『．．．』
『．．．』
『けど、会いたいんだ．．．』
『考えておくわ。』
『．．．』
シンジが、部屋から出た。
 

この後、シンジは、戦略自衛隊での訓練に身を入れ、大学卒業後、戦略自衛隊に入り、戦闘訓練を受け、何度かの実戦に参加した。その後、国連に入り、ゲンドウや冬月の助言を受けて、次々と足場を固めていった。
 

その数年後。

「おめでとうございます。碇課長。」
「ありがとう。」
シンジは、人脈の助けもあって、異例に早い昇進をしていた。
「何年かしたら部長ですね。」
「だといいけどね。」
軽く笑いながら部下に応対するシンジ。
「それで、明日は休むので、よろしく。」
「分かりました。」
「それじゃ、お先に。」
「お疲れ様でした。」
 

翌日 第２新東京市 共同墓地

ミサトの墓の前で、シンジが、手を合わせていた。
シンジが、人の近づく気配を感じ、その気配の方を見ると、蒼髪、紅眼で、白い肌の女性が立っていた。
二人の間に、軽い緊張が流れる。
「碇君。」
レイが口を開く。
「綾波．．．」
シンジが、レイを見つめたまま、口を動かした。
「ただいま。碇君。」
レイが、シンジを見つめる。
「おかえり。綾波。」
シンジが微笑んだ。
 
 
 

数十年後

ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。

心電図が規則正しく音をたてていた。
「現在、生命維持装置で、心臓は動いていますが．．．」
シンジの主治医がレイに言う。
「回復の見込みは？」
レイが聞く。
「残念ながら．．．」
主治医が、シンジを見ながら答えた。

『あなた？』
『．．．』
数日前、シンジが自宅で倒れ、ここ、国連病院に運ばれた直後は、シンジから返事があったが、その後、返事はなくなっていた。
「分かりました。外してください。」
レイが言う。
「分かりました。」
主治医が、何か、看護婦に指示する。

ピッ。ピッ。ツー。

心電図から、連続した音が聞こえた。
主治医が、シンジの目蓋を開き、ペンライトの光りをあてる。
ペンライトを消し、ポケットに入れた。
「ご臨終です。」
「はい．．．」
「機械を取り外しますので、しばらく、外へ。」
「はい．．．」

レイは、病院の外に出ると、携帯を取りだし、短縮ボタンを押した。
『はい。』
「碇です。今、夫が亡くなりました。」
『ご愁傷様です．．．』
 
 

２ヶ月後 松代 長国寺

シンジの四十九日の法要が営まれていた。

チーン。

住職が、御鈴を鳴らし、本尊に向かって、ふかぶかと何度も頭を下げて、下がり、脇に歩いていって、参列者の方を見た。
「えー。俗名碇シンジ様の四十九日の法要をご奉仕させていただきました。この法要で、碇シンジ様が、仏様になられたということで、位牌も白木の位牌から黒い位牌になりまして．．．」
 
 

碇邸

レイが、仏壇に向かい、ゲンドウの位牌の隣にシンジの位牌を置く。
線香に火をつけ、手を合わせた。
レイが、目を開け、手を下ろし、窓の外を見た。
レイが微笑む。

「あなたの夫も、あなたの息子も死んだわ。」

「お疲れ様。」

次の瞬間、レイの姿が、ぼやけて、そして、あのころの姿になった。
レイが虚空を見つめる。
「さよなら。」
レイが姿を消した。
 
 
 
 
 
 

『あなた．．．』
 

『あ．．．．．．綾波？』
 

『ただいま。碇君。』
 
 
 
 
 
 
 

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モニターのこちら側 Genesis 5:x 完

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