マヤが、制御室のドアの前の廊下の壁にもたれていた。
「どうする？．．．」
マヤが呟いた。 

しばらくして、マヤは、広間に歩き出した。
シンジのいる広間の入り口の前に立つマヤ。
シンジがアスカを見ていた。 

コンコン。 

マヤが、入り口の脇の壁を叩く。
シンジがマヤを見た。
「マヤさん？」
マヤはシンジに微笑むと、広間の中に歩を進め、シンジの脇に腰を下ろした。
シンジがマヤを見る。
マヤがアスカを見た。
「私、ここに寝ていいかな。」
マヤが口を開いた。
「．．．」
シンジがマヤを見ている。
「．．．」
沈黙が流れた。 

「どうしてですか？」
シンジが口を開く。
「碇司令に犯されたくないから。」
「！」
シンジが目を見開いてマヤを見る。
マヤがシンジを見る。
「司令と先輩が、男と女の関係だったのは、知ってるんでしょ？」
「ええ。」
マヤがアスカに視線を移す。
「私、今、松代のマギの占拠を断ってきたの。」
「．．．」
「司令のことだから、多分、私のこと、先輩と同じように．．．」
「ひどい事言うんですね。」
マヤがシンジを見る。
シンジがマヤを見ていた。
「．．．」
シンジがアスカに視線を移す。
「まあ．．．仕方ないのかな．．．」
シンジが呟いた。
「．．．」
沈黙が流れた。 

「それで、もし、そうなったら、どうするつもりなんですか？」
シンジがアスカを見ながら呟く。
「シンジ君を盾にするわ。」
マヤがアスカを見ながら呟く。
「．．．そうですか。」
「．．．」
「けど、寝ている所を襲われたら？」
「そしたら．．．司令を殺して、私も死ぬわ。」
「．．．そうですか。」
沈黙が流れた。 

「その前に、私を殺す？」
マヤが口を開いた。
「．．．さあ．．．」
シンジが呟いた。
沈黙が流れた。 

「シンジ君．．．」
シンジがマヤを見る。
マヤがシンジを見ていた。
「いいかしら．．．」
シンジがアスカに視線を戻す。
「．．．ええ。」
シンジが呟いた。 

マヤが布団を敷いている間、シンジは、あいかわらずアスカを見ていた。
マヤが布団に横になる。
「シンジ君、寝ないの？」
「できるだけ、綾波を長く見ていたいから．．．」
「．．．そう。」
「．．．」
「おやすみなさい。」
マヤが言った。
「おやすみなさい。」
アスカを見たままシンジが言った。 

「ん．．．」
マヤが目を醒ますと、時計は７時を回っていた。
シンジは、もういなかった。
隣の布団には、アスカが横たわっていた。
布団から出て、アスカの脇に腰を下ろすマヤ。
「アスカ．．．」
そう呟くと、マヤは、しばらくアスカを見ていた。 

「私も死ぬのかな．．．」
そう呟いて、マヤは、おもむろに立ち上がった。
マヤが広間を出て行く。 

マヤが食堂に入ると、ゲンドウが朝食を取っていた。
「おはようございます。」
マヤがゲンドウに声をかける。
「おはよう。」
ゲンドウが、箸を止め、マヤを見て言った。
ゲンドウが、また箸を動かしはじめる。
マヤは、調理室に歩を進めた。
マヤが、調理室を覗くと、シンジがマヤを見て言った。
「おはようございます。朝ご飯、食べますよね？」
「ええ。ありがとう。」
「いま、よそいますから。」
シンジが、ご飯を茶碗によそっていく。
マヤがシンジの耳に口を近づける。
「昨日は、ありがとう。」
マヤがシンジに囁く。
「いいえ。別に、何もしてませんから。」
シンジが低く呟く。
シンジがマヤを見る。
「この後、昨日みたいに、芦ノ湖に行きますけど、マヤさんは、どうします？」
マヤがシンジを見る。
「一緒に行くわ。」
「分かりました。じゃ、これ。」
シンジが、海苔とサケの缶詰とご飯の載ったトレイを差し出す。
「ありがとう。」
マヤが微笑んだ。 

マヤがゲンドウの前に立つ。
「ここ、いいですか？」
「ああ。」
ゲンドウがメモを見ながら答えた。
マヤがトレイを置き、椅子に腰を下ろす。
「いただきます。」
そう言って、マヤが箸を動かし始めた。
「この後、芦ノ湖、行かれるんですか？」
「ああ。ただし、レイを埋葬するのが先かもしれん。」
「．．．そうですね。」
「シンジが何と言うかが問題だが。」
「そうですね。」
「．．．」
「．．．」
沈黙が流れた。 

「ごちそうさま。」
そう言って立ち上がると、マヤはトレイを持って、調理室に歩を進めた。
調理室では、シンジがおにぎりを作っていた。
「マヤさん、お昼に、おにぎり、いくつ食べます？」
「そうねえ、３つかな？」
「分かりました。」
マヤが流しの脇にトレイを置き、茶碗を洗いはじめる。
「シンジ君？」
「はい。」
「アスカ、何時、埋葬するの？」
「．．．」
沈黙が流れた。 

「あまり長く置いておくことはできないわよ。」
「．．．そうですね。」
「まあ．．．分かるけど．．．」
「．．．」
水音だけが流れていった。 

マヤが食器を洗い終えると、シンジもおにぎりを作り終えたようだった。
「少し、二人きりにさせてもらえますか？」
「ええ。」
シンジが、調理室を出ていった。
マヤが、調理室を出て、ゲンドウの前に立った。
「お別れをしにいったようです。」
ゲンドウがマヤを見る。
「すまない。」
マヤがゲンドウを見た。
「いいえ。」 

シンジがアスカを見ていた。
「綾波．．．」
シンジがアスカの脇に横になり、アスカに口付ける。
シンジがアスカの頬に手を当てる。手を頬から首筋、肩、そして胸に滑らせる。
しばらく胸に手を置いたあと、脇を滑らせ、お腹から、股の付け根に手を動かした。
シンジが、アスカから唇を離す。
「綾波。」
シンジが、アスカの髪に手を伸ばす。
アスカの髪の毛を一本つまみ、抜こうとする。
その手が、髪の毛を離した。 

シンジがアスカを見ていた。
シンジがアスカの髪を手で梳かす。
「さよなら。」
シンジが呟いた。 

ゲンドウが、校庭の脇に穴を掘っていた。
シンジが、アスカを抱えてくる。
「父さん。」
ゲンドウがシンジを見る。
「いいのか？」
「うん。」
「そうか。」
ゲンドウが、さらに穴を掘る。
しばらくして、ゲンドウがシンジに言った。
「いいぞ。」
「うん。」
シンジがアスカを抱えあげ、ゲンドウに手渡す。
ゲンドウがアスカを穴の底に横たえ、穴から出る。 

ゲンドウがアスカを見ていた。
シンジは、穴の脇に跪いて、アスカを見ていた。
「レイ．．．」
ゲンドウが呟く。
「チクショウ．．．」
シンジが呟いた。
「チクショウ、チクショウ、チクショウ！！！！」
シンジが土を叩く。
土に涙の跡がついた。 

ゲンドウがアスカに土をかけていく。
シンジがアスカを見ていた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
モニターのこちら側 Genesis 5:5 完 

 モニターのこちら側 Genesis 5:6へ

Evaメニューに戻る