御殿場を出て、少しすると、電車は、川沿いを走るようになった。
シンジとレイがボックス席に座っていた。
「結構空いてるね。」
レイが言う。
「そうだね。」
シンジが、そう言って、窓の外を見た。
夏の日差しが、弱まってきていた。

「シンジ？」
レイが呟く。
「何？」
シンジが、レイを見た。
「ありがと。」
レイが、窓の外を見たまま呟いた。
「ううん。」
そう言って、シンジも、窓の外に視線を移した。
 

国府津駅

二人が、ホームの椅子に座って、電車を待っていた。
「海の匂いがする。」
レイが呟く。
「そうだね。」
シンジが、前を見たまま答えた。
「海、近いの？」
「うん？ちょっと待って？」
シンジが、ガイドブックを取り出し、眺めだす。

「そうだね。ほんの２、３分で海みたいだよ。」
シンジが、ガイドブックから目を上げて、海のある方を見る。
「そうなの。」
レイも、シンジの見ている方を見た。

「湯河原に着いたら、海、見に行かない？」
レイが口を開く。
「いいよ。」
シンジが、レイを見て、微笑んだ。
 

東海道線 列車内

「次は、根府川。根府川。」
「根府川．．．」
車内に流れるアナウンスを聞いて、シンジが呟いた。
列車が、ホームに入り、そして停車する。
シンジが、窓から、ホームを見ていた。
ドアが閉まり、列車が動き出した。
「根府川か．．．」
小さくなっていくホームを見ながら、シンジが呟いた。

「次は、湯河原。湯河原。」
車内にアナウンスが流れる。
「レイ。」
そう言って、肩にもたれて寝息を立てているレイを少しゆすった。
「ん．．．」
レイが、眠そうにシンジを見る。
「もうすぐ着くよ。」
シンジが微笑む。
「うん。」
レイが微笑んだ。
 

湯河原駅前

湯河原温泉行きのバス停に、二人が並んでいた。
「海、行く？」
シンジが言う。
「宿は、海の近くなの？」
レイが、シンジを見る。
「ううん。逆の方向なんだ。」
「そうなの．．．」
「ごめん。」
「海に行くのは、どうするの？」
「バスで行こうかと思ってたけど．．．」
「そう．．．」
レイが、前を向いた。
シンジが、アスファルトを見ていた。

「そうだね．．．」
シンジが口を開く。
「．．．」
レイが、前を見ていた。
「レンタカー、借りようか。」
シンジが、レイを見る。
レイがシンジを見た。
「いいの？」
「うん。その方が色々便利そうだし。」
「うん。」
「じゃあ、そうしよう。」
シンジが微笑む。
レイが微笑んだ。
 

レンタカー店前

「いってらっしゃい。」
店員が言う。
シンジとレイが軽く頭を下げる。
車が動き出した。
「とりあえず、海に行く？
  宿にも、そろそろ行かないといけないんだけど、日が暮れそうだから。」
シンジが、前を見たまま言う。
「うん。ちょっとだけ。」
レイが、シンジを見て答えた。
 

数分、街中を走り、川を渡ると、右側に海が広がった。
夕日が沈もうとしていて、辺りは、赤い色に染まっていた。

少し走って、海の家が途切れたあたりに、車を止める。
「降りる？」
シンジが言う。
「うん。」
そう言って、レイが、ドアロックに手をかけた。

レイが、波打ち際に立って、海を見ていた。
夕方のせいか、人影はまばらだった。

歩いてきたシンジが、レイの横に並んで立つ。
「海、はじめて見た。」
レイが口を開く。
「そう。」
シンジが呟いた。
「けど、はじめてじゃないような気がする。」
「．．．」
「はじめてじゃないのかもしれない．．．」
「．．．」
レイが、シンジの手を取り、強く握った。
シンジが、レイの手を握り返す。
「うん．．．」
「．．．」
沈黙が流れた。

日が沈んで、空の色が、朱色から紫色に変わりだす。
どこかから、ロケット花火の音が聞こえてきた。
「そろそろ行こうか。」
シンジが口を開く。
「うん。」
レイが呟いた。
 

大滝ホテル フロント

「いらっしゃいませ。」
前に立ったシンジ達に、フロント係が言う。
「あの、予約した碇ですけど。遅くなって、すみません。」
シンジが言う。
「先ほど、ご連絡いただいた碇様ですね。承っております。お二人様、今日から２泊でよろしいでしょうか？」
「はい。」
「では、こちらに、ご記入お願いします。」
フロント係が、宿泊者カードとボールペンを、シンジの前に差し出した。
「はい。」
ボールペンを取り、シンジが枠を埋め始めた。

「はい。」
シンジが、カードをフロント係の方に出す。
「ありがとうございます。それで、申し訳ありませんが、お車のキーをお預け願えますか？」
「はい。」
シンジが、キーをポケットから出して、差し出す。
「申し訳ありません。では、ご案内いたしますので。」
「こちらです。」
シンジ達が振りかえると、仲居さんとおぼしき女性が、軽く頭を下げていた。
「はい。」
 

４０２号室

「こちらです。」
仲居さんが、ドアを開ける。
「どうぞ。」
「はい。」
シンジが、そして、レイが部屋に入る。
お膳の脇に座椅子が置かれていた。
仲居さんが、お茶を入れ始める。
シンジとレイが、荷物を置いて、座椅子に腰を下ろした。
「どうぞ。」
仲居さんが、お茶を差し出す。
「どうも。」
シンジがお茶に口をつける。レイもそうした。
「夕食は、すぐでよろしいでしょうか？」
仲居さんが言う。
「あ、はい。すみません。」
シンジが答えた。
「それでは、すぐに用意しますので。」
「はい。」
「それでは、失礼します。」
「はい。」
仲居さんが、部屋から出ていった。
シンジが、レイを見る。
レイが、シンジを見ていた。
「お疲れ様。」
レイが微笑む。
「お疲れ様。」
シンジが微笑んだ。
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モニターのこちら側 Genesis 5:49 完

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