| −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− レイコが、視線を、バックミラーから、前方に戻す。 「確か、気がついたら、病院のベッドの上だったのよね。」 「はい。」 レイが答える。 「じゃあ、聞く方が間違ってるわ。ごめんなさいね。」 「いいえ。」 「報告には、なんて書いてあったかな．．．」 車内に沈黙が流れる。 「確か、細かい場所は書いてなかったような気がするわ。」 レイコが口を開く。 「そうですか。」 レイが、少し気落ちした感じで答える。 「まあ、湖畔だったとは思うから、巡回ルートを聞いてみて、そこを歩いてみるのもいいかもね。」 「そうですね。」 沈黙が流れた。 街を抜けて、しばらく、畑や林の中を走っていると、湖が見えてきた。 湖畔を走っていく。 「ここは？」 シンジが口を開く。 「山中湖。結構綺麗でしょう？」 レイコが答えた。 「そうですね。」 レイが口を開く。 「富士山があるせいか、他に道がないのよね。距離的には、１／４位かな。」 「そうなんですか。」 「うん。」 レイコが、前を見たまま答えた。 湖畔を少し走ったところで、右に曲がり、また、林の中を走っていく。 途中、畑や、カントリークラブの緑が目に入った。 しばらく走ると、街中に入ってきた。 「家が多くなってきましたね。」 シンジが口を開く。 「御殿場よ。」 レイコが口を開く。 「ああ．．．そうなんですか。」 「ええ。あと、１／４くらいかな。」 「そうですか。」 沈黙が流れた。 御殿場の市街を抜けると、カーブが多くなり、高度を上げていくようになった。 その間、何回かゲートを通り、そのたびに、レイコが、許可証を見せていた。 トンネルを抜けると、湖が見えた。 『．．．』 『綾波？』 『何？』 『戻ってきたよ。』 『そうね。』 『．．．』 少し走ると、パーキングエリアが見えた。 「あ、止めて貰えますか？」 シンジが言う。 「え？ええ。」 レイコが、要領を得ない感じで、ブレーキを踏み、車を、パーキングに寄せた。 「どうしたの？」 レイコが聞く。 「ここ、何度か来たことがあるんです。」 「そう。」 「ここが、その、パーキングエリア？」 レイが口を開く。 「うん。そう。」 シンジが、レイを見て、答えた。 「降りる？」 レイコが、バックミラーを見ながら言う。 シンジが、レイを見る。 レイが頷いた。 「じゃあ、少しだけ。」 シンジが、バックミラーを見て言った。 「了解。」 後部座席のドアが開いた。 シンジとレイが、柵の近くに並んで、湖を見ている。 「こんな感じなんだ。」 レイが口を開く。 「うん。前は、高いビルがあったりする街だったんだけど。」 シンジが呟く。 「そう．．．」 レイが呟いた。 シンジとレイが、車に戻ってくる。 ドアが開いた。 レイとシンジが、車に乗りこみ、ドアを閉める。 「いい？」 レイコが聞く。 「ええ。」 シンジが答えた。 「了解。」 車が動き出した。 街に下りていくと、途中、第壱中学校の前を通った。 「あの．．．」 シンジが口を開く。 「ああ。はい。」 レイコが、車を歩道に寄せて止めた。 「ここに、通ってたの？」 レイコが聞く。 「はい。まだ、残ってるんですね。」 「そうね。封鎖されているから、単に放置されているわ。壊されることもない。」 「そうなんですか。」 シンジが、中学の中を見ていた。 「．．．」 レイが、中学と、シンジを見ていた。 「降りてみる？」 「入れないですよね？」 「まあ、そうね。」 「いえ。いいです。」 「了解。じゃあ、行くわね。」 「あ、そしたら、家の前も通ってもらえますか？」 「いいわよ。ナビしてくれれば。」 「はい。」 車が動きだした。 コンフォート１７マンション前 「ここに住んでたの？」 レイが口を開く。 「うん。」 シンジが、マンションを見上げながら呟く。 「そう．．．」 レイが呟いた。 シンジが、車に乗りこみ、ドアを閉めた。 「いい？」 レイコが言う。 「はい。」 シンジが答えた。 「あの．．．」 レイが口を開く。 「何？」 レイコが、バックミラーを見る。 「私が住んでいたところも、あるんですか？」 シンジが、レイを見た。 「．．．」 レイが、シンジを見る。 『どうする？』 『見せるしかないんじゃない？』 「うん．．．」 「見てみたいな。」 シンジが、レイコを見る。 「いいわよ。ナビしてくれる？」 「はい。」 マンモス団地前 「ここに？ 私が．．． 住んでたの？」 レイが、驚きの表情を浮かべて団地を見ていた。 「うん．．．」 シンジが答える。 「．．．」 レイが、団地を見ている。 「昔の綾波は、とても無口だったんだ。」 「．．．」 「そして、ちょっと、普通とちがってた。」 「．．．」 「多分、部屋に入れるから、行ってみる？」 レイがシンジの方を見る。 レイが頷いた。 ４０２号室 「この部屋．．．」 レイが呟く。 剥き出しのコンクリートに、パイプベッド。すすけた天井。チェスト。冷蔵庫。 以前と同じ光景が、そこにあった。 「．．．人の住んでたところ？」 レイが呟く。 「うん．．．」 シンジが呟く。 「．．．」 沈黙が流れた。 「私、あそこに住んでたのかな。」 階段を降りながら、レイが言う。 「昔のレイは、髪の色とか、目の色、肌の色が、レイとは違ってた。」 シンジが言う。 「．．．」 「多分、違う人なんだと思うよ。」 「そう．．．」 シンジが、レイの手を握った。 「うん．．．」 レイが、シンジの手を握り返した。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− モニターのこちら側 Genesis 5:47 完 |