「んん．．．」

ふとんが動いて、レイが、シンジの方を見る。
「おあよう。」
あくびを押さえながら、レイが言った。
「おはよう。」
シンジが、微笑む。
「ね。」
レイが、目を閉じて、唇を少し突出すようにする。
苦笑しながら、シンジが、レイの唇に唇を重ねた。
『おはよう。綾波。』
『おはよう。碇君。』
 

シンジがトーストを食べていた。
「今日は、どうするの？」
レイが聞く。
「ん？」
口を動かしながらシンジが、レイの方を見た。
「夜。シンジの家？それとも私の家？」
シンジが、ミルクティーで、トーストを飲みこむ。
「今日の夜、トウジと会う約束してるんだ。多分、そんなに長くならないと思うけど。」
「あ、昨日の電話、その話だったの？」
「うん。話しがあるって。」
「そうだったんだ。」
「うん。」
「そう。」
「ちょっと遅くなってもよければ、家に来ててもらっていいけど。」
「うん。分かった。待ってる。」
「ごめん。」
「ううん。」
レイが、トーストを口に入れる。
シンジも、そうした。
 

第２東京大学 ３６号館 １０１教室

「それでは、終わります。」
教授の言葉を受けて、そこかしこで、椅子を動かす音や、教科書やノートを鞄に入れる音、そして話し声が聞こえ始める。
「今日は、これで、終わりっと。」
レイが、微笑みながら言う。
「そうだね。」
シンジが、微笑みながら答える。
「帰ろう。」
「うん。」
シンジとレイが、椅子から立ちあがった。
 

地下鉄 列車内

「鈴原さん、何の話しあるのかな？」
少し大きな声でレイが言う。
「なんだろうね。」
シンジが、少し大きな声で言う。
「そう。」
レイが、前に向き直って呟く。
「．．．」
シンジが、前のガラスに写るレイを見ていた。

「それじゃ、後で。」
そう言いながら、レイが、立ちあがる。
「うん。」
シンジが、微笑みながら、レイに手を振る。
レイが、微笑みながら、手を振った。
『またね。』
『ええ。』
列車のドアが閉まった。
 

戦略自衛隊 松代駐屯地 資料室

シンジがドアを開けると、まだ、青葉と日向が端末に向かっていた。
二人が、シンジの方を見て、小さく頷く。
シンジは、軽く頭を下げて、席につき、端末を立ち上げた。
 

長野駅 ２０５７

トウジが、改札の前に立っていた。
「トウジ。」
近づいてきたシンジが、声をかける。
「おう。シンジ。」
トウジが、シンジを見て答えた。
「こんな遅くにごめん。」
「いや、呼び出したのは、わいのほうやさかい。」
「ごめん。」
「とりあえず、どこか入ろうや。」
「うん。」
 

ロイヤルホスト

ドリンクバーで、飲み物をいれてきたカップを置いて、シンジとトウジが椅子に座る。
トウジが、ウーロン茶の入ったカップに口をつけた。
シンジが、トウジを見ている。
シンジも、カップに口をつけた。
沈黙が流れた。

「それで、話しって．．．」
シンジが口を切る。
「．．．」
トウジが、カップを置いてシンジを見た。
「多分、分かってる思うけど、あの、綾波レイの話しや。」
「うん。」
「あの女、どこからきたんや？」
「ちょうど２年くらい前に、戻ってきたって、聞いたけど。」
「聞き方がわるかったかもしれん。あの女、何者なんや？」
「難しい質問だね。名前以外、憶えてないらしいし。」
「それしか知らんのか？」
「トウジ．．．」
シンジが、耳を寄せるように、というジェスチャーをする。
トウジが耳を寄せた。
「人工進化研究所に保護されているらしい。」
トウジが、驚いたような表情で、シンジに向き直る。
シンジが、また、耳を寄せるように、というジェスチャーをする。
トウジが耳を寄せた。
「トウジの前にも、あの時、綾波が現れたの？」
トウジが、シンジに向き直る。
「そうや。」
「そう。」
シンジが視線を逸らす。
「ワイが、何言いたいか分かるか？」
「あからさまに、怪しいってことでしょ？」
「ああ。」
「分かってるよ。戦自の上司にも、罠だって言われてる。」
「ならなして．．．」
シンジが、トウジを見る。
「逃げられそうにないから。」
「！」
トウジが、驚いたような表情をして、そして、悲しげな、諦めたような表情になった。
シンジが、視線を落とす。
沈黙が流れた。

「あの時、僕は、結局、何もしなかった。いや、人を殺すのが怖くて、何もできなかったんだ。」
シンジが呟く。
「．．．」
「けど、それで、アスカは、ミサトさんも、死んでしまったんだ。綾波も、いなくなってしまった。」
「．．．」
「そういうのは、もう嫌なんだ。」
「．．．」
「逃げられないんだったら、逃げちゃ駄目なんだよ。」
「．．．」
「だから、」
「分かった。」
シンジが、トウジを見る。
トウジがシンジを見ていた。
「もお、ええ。」
「トウジ。」
「そこまで、覚悟してんなら、もう何も言うことはない。」
「．．．」
沈黙が流れた。
 

地下鉄 列車内

「そいじゃ、わいは、ここやから。」
そう言いながら、トウジが立ちあがる。
「うん。」
シンジが、トウジを見上げて言う。
「シンジ。」
「何？」
「死ぬなよ。」
「うん。」
「ほいじゃ。」
「うん。それじゃ。また。」
「ああ。」
トウジが、右手を上げて、列車を降りていった。
シンジも、右手を上げて、トウジを見送った。
ドアが閉まり、列車が走り出した。
 

メゾン松代

鍵を開けると、奥から明かりが漏れてきた。
「ただいま。」
ドアを閉めながら、シンジが言う。
「おかえりなさい。」
奥から、レイがでてきた。
「ごめん。ちょっと遅くなっちゃった。」
「ううん。お風呂入っちゃったし。」
「そう。じゃ、僕も入ろうかな。」
「うん。ね．．．」
レイが目を閉じる。
「うん。」
シンジが、レイの唇に唇を重ねた。
 

「ね．．．」
シンジの隣りに横になっているレイが呟く。
「何？」
シンジが答えた。
「鈴原さん、何て？」
「ああ。レイが、あんまり、昔のレイに似てるから、何者なのかって。」
「そう。」
「まあ、レイが、戻ってきたときに、色々調べられたのの、知り合い版みたいな感じかな。」
「そんなに気になるものなのかな。」
「なるみたいだね。」
「シンジも気になる？」
「うん。好きになってしまうくらいに。」
「フフ。シンジ．．．」
レイの唇が、シンジの唇を塞いだ。
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モニターのこちら側 Genesis 5:41 完

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