『うれしかった．．．よ．．．レイ．．．て．．．呼んで．．．くれて．．．
  キ．．．ス．．．して．．．く．．．』 

「綾波．．．」 

シンジが、アスカの顔に顔を近づけ、唇を合わせる。
目を閉じるシンジ。 

シンジが唇を離す。
シンジがアスカを見た。
「冷たいんだ．．．」 

シンジがアスカの胸に触れ、そして、アスカの胸に耳を押しあてる。
アスカの胸の冷たさから、しんとした音が聞こえた。
「綾波．．．」
シンジの目から涙が流れた。
 

シンジが、ふと視線を感じて部屋の入り口を見ると、マヤが立っていた。
「あ．．．夕ご飯、食べる？」
マヤが、ばつの悪そうな顔をして、言う。
「あ．．．」
言葉を失うシンジ。呆然としてマヤを見ていた。
マヤもシンジを見ている。
沈黙が流れた。
「ご、ごめんね。邪魔して。」
マヤが、立ち去ろうとする。
「マヤさん？」
シンジが口を開く。
「はい？」
裏返った声で答えながら、マヤがシンジを見る。
「．．．」
「．．．」
沈黙が流れた。 

「なぜ、殺したんですか？」
アスカを見ながら、シンジが呟く。
「．．．」
「．．．」
「使徒だからよ。」
俯いたまま呟くマヤ。
「．．．」
「自分の形を失った世界を導く使徒だからよ。」
「．．．」
「他の人の、そして、自分の見たくない所を見せる使徒だからよ。」
低く声を荒げるマヤ。
「．．．」
沈黙が流れた。 

「やさしかったんだ。」
シンジが口を開く。
「．．．」
「僕が、アスカって呼んだら、アスカの真似までしてくれた。」
「．．．」
「僕が、レイって呼んだだけで、あんなに．．．」
「．．．」
「喜んで．．．」
「．．．」
マヤが、シンジを見ていた。 

シンジが、不意に立ち上がり、マヤの方に歩き出す。
マヤは、シンジを見ていた。
シンジがマヤの前に立つ。
「マヤさん．．．」
そう呟いて、シンジが、銃を構えた。
「あ．．．」
後退るマヤ。
シンジが歩を進める。
「人間も、使徒なんですよ．．．」
息を呑むマヤ。
「だから．．．」
廊下の壁にぶつかるマヤ。
「あ．．．」
目を見開くマヤ。
シンジが引き金を引く。 

ダーン。 

マヤが、耳をふさいだまま、崩れ落ちる。
 

座り込んで、すすり泣いているマヤ。
マヤを見ているシンジ。
「ごめんなさい．．．マヤさん．．．」
シンジが呟く。
マヤのすすり泣く声が、シェルターの廊下に響いていた。 

しばらくして、マヤが泣き止んだ。
「シンジくん．．．」
そう呟いて、マヤがシンジを見た。
「はい。」
シンジが呟く。
「ごめんね。」
マヤが俯いた。
「．．．」
「．．．」
沈黙が流れた。 

「夕飯、食べましょうか。」
シンジが呟く。
「．．．」
マヤがシンジを見た。
「．．．」
シンジがマヤに微笑む。
「そうね．．．」
マヤがシンジに微笑んだ。
シンジがマヤに手を伸ばす。
マヤがシンジの手をつかみ、立ち上がった。 

食堂には誰もいなかった。
入り口の近くのテーブルにカレーが２つ置かれていた。
「父さんは？」
「呼びに行ったときはいたけど．．．もう、食べて行っちゃったみたいね。」
「そう。」
「ごめんね。カレー、冷めちゃった。」
「いいえ。僕が悪いんですから。」
「．．．」 

シンジとマヤが、カレーの置かれたテーブルの椅子に腰をおろす。
マヤがシンジを見る。
シンジがマヤを見た。
「『いただきます』って、します？」
唐突にシンジが言う。
「え？ああ。ええ。」
マヤが苦笑いする。
「それじゃ。」
「「いただきます。」」
シンジがマヤを見る。
マヤが微笑んだ。
「食べましょう？」
マヤが言った。 

「「ごちそうさま。」」
シンジが、食器を片しはじめる。
「あ、私が．．．」
「あ．．．けど、僕がやりますよ。マヤさんが作ってくれたんだし。」
「そう？」
「それに、その方が気が紛れるし。」
「そう．．．」
シンジが食器を持って調理場に入っていく。
マヤも、後から調理場に入っていった。 

シンジが食器を洗うのを、マヤが見ている。
「シンジ君、いつも食事当番だったんだっけ？」
「いつもじゃないですよ。」
苦笑しながらシンジが答える。
「けど、僕が当番のことは多かったですね。
  ミサトさんも．．．アスカも．．．料理しないから。」
「そう。」
沈黙が流れた。 

「マヤさんは、料理は？」
「一応。けど、ネルフに入ってから、そんな時間なかったし。」
「そうですか。」
「．．．」
「もう、終わったのかな。」
「終わったんだといいね。」
「．．．」
沈黙が流れた。 

「お風呂、入りました？」
シンジが手を拭きながら問う。
「ええ。シャワーだけど。」
「そうですか。父さんは？」
「分からないけど、松代のマギを使いたいみたいだったから．．．」
「そうですか。」
「．．．」
「それじゃ、僕、シャワー浴びますから。」
「ええ。」
そう言って、シンジは、調理室を出ていった。
マヤも、シンジの後について調理室を出た。 

「それじゃ、適当な部屋を使ってください。」
「ええ。」
シンジとマヤは、食堂の前で別れた。
シンジは、浴場の方へ、マヤは、広間の方へ歩き出した。
シンジが浴場に入ったのを見届けて、マヤは武器庫に入り、銃を取った。 

マヤは、制御室の前に立っていた。
制御室のドアをノックする。
しばらくして、ドアが開いた。
「待っていたよ。」
ゲンドウが言う。
ゲンドウが踵を返し、部屋の中に歩を進める。
マヤが後を付いていく。
部屋には、モニターが並び、端末が何台かあった。
ゲンドウが椅子に腰を下ろし、マヤを見る。
「シンジが、手荒なことをして、すまなかった。」
「いいえ。」
「それで、マギの件なんだが．．．」
「．．．」
「．．．」
「フォースインパクトを起こそうという魂胆なんじゃ、ありませんか？」
マヤがゲンドウを睨む。
「．．．」
ゲンドウがマヤを見る。
「．．．」
沈黙が流れた。 

ゲンドウが、マヤから視線を外す。
「ユイに追い返されたんだよ。」
「．．．」
「責任を取ってこいと。」
「．．．」
「でなければ、戻っては来ない。」
「．．．」
「ま、信じる信じないは、君の勝手だ。」
「．．．」 

ゲンドウがマヤを見る。
「私には、マギを扱うことはできない。だから、君が断れば、私は何もできない。しかし、君以外にもマギを扱える者は存在する。彼らがフォースインパクトを起こそうとする、もしくはフォースインパクトを起こそうとする者に利用される可能性はないわけではない。それを防ぐために動いてもらうことはできないかね？」 

「先輩のように、力ずくで？」
マヤがゲンドウを睨む。
ゲンドウがマヤを見る。 

「分かった。」
そう言って、ゲンドウは、マヤに背を向けた。
「すまなかった。伊吹マヤ君。」
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モニターのこちら側 Genesis 5:4 完 

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