「サードチルドレンとシックスチルドレンの接触はうまくいったようだな。」
「黒き月は、人類の中に偏在している。」
「地球的規模のフィールドの展開が必要だ。」
「エヴァシリーズの再構成、急がせるべきでは？」
「リリスの召還のために慎重を期すべきだ。」
「時を逸してはならない。我々には時間がないのだ。」
「スケジュールには変更の要を認めず。
  次回の会合は、追って連絡させていただく。以上。」 
委員らの映像が、次々に消えていく。 

キールの前のモニターに栗色の髪の綾波レイの映像が表示されている。
「何を考えている。リリス。」
そう呟いて、キールの映像が消えた。 
        
 

戦略自衛隊 松代駐屯地 資料室

「おはようございます。」
「おはよう。」
「おはよう。」
シンジが資料室に入ると、いつものように、青葉、そして日向が先に来て端末に向かっていた。
シンジは、机に鞄を置いて、端末のスイッチを入れ、椅子に腰を下ろした。
電話から受話器を取り、結城レイコの番号を押す。

『はい、結城です。』
「あの、碇ですけど。」
『おはよう。』
「あ、おはようございます。あの、今、伺ってもいいですか？」
『いいわよ。』
「じゃ、伺います。」
『はい。それじゃ。
  ガチャ。』

シンジが受話器を置いて、資料室を出ていく。
 

コンコン。
「どうぞ。」
部屋の中から、レイコの声がした。
「失礼します。」
シンジが、ドアを開け、そして閉める。
「すみません。急に。」
レイコがシンジを見る。
「いいえ。それで、どうしたの？」
「ええ。」
そう言いながら、シンジが、レイコの前の椅子に腰を下ろす。
「彼女は、人工進化研究所の所属のようです。」
「そうらしいわね。少し監視してもらったんだけど。」
「そうですか。」
レイコが、端末の方に体を向け、マウスを操作する。
「けど、記録は、ほとんどないわ。シンジ君も調べたと思うけど。」
「．．．」
「彼女を最初に収容したのは、私達だけど、すぐに国連から引渡し要求が来て、そのまま引き渡してる。」
「．．．」
「私達も、当時、その名前に不審なものを感じて、彼女について、遺伝子も含めて調査したけど、特に変わったことはなかったわ。」
「．．．」
「サードインパクト前に、彼女に該当する人がいないという点を除いては。」
シンジが、少し目を見開いて、レイコを見る。
「それって．．．」
レイコが、首をひねってシンジの方を見る。
「怪しいのよ。状況的には、彼女は、あの綾波レイである可能性が高いの。」
「．．．」
レイコが、端末の方を見る。
「それで、国連から引渡し要求がきたんだけど。」
「．．．」
「そこから先は、私達には分からないわ。国連が、彼女に何を望んで、何をしたのか。」
レイコが、シンジの方に向き直る。
沈黙が流れた。

「それで、他には、何か分かった？」
レイコが口を開く。
「いいえ。」
「そう。まあ、私に分かる、というか、戦自で分かるのは、このくらいだと思うけど。」
「そうですか。」
「うん。まあ、気をつけて、としか言えないわ。」
「はい。」
「．．．」
「．．．」
「他には何かある？」
レイコが、シンジを見る。
シンジが、レイコを見た。
「．．．彼女は、綾波というより、母に似ているような気がするんですけど。」
「碇ユイ．．．
  彼女は、あの中にいるんでしょう？」
「ええ．．．」
「．．．綾波レイも、一応、彼女の遺伝子を持っているのよね？」
「そうだと思います。」
レイコが視線を落とす。
「まあ、一応、それも含めて調べてもらうようにするけど、あまり期待しないほうがいいかもね。」
「．．．」
「ま、いいわ。他には何かある？」
レイコが、シンジを見る。
「あの．．．」
シンジが、レイコを見る。
「何？」
シンジが、ばつの悪そうな表情で、口を開く。
「女の人って、誕生日のプレゼントとか、何がうれしいんですか？」
「は？」
レイコが、要領を得ない感じで聞き返す。
「いえ、あの、綾波の誕生日、いえ、本当のところは分からないらしいんですけど、戻ってきた日を誕生日にしてるらしくて、それで．．．」
「はーん。なるほど。」
レイコが、納得したような悪戯っぽい表情を浮かべる。
「ええ．．．」
シンジが、少し顔を赤くして俯いた。
「そうねえ。」
レイコが、ニヤニヤしながら、シンジを見る。
「まだ、会ってから、そんなに経ってないみたいだから、小さ目の花束とかにしたら？」
「はい．．．」
「あんまり高そうじゃないものがいいわよ。」
「はい。」
「がんばって。」
レイコが微笑む。
「．．．はい。」
シンジが、顔を赤くした。
 

何度目かのベルが鳴った。
「行きますか。」
「ああ。」
青葉と日向が立ちあがる。
シンジも立ちあがった。

空いている席に腰を下ろすと、誰からとも無く、定食に箸をつけ始めた。
コロッケとメンチカツにキャベツの千切り、長芋のあえもの、そして漬物が付いていた。シンジが、味噌汁に口を付けた。

「彼女とは、うまく行ってる？」
日向が口を開く。
シンジが、日向を見た。
日向が頷く。
「ええ．．．まあ、それなりに。」
「そう。今朝、結城さんと話したのは、その件？」
「ええ。分かったこととか、調べてもらったこととか。ちょっとだけ。」
「そう．．．」
「．．．」
沈黙が流れた。

「行きますか。」
青葉が言う。
日向とシンジが頷いた。
 

敷地内の歩道を、三人が歩いていた。
「昨日、父さんと冬月さんに会ったんです。」
シンジが、口を開く。
「何か言ってた？」
日向が言う。
「受験の報告に行ったから。」
「．．．」
「おめでとうって。」
「．．．」
「それで、綾波のことも言ったんですけど。」
「．．．」
「周りの人とよく相談するようにって。」
「そう。」
シンジが、日向を見る。
日向は、前を見ていた。
沈黙が流れた。

「あの．．．」
シンジが口を開く。
青葉と日向がシンジの方を見た。
「彼女の誕生日が近いんですけど、プレゼントって何がいいんでしょう？」
シンジが、少し俯いて言う。
「そうだねえ。」
日向が言う。
「受け取りやすいものがいいと思うよ。」
「．．．」
「欲しいと言ってたものとか、一緒に買うとか．．．」
「そうですか。」
「まあ、あんまり参考にならないかもしれないけど。」
シンジが、日向を見る。
日向が、少し遠くを見るような目をしていた。
 

昼のシフト終了のベルが鳴った。
「それじゃ、お先。」
「お先。」
青葉と日向が席を立つ。
「お疲れ様でした。」
シンジが端末を落としながら言う。
シンジが立ちあがった。
 

メゾン松代

『ＲＲＲ．．．ＲＲＲ．．．ガチャ。
  はい、綾波です。』
「碇と申しますが、レイさん、いらっしゃいますか？」
『あ、碇君、こんばんわ。』
「こんばんわ。あのね？」
『うん．．．』
「誕生日のプレゼント、特に欲しいものとかある？」
『えー、そうだな．．．』
電話の向こうでレイが考えている。

『綾波？』
『何？』
『プレゼント、何がいい？』
『碇君と会えれば、それでいいわ。』
『．．．』
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モニターのこちら側 Genesis 5:30 完

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