芦ノ湖に、何か小さな影が浮かんだ。それは、だんだんと岸に近づいてきて、姿を現した。 
人がシンジ達の方に歩いてくる。 
シンジとアスカは、その人影を見つめていた。 
人が、シンジ達の前で歩を止める。 

「無事だったのか、シンジ。」 
「．．．」 
「そうか．．．」 
「父さん．．．」 
ゲンドウがアスカを見る。 
「惣流君。君も無事だったのか。」 
アスカがゲンドウを見る。 
「父さん？」 
シンジが、口を開く。 
「なんだ？」 
「綾波なんだ．．．姿はアスカだけど。」 
「？」 
ゲンドウがアスカを見る。 
「．．．」 
「そうか．．．」 
沈黙が流れた。 

「他に、人はいないのか？」 
ゲンドウがシンジに問う。 
「うん。見てない。」 
「今は、どこにいるんだ？」 
「学校のシェルターが生きてたから、そこに。」 
「そうか．．．」 
ゲンドウが、シンジから視線を外し、遠くを見て、口をつぐむ。 
沈黙が流れた。 

「あの、父さん？」 
「なんだ。」 
「あの．．．シートとか、おにぎりとか、水があるけど．．．」 
「ああ．．．いや、まず、そのシェルターに行こう。」 
「分かった。」 
そう言って、シンジが、そしてゲンドウとアスカが歩きはじめる。 

ザバッ。 

背後で水音がした。 
シンジ達が振り返る。 

ザバッ。ザバッ。 

人が歩いてくる。 
「マヤさん．．．」 
シンジが呟いた。 
マヤがシンジ達の前に立った。 
「無事だったのね、皆。」 
マヤがアスカを見る。 
「無事だったのね、アスカ．．．よかった．．．」 
シンジが口を開く。 
「マヤさん．．．」 
マヤがシンジを見る。 
「なに？」 
「綾波なんです。姿はアスカだけど。」 
マヤがアスカを見る。その顔に恐れの表情を浮かべて。 
「あ．．．レイ．．．？」 
アスカがマヤを見る。 
「．．．」 
「まさか．．．シンジ君を補完しようとしてる？」 
シンジがマヤを見る。 
「え？」 
「そうやって、その人の好きな人の姿を取って、ＬＣＬにしようとしてるんでしょ？！」 
「いいえ。」 
アスカが口を開いた。 
「嘘．．．信じられない．．．」 
そう言って、マヤがアスカに銃を押し当てる。 
「マヤさん！」 
シンジが叫ぶ。 
「あんな先輩、見たくなかった．．．」 

ダンッ。ダンッ。 

アスカが後ろに倒れた。 
シンジがアスカの脇に座り込む。 
ゲンドウが、マヤに駆け寄り、銃を叩き落とした。 

アスカの制服が血に染まっていく。 
アスカが、苦しそうにシンジを見る。 
「綾波？」 
アスカがシンジに手を伸ばす。 
シンジがアスカの手を取った。 
アスカがシンジに微笑む。 
「碇．．．君．．．」 
「綾波！」 
「うれしかった．．．よ．．．レイ．．．て．．．呼んで．．．くれて．．．」 
アスカの目から涙が流れる。 
「綾波、だめだよ、死んじゃ！」 
「キ．．．ス．．．して．．．く．．．」 
アスカの手が重くなった。 
「綾波！」 
アスカを揺するシンジ。 
「綾波！」 
アスカの目の焦点が合わなくなった。 
「綾波．．．あ．．．どうして．．．う．．．うわああぁぁぁ．．．」 
アスカに落ちていく涙。 

泣いているシンジを、ゲンドウとマヤが見ていた。 

「伊吹二尉。」 
ゲンドウが口を開く。 
「．．．」 
マヤがゲンドウを見る。 
「補完計画の後始末に協力して欲しい。」 
マヤがゲンドウを見ている。 
「．．．」 
「今のところ、我々は、サードインパクトを起こした犯罪者ということになっているはずだ。」 
「．．．」 
「私は、仕方ないが、君たちは、首謀者として裁かれるべきではない。そのための証拠を押さえておく必要がある。」 
「．．．」 
「まず、松代のマギを押さえたい。」 
「．．．」 
「駄目だろうか。」 
「．．．」 
「．．．」 
沈黙が流れた。 

「少し考えさせてください。」 
マヤが口を開く。 
「分かった。」 
ゲンドウがマヤから目をそらし、シンジ達を見る。 
マヤがアスカを見る。 
「司令は、レイを愛していたんじゃないんですか？」 
「．．．いや。」 
「．．．」 
「あの時、ユイは、私の前から消えた。」 
「．．．」 
「あれ以来、失うのが、裏切られるのが怖くて、人を愛することなどできなかった。」 
「．．．」 
「そして、レイは、シンジを選んだ。」 
「．．．」 
「．．．」 
ゲンドウとマヤが、シンジ達を見ていた。 

アスカの脇でシンジがアスカを見ていた。 
「シンジ。」 
「．．．」 
「ここに墓を作るか。」 
「．．．」 
「残念だが、死んだ者は生き返らない。」 
「．．．」 
「ダミーシステムは、すでに失われた。以前のような復活は、叶わない。」 
「．．．」 
「．．．」 
「もう少し、側にいたいんだ。」 
「．．．」 
「．．．」 
「学校に運ぶか？」 
シンジがゲンドウを見た。 
ゲンドウが肯く。 
シンジが肯いた。 

シンジが歩いていく。 
その後をマヤが付いていく。 
アスカを背負ったゲンドウが、マヤの後を付いていく。 

学校に着くと、辺りは、夕焼けに染まっていた。 

「服、換えられるかな。」 
シェルターの階段を降りながらシンジが呟く。 
「急いだ方がいいな。」 
ゲンドウが言う。 
「そう。」 
「どこに下ろす？」 
「脱衣所かな。」 
「そうか。」 

ゲンドウが、アスカを脱衣所に下ろす。 
シンジがアスカの制服のサイズを見て、衣料倉庫に行く。 
シンジが脱衣所に戻ると、ゲンドウはいなかった。 

「綾波．．．」 
シンジがアスカのスカートのホックを外し、スカートを脱がせる。 
上着を脱がせ、リボンを外し、ブラウスを脱がせた。 
ブラジャーとショーツを脱がせた。 
濡らしたタオルで、血を拭き取って行く。 
新しい下着と、制服を着せた。 
髪を梳かした。 

アスカを抱き上げて、大部屋に行く。 
布団を敷いて、アスカを寝かせた。 
「綾波．．．」 
布団に涙が落ちた。 
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モニターのこちら側 Genesis 5:3 完 

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