「綾波レイではないんだ。」
日向が問う。
「彼女が言うには、セカンドインパクト以前の記憶がないそうです。ここのデータベースで調べると、記録が抹消されています。」
青葉と日向が顔を見合わせる。
沈黙が流れた。

「好きなんだ。」
日向が言う。
「多分。よく分かりませんけど。」
シンジが答えた。
青葉と日向が顔を見合わせる。
青葉と日向がシンジを見た。
日向が口を開く。
「まあ、納得いくまで調べて、付き合ってみるしかないんじゃないかな。そうとう危なそうだけど、まだ若いんだし。」
「やはり、危ないと思いますか。」
シンジが日向を見る。
青葉が話し出した。
「危ないね。多分、国連が後ろにいると思う。その子を保護しているのは、フォースインパクトを引き起こす、何かの役に立つと考えているからだと思うよ。」
「．．．」
「シンジ君が、それに巻き込まれる可能性は非常に高い。いや、もしかしたら、巻き込むために、その子が、シンジ君の前に現れたのかもしれない。」
「．．．」
沈黙が流れた。

「しかし、まあ、恋愛は、そういう方が燃えるみたいだからね。」
青葉が微笑みながら、シンジを見る。
シンジが、苦笑した。
「護身術、それなりに訓練を受けてると思うけど、きちんと身につけた方がいいと思うよ。役に立たないかもしれないけど。」
青葉がシンジを見て言う。
「ええ。結城さんにも言われました。」
「その位だよな。」
青葉が日向を見る。
「ああ。」
日向が相槌を打つ。
「そういうことで。」
青葉がシンジを見る。
「分かりました。」
シンジが微笑む。
「まあ、頑張って。」
日向が、微笑む。
「はい。」
「それじゃ、俺達帰るから。」
「はい。お疲れ様でした。」
「「お疲れ様。」」
青葉と日向が資料室を出ていった。
シンジが、ドアから端末に視線を移し、ため息をついた。

「どう思う。」
青葉が口を開く。
「何が？」
日向が前を見たまま答えた。
「シンジ君の彼女のことさ。」
「面影のある人を好きになるのは、仕方ないんじゃないか。」
「そんなもんかねぇ。」
「俺は、少し羨ましいよ。」
青葉が、日向を見た。
日向が前を見ていた。
青葉が前を見て、そして、口を開いた。
「そうか。」
沈黙が流れた。
 

シンジが家に帰り、夕食を取って、片づけを終えると、８時近かった。
「今のうちに電話しておこうか。」
そう呟いて、手帳を開き、携帯を取って、ボタンを押していく。
携帯を耳に当てた。
『ＲＲＲ．．．ＲＲＲ．．．ガチャ。
  はい。綾波です。』
「碇と申しますが、レイさん、いらっしゃいますか？」
『あ、碇君？私です。』
「あ、こんばんは。今、いい？」
『うん。どうしたの？』
「あの、明日とか暇？」
『え．．．うーん、今月中は、土日以外は休みじゃないんだ。』
「ああ。そっか。実は、僕もそうなんだけど．．．そうだよね。」
『ふふ。夕方は空いてるけど。』
「実は、大学の近くを歩いてみようかと思って。」
『あ、それ、いいかも。
  けど、夕方じゃ仕方ないかな。』
「大学の中を歩いてもよく分からないかもね。そしたら、家の近くで、長野駅の改札で待ち合わせて、夕飯食べようか？」
『いいよ。』
「それじゃ、えーと、６時は、ちょっときついかな。６時半に長野駅の中央改札で。」
『うん。じゃ、６時半に。』
「うん。それじゃ、おやすみ。」
『はい。』
「．．．」
『ガチャ。ツー。ツー。ツー。』
シンジが携帯のオンフックボタンを押した。

『危ないね。多分、国連が後ろにいると思う。その子を保護しているのは、フォースインパクトを引き起こす、何かの役に立つと考えているからだと思うよ。』
湯船に浸かって、シンジは、青葉の言葉を思い出していた。
『国連が、保護しているとすると．．．トウジやケンスケが言っていた、人工進化研究所だろうか．．．』
『あの時、僕の心が崩壊寸前になって、綾波が巨大化して現れた。』
『似たようなことが、また起こる？』
シンジが、ため息をついた。
 

長野駅 改札

改札から少し離れて、シンジが立っている。６時２０分。レイは、まだ来ていなかった。
ラッシュアワーのせいか、たくさんの人が改札から出てきて、また入っていく。

「お待たせ。」
レイが少し息を弾ませて、近づいてきた。
「ううん。」
シンジが微笑む。
「じゃ、行こうか。」
シンジが歩き始める。
「うん。」
レイも歩き出した。

「ちょっと早かった？」
シンジが、レイを見る。
「ううん。ちょっと余裕があったから、寄り道して遅くなっちゃった。」
「そうなんだ。」
「ごめんね。」
「ううん。」
「よかった。」
レイが微笑む。
シンジが微笑んだ。
 

ロシア料理 サラファン

「引越しとかする？」
ブリンチキを口に運びながら、シンジが言う。
少し口を動かして、水を飲み、レイが口を開いた。
「電車に４０分くらい乗るけど、まあ、いいかなって思って。」
ブリンチキを飲みこんで、シンジが言う。
「そう。僕もそんな感じかな。」
「うん。あと、夕方、来るように言われてるから。」
「ああ、やっぱり。僕も、夕方寄るように言われてるから。そしたら、引っ越せないよね。」
「そうなのよね。大学の友達には、付き合い悪いって言われそうだけど、まあ、仕方ないから。」
「そうだね。って、僕も一応、大学の友達なんだけど。」
苦笑しながらシンジが言う。
「それもそうね。けど、碇君は、ちょっと特別でしょ？」
レイがシンジを見る。
「そう。」
シンジがレイを見た。
レイが微笑んで、そして、視線を落とし、ペリメニにスプーンを浸した。

「大学の周り歩きに行くの、いつにしようか。」
ロールキャベツを切りながら言う。
「土曜よね。」
レイが、ロールキャベツを口に運びながら言う。
「うん。」
シンジが、ロールキャベツを口に運びながら言う。
レイが、口を動かし、ロールキャベツを飲みこんだ。
「今度の土曜でもいいよ。」
シンジが、ロールキャベツを飲みこむ。
「じゃあ、今度の土曜に行こう。
  待ち合わせは．．．」
「校門の前とか。」
「そうだね。時間は、１１時位でいい？」
「いいよ。」
「じゃ、１１時に校門の前で。」
「うん。」
レイが微笑んだ。
 

地下鉄車内

列車が、ホームに入っていく。
「それじゃ、私、ここだから。」
レイが、そう言って立ちあがる。
「うん。今日はありがとう。」
「ううん。また、電話してね。」
「うん。それじゃ。」
「またね。」
レイが列車を降りていった。
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