「あの．．．」
シンジが口を開く。
「それ、私かもしれない．．．」
レイが呟く。
沈黙が流れた。

「どういうこと？」
シンジがハンバーグを切りながら言う。
「私、サードインパクト以前の記憶がないんです。」
レイが呟く。
「そう．．．」
シンジが呟く。
『どういうこと？』
シンジが頭の中で呟いた。
『少し聞いてみて。』
『了解。』
「私、サードインパクトからしばらくして、戻ってきたんですけど、名前以外の記憶がなくて．．．」
「．．．」
「それで、この名前、何か特別な名前らしくて、色々調べられたんです。」
「．．．」
「今も実は、あるところに保護されていて．．．」
「．．．」
「あまり詳しくは言えないんですけど．．．」
「．．．」
沈黙が流れた。

「そうなんだ。」
シンジが呟く。
レイが顔を上げた。
「あの．．．」
レイが口を開く。
「何？」
シンジが言う。
「よかったら、その人のこと、もっと教えてもらえますか？」
「．．．」
沈黙が流れた。

「その、君を保護している人達は、教えてくれないの？」
シンジが口を開く。
「ええ。」
レイが、視線を落として言う。
「そう。」
シンジが呟いた。
沈黙が流れた。

「あの．．．」
レイが口を開く。
「とりあえず、食べない？
  冷めちゃうと美味しくないよ。」
シンジが微笑む。
「あ、はい。」
レイがフォークを取った。

『ややこしいことになってるみたいだね。』
『ええ。』
『あたりさわりのないことを言っておけばいいかな？
  後になって、本当のことを言うときに、ちょっと面倒になりそうだけど。』
『そうする理由を、彼女の状況と、碇君の状況から説明してくれる？』
『ああ。なるほど。』

シンジが、ライスを飲みこんで、口を開く。
「実は、僕も、あるところに保護されているんだ。」
レイが、少し驚いたようにシンジを見る。
シンジが、視線をテーブルに落とす。
「それで、分かると思うけど、僕も、行動を色々制限されていて、言えないこととかもあるんだ。」
「ええ。」
「それで、多分、分かっていると思うけど、彼女に関しては、言えないことがあるんだ。」
「はい。」
「だから、単なる同級生としての印象を言うので、いいかな。」
「．．．」
「まあ、正直言って、僕は、彼女を単なる同級生としては見れないんだけど．．．」
シンジが、レイを見た。
レイがシンジを見ている。
沈黙が流れた。

「分かりました。」
レイが口を開く。
「悪いね。」
「いいえ。事情は分かりますから。」
「ありがとう。」
「．．．」
シンジが、視線を落とす。
「彼女は、学校では、いつも一人で、誰とも話そうとしなかったんだ。授業中も、いつも、窓の外を見ていた。話し掛けがたい雰囲気だったんだ。無口な感じで、それで、学校を休みがちだった。」
「．．．」
「ただ、僕は、その．．．今、保護されている理由になっていることを、彼女と、あと、もう一人の同級生としていて、それで、彼女とは、色々やり取りがあったんだ。詳しくは言えないんだけど．．．」
シンジがレイを見た。
「そんな感じかな。」
「そうですか。」
「けど、綺麗だったよ。美人っていう感じかな。」
シンジが、レイを見て言う。
「そう．．．ですか。」
レイが、少し顔を赤くして、テーブルに視線を落とした。

「もしかしたら、僕達、もう会えないかもしれないね。」
シンジが、スープのカップを置いて、口を開く。
レイが、シンジを見る。
「どうしてですか？」
「行動の制限に加わるかもしれない。」
「．．．」
「まあ、加わらないかもしれないけど。」
シンジがレイを見て微笑む。
レイが俯く。
「．．．加わらない方が、いいな．．．」
「そうだね。」
「．．．」
沈黙が流れた。

「そろそろ、出る？」
シンジが言う。
「あ、はい。」
レイが、顔を上げて、シンジを見て、言う。
「そうだ。」
シンジが、手帳を出して、住所と電話番号を書いていく。
「はい。」
手帳を破って、レイに渡す。
「大学で、会えると思うけど、一応、連絡先。」
シンジが微笑む。
「はい。」
レイが微笑む。
「よかったら、綾波の連絡先も教えてくれる？」
「．．．」
レイが、少し怪訝そうな顔をする。
「あ、ごめん、彼女を綾波って呼んでたから。」
レイが得心したような表情をして、微笑んだ。
「綾波、でいいですよ。碇さん。」
「そしたら、よかったら、碇君って、呼んでくれるかな。」
「フフ。はい、碇君。」
「ありがとう。」
「あの、手帳貸してくれます？」
「あ、了解。」
シンジが、手帳を渡す。
レイが、手帳に住所と電話番号を書いていく。
「はい。」
「ありがとう。」
シンジが微笑む。
レイが微笑んだ。
 

「ごちそうさま。」
支払いを済ませて出てきたシンジにレイが言う。
「どういたしまして。」
「次からは、割り勘ね。」
シンジがレイを見る。
「僕もそうだけど、それなりにお金、貰ってる？」
「ええ。」
「なるほど。じゃ、次からは、そうしよう。」
「ええ。」
二人が歩き出した。

「綾波は、いつごろ戻ってきたの？」
シンジが口を開く。
「２０１６年の３月３０日に。」
レイが答える。
「そう。」
「それでね、色々な書類を書くときに、生年月日を書くじゃない？」
「うん。」
「その日を使ってるの。もちろん、年は、２００２年だけど。」
「そうなんだ。」
「それで、生年月日を書くたびに思うんだけど、その人、誕生日なかったの？」
「どうして？」
「だって、元の誕生日があれば、戻ってきた日を使う必要ないじゃない。」
「なるほど．．．そう言えば、聞いたこと無かった。」
「そう．．．」
「ごめん。」
「ううん。碇君のせいじゃないよ。」
「ありがとう。」

地下鉄車内
「綾波は、どこか行っちゃいけないところとかあるの？」
シンジが少し大きな声で言う。
「うーん。とりあえず、監視の人をまいたりしなければ大丈夫だと思うけど。」
レイが、シンジの方を向いて、少し大きな声で言う。
「なるほど。じゃ、遠出とか泊まりの時は、事前に言っておくっていう感じ？」
「ええ。多分、碇君と同じような感じだと思う。」
「了解。」
沈黙が流れた。

「それじゃ、私、ここだから。」
レイが立ちあがる。
「それじゃ。電話するから。」
シンジが、レイを見上げて、微笑む。
「うん。」
レイが微笑む。
「それじゃ。」
「またね。」
レイが手を振りながら、ホームを歩いていった。
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モニターのこちら側 Genesis 5:25 完 

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