シンジが、参考書と問題集を鞄に入れて行く。
立ちあがり、資料室の中を見回すシンジ。
シンジがため息をついた。
 

目覚ましのベルが鳴っていた。
シンジが手を伸ばし、目覚ましのベルを止める。
手を伸ばしたまま、息を吸い込んで、そして、吐いた。

オーブントースターが音を立てた。
テレビから朝のニュースが流れている。
「今日は、一日雨でしょう。」
水滴で曇った窓が、少し暗く白い色を発していた。
「雨なら、もう少し寝ててもよかったな。」
シンジが、オーブントースターからパンを取りだし、マーガリンを塗り始めた。

目覚ましのベルが鳴る。
机に向かっていたシンジが、世界史の問題集を閉じた。
「さて、行こうかな。」
シンジが立ちあがった。

いつもの地下鉄に乗る。
時間が遅いせいか乗っている人もまばらで、シンジは、座席に腰を下ろしていた。
向かい側の窓に映るシンジ。
「他人の恐怖．．．か．．．」
シンジが呟いた。

いつもより手前で降り、少し歩くと定鑑堂に着いた。
入り口脇の歓迎の札の中に第３新東京市立第壱中学校同窓会の文字がなかった。
「．．．」
札を見るシンジの目が、一瞬厳しくなり、そしていつもの目に戻った。
中に入り、仲居さんに声をかける。
「あの、洞木の名前で昼食の予約が入ってると思うんですけど。」
「洞木さん。はい、承っております。どうぞお上がりください。」
仲居さんが、スリッパの方に手を向ける。
靴を脱いで、スリッパに足を入れた。

「こちらです。」
ドアを開けて中に入り、襖を開けると、まだ、誰も来ていなかった。
「どうぞ。」
入り口から死角になる座布団に、シンジが腰を下ろす。
仲居さんが、お茶を入れる。
「どうぞ。」
「どうも。」
「皆さん、いらっしゃるまで、少々お待ちください。」
「はい。」
仲居さんが立ちあがり、出ていった。
シンジが、お膳の上に手を伸ばし、爪で軽く叩く。
コツコツと堅く締まった音がした。
『少しは、もちそうだな。』
シンジが、お膳の脚を少し持ち上げて、下ろす。

シンジは、部屋を見まわしていた。
部屋は、結構大きかったが、宴会場と言う感じではなかった。お膳も５、６人がせいぜいという感じの大きさだった。
「同窓会か．．．」
シンジが呟いた。

コンコン。

ドアをノックする音がした。
「はい。」
シンジが少し大きめの声を出す。
「失礼します。」
ドアを開ける音がして、障子を開けて、仲居さんが入ってきた。
「ごめんね、遅くなって。」
仲居さんに続いて入ってきたヒカリが言う。
「久しぶりやな、シンジ。」
「碇、久しぶり。」
後ろから、トウジとケンスケが声をかける。
「久しぶり。洞木さん。トウジ。ケンスケ。」
シンジが微笑んだ。
トウジとヒカリがシンジの前に、ケンスケが隣りに座った。
「お飲み物は、どうしましょうか？」
仲居さんが言う。
「何にする？」
ヒカリが、３人に聞く。
「俺は、ウーロン茶。」
トウジが答える。
「俺は、コーラかな。」
ケンスケが答えた。
「碇君は？」
ヒカリがシンジに聞く。
「じゃ、僕もウーロン茶。」
ヒカリが仲居さんをみる。
「私は、ジンジャーエールで。」
「かしこまりました。」
仲居さんが出ていった。

「これで全部？」
シンジがヒカリに聞く？
「うん。ごめんね。同窓会なんて言っちゃって。」
ヒカリが答えた。
「まあ、あのクラスは、疎開で、どんどん人がいなくなっちゃったし、元々、全国から、第３新東京市へ越してきた人達だったから、仕方ないよ。」
「一応、連絡取ってはみたんだけど、転居先不明とか、凄く遠くだったりして、結局、この４人になっちゃったの。」
ヒカリが、シンジ、ケンスケ、そしてトウジに視線を走らせた。
「皆、この辺りに住んでるの？」
シンジが、トウジとケンスケを見る。
「ああ。あいかわらず、お父んもおじんも研究所勤めやから。」
トウジが答える。
「俺のところもそうさ。」
ケンスケが答えた。
「研究所？」
シンジが聞く。
「人工進化研究所っていうところ。前のネルフの松代支部。まあ、ほとんど変わらないよ。」
ケンスケが、あっけらかんと答える。
「そうなんだ。」
シンジが答えた。

『人工進化研究所．．．どこかで聞いたことがある。
  ネルフの松代支部？どういうことだ？
  青葉さんが言っていたように、また起こそうとしている？』

「失礼します。」
仲居さんの声がした。
障子が開いて、料理が運びこまれる。
甘露煮、あえもの、てんぷら、そば、おやき．．．長芋料理が並べられていく。
小さな鍋に火がつけられた。
皆の前に、飲み物のビンとコップが置かれた。
「それでは、ごゆっくり。」
「はい。」
ヒカリが答える。
仲居さんが出ていった。

「鈴原？」
ヒカリが、トウジのコップにウーロン茶を注ごうとする。
「ああ。すまんな。」
トウジがコップを持った。
シンジが、ケンスケを見る。
「僕が注ぐんでよければ注ぐけど。」
「ああ、頼むよ。」
ケンスケが、コップを持った。

「それじゃ、再会を祝して、乾杯！」
「「「乾杯！」」」
皆がグラスを置く。
「食おうぜ。」
「うまそうやな。」
「そうだね。」
皆、それぞれに料理に箸をつけ始めた。

「ミサトさん、亡くなったんやて？」
お吸い物の御椀を置いて、トウジが口を開く。
「うん。拘置所でね。」
シンジが、お吸い物の御椀から口を離して言う。
「ミサトさん目当てに、碇ん家、通っとったからなぁ。もう一度会いたかったわ。なあ、ケンスケ。」
トウジが、ケンスケをみる 。
「ああ。それに、惣流と綾波も．．．」
ケンスケがシンジを見る。
シンジが、視線を落として、お吸い物を啜っていた。
沈黙が流れた。

「皆は、拘束されたりしなかったの？」
シンジが口を開く。
「ああ。ワシらは、そういうのなかったんや。お父んとおじんは、しばらく拘束されとったけどな。」
「俺もそうだよ。」
「私もそう。」
「そう。よかった。」
シンジが、少しほっとしたような顔をして、トウジを見た。
「トウジ？」
「何や？」
「あの時は、ごめん。僕には止められなくて。」
「もう済んだことや。」
「ごめん。」
「あんまりグチャグチャぬかしとると、パチキかましたるぞ。」
「ごめん。ありがとう。」
「あいかわらずやな。シンジ。」
苦笑するトウジ。
「うん。」
シンジが苦笑いした。

「そうだ、住所か電話番号、教えてよ。」
ヒカリがシンジを見て言う。
「ああ。ちょっと待ってて。」
シンジが、手帳を出して、住所と電話番号を書いていく。
「はい。」
手帳を破って、ヒカリに渡す。
「ありがとう。」
「後で、教えてくれや。」
「俺にも。」
「うん。」
ヒカリが答える。
「あの．．．手紙も電話もチェックされてるから．．．それだけよろしく。」
シンジが、躊躇いがちに言う。
ヒカリ、トウジ、ケンスケが顔を見合わせる。
沈黙が流れた。
 

「あ、私達、ここだから。」
そう言って、ヒカリが席を立つ。
トウジとケンスケも席を立った。
「それじゃ、また、いつか会いましょう？」
「またな、シンジ。」
「それじゃ。」
「うん。それじゃ。」
３人が地下鉄を降りていく。
３人が手を振る。
シンジが手を振った。

列車が駅を出ていき、列車の起こす風が止んだ。
「難儀やな。」
トウジが呟く。
「ああ。」
ケンスケが呟いた。
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