シンジは席につくと、参考書と問題集を机の上に出し、端末のスイッチを入れた。
そして、掲示板とメールを見る。

掲示板には、駐屯地内の規則の変更や、さまざまな予定、カフェテリアのメニューが書いてある。
『今日は、生姜焼きか。』
シンジが掲示板を見ながら頭の中で呟いた。

メールは、ほとんど来なかったが、来るとすれば、シンジの上司である、結城レイコ一尉からのもので、シンジに直接関わる規則の変更や、予定の急な変更などが主だった。

メールボックスを開けると、結城レイコから、メールが来ていた。
 

Subject: Going on to university
Date: Thu, 11 Apr 2019 20:01:35 +0900
From: Reiko Yuuki <reiko_yuuki@pm.jssdf.gov>
To: Shinji Ikari <shinji_ikari@pm.jssdf.gov>
Security: Personal
Importance: Normal

How are you, Shinji?

I'd like to have a meeting about the subject.
How about 1500 4/12 at my room?
If it is inconvenient with you, please e-mail or phone to me.

Regards,
Reiko Yuuki
 

メールの内容は、問い合わせていた大学進学についての話がしたいので、今日の１５００に彼女の部屋に来て欲しいというものだった。
『メールには、書けない事情がある？
  何だろう．．．』
頭の中で、そう呟きながら、シンジは、メールをReikoと名前の付けられたフォルダにセーブした。

結城レイコからは、「とにかく英語は、よく勉強しておくように。」と言われていた。シンジの身柄は、今は、戦略自衛隊が引き受けているが、いつ国連に引き渡されるか分からない。彼女は、そういう説明をしていた。そのため、彼女からのメールは、英語で書かれていた。実際には、戦略自衛隊が引き受けている、つまり、将来、戦略自衛隊に入るとしても、英語は必須なのだろう。シンジは、そう理解していた。

そのことから推測して、シンジは、防衛大学校に進学することになるのではないかと考えていた。そうすれば、順当にいけば、かなりの間、戦略自衛隊に籍を置くことになる。戦略自衛隊としても、シンジを、ある意味において、拘束できることになり、好都合である。そう考えていた。

つらつらと物思いをしながら、英単語を憶えていると、何度目かの昼休みを告げるベルが鳴った。
「行こうか。」
青葉の声がした。
「はい。」
そう言って、シンジが立ち上がった。

空いている席に腰を下ろすと、誰からとも無く、定食に箸をつけ始めた。
生姜焼きにキャベツの千切り、そして漬物がついていた。
シンジが、味噌汁を一口飲んだ。

「行きますか。」
日向が言う。
青葉とシンジが頷いた。
３人がお盆を持って立ちあがった。

「もうそろそろ桜の時期かな。」
日向が口を開く。
「そうだね。」
青葉が答える。
「じゃあ、花見に行こうか。来週にでも。」
「お、いいね。松代城跡？」
「そうそう。」
「シンジ君も行くかい？」
青葉が、シンジを見る。
「え？そうですね。」
シンジが、少し浮かない顔で答えた。
「ま、いいか。
  多分、来週の水曜とか。日曜が最後かな。」
青葉が日向に言う。
「多分。」
「ま、その日の調子で決めることにしようか。」
「そうだね。」
青葉と日向が話し続けていた。
 

シンジは、化学の問題集をやっていた。
端末が音を立てる。
キーを叩いて、音を止めた。
シンジが立ちあがり、部屋を出ていった。

「俺達もお茶にする？」
青葉が端末を見たまま言った。
「シンジ君は、お茶じゃないと思うけど、休憩するのは吝かではない。」
そう言って、日向が伸びをした。
「何、言ってんだか。」
青葉が苦笑する。
「多分、結城女史にでも呼ばれたんだと思うよ。
  昼間、様子が変だったろう？」
日向が端末を見て言う。
「ああ。なるほどね。」
青葉が、遠くを見るような目をして、納得したように呟く。
「ま、とりあえず、お茶に行きますか。」
そう言って、日向が立ちあがった。
 

シンジが、ドアをノックする。
「はい。」
中から声がした。
「碇です。」
「開いてるわ。入って。」
「はい。」
ドアを開けて、中に入り、ドアを閉める。
「こんにちは。」
「いらっしゃい。かけて。」
机の向こうのレイコが、シンジを見て、椅子の方に手を向けた。
シンジが、歩いていき、椅子に腰を下ろす。

結城レイコは、卵型の顔に、ショートカット、やや大きめの目で、実際の年よりも若く見えた。背は、少し高めで、スタイルがよかった。

レイコは、書類を捜し出して、シンジを見た。
「それで、大学の件なんだけど、この近辺にある大学なら、構わないということらしいわ。」
「そうですか。」
「防衛大学でもいいし、第２東京大学でもいいわ。」
「そうですか。」
「うん。そうみたい。」
そう言って、レイコが、メモを書き始める。
シンジは、レイコがメモを書くのを見ていた。
レイコがメモをシンジの前に差し出す。
『国連から意見があったらしい』
メモには、そう書いてあった。
シンジがレイコを見た。
レイコが頷いて、メモを手元に戻すと、文字を消して、小さく破いて、ゴミ箱に捨てた。
レイコが、書類をパラパラと眺める。
「勉強、頑張ってるみたいじゃない？」
「え、ええ。」
「何の役に立つのかと思うかもしれないけど、勉強の内容より、それを要領よくこなして、身につけ、利用する能力を磨く方が、重要だから。」
「はい。」
「あと、いつも言ってるけど、英語は、どこでも大事だから、よく勉強してね。」
「はい。」
「何か、質問ある？」
「いいえ。」
「そう。じゃ、そういうことで。」
「はい。失礼します。」
シンジが立ち上がり、頭を下げて、部屋を出ていった。

「国連は、また、ネルフを作るつもりなのかしら。」
シンジの出ていったドアを見ながら、レイコが呟いた。
 

シンジが、飲み物を買おうと、カフェテリアによると、青葉と日向がいた。
青葉がシンジを見つけ、手を上げる。
シンジは微笑んで、アイス・カフェオレを持って、テーブルに歩いていった。
「休憩ですか？」
そう言いながら、シンジが椅子に腰を下ろす。
「ああ。
  シンジ君は？」
日向が言う。
「ちょっと、結城さんとお話があって。」
「何の話し？」
「大学進学のことを聞いてたんですけど、この辺りの大学ならいいということで。」
「そうなんだ。よかったね。」
「ええ。最悪、通信制かなと思ってたから。」
「じゃあ、頑張らないと。」
「はい。」
シンジが、アイス・カフェオレのストローに口をつけた。
 

シンジは、現代国語の勉強をしていた。
昼のシフト終了のベルが鳴った。
「今日は、どうする？」
青葉が言う。
「今日は、すぐ帰るわ。飲みは明日にでも。」
日向が答える。
「了解。」
「それじゃ、シンジ君、また明日。」
「また明日。」
青葉と日向が出ていった。

「今日は、何か買って帰らないといけないんだっけ。」
シンジが呟く。
「少し買って帰ったほうがいいかな。」
端末を落とし、参考書と問題集を鞄に入れて、シンジが立ちあがった。
 

ドアを開け、部屋に入り、ドアをロックする。
鞄を置いて、手を洗う。
買ってきた、野菜と肉を適当に切り、残りを冷蔵庫に入れる。
野菜と肉で炒め物を作った。
ご飯を温めて、茶碗に盛る。
「いただきます。」
シンジが、野菜炒めに箸をつけた。
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モニターのこちら側 Genesis 5:21 完 

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