オーブントースターで、パンを焼きながら、スープを飲むシンジ。
テレビから、朝のニュースが流れている。
「今日は一日晴れるでしょう。」
アナウンサーが言う。
シンジが外を見た。
オーブントースターが音を立てた。

日曜の朝。
洗濯機を回しながら、部屋に掃除機をかけていく。
洗濯物を屋根の下に干す。
布団を、窓の手前に広げた。
シンジが、部屋を出て、鍵を閉めた。

いつもの地下鉄に乗り、途中で別の地下鉄に乗りかえる。
小１時間で、第２新東京市拘置所に着いた。
入り口で、入所の手続きをして、中に入る。
受付で、面会の手続きをした。

シンジが、受付の前の長椅子にかけていると、受付の中から、呼びかけられた。
「碇シンジさん。第１面会室へどうぞ。」
「はい。」
シンジが立ちあがり、第１面会室へと歩いていく。

シンジが第１面会室のガラスの前の椅子に座っていると、奥のドアが開き、ゲンドウが看守に連れられてやってきた。
ゲンドウがガラスの向こうの椅子に腰を下ろす。
「体調は、どう？」
シンジが口を開く。
「特に問題ない。」
ゲンドウが、少し目を逸らしながら言う。
「そう。」
シンジが、軽く俯いた。
「今は、どうしている。」
ゲンドウが問う。
シンジがゲンドウを見て、少し視線を逸らす。
「あいかわらず、戦自の駐屯地で、ネルフの資料の整理をしてる。特に僕がすることはなくて、青葉さんや日向さんがやってる。」
「．．．」
「その間、通信制の高校の課題をしてるんだ。」
「そうか。」
沈黙が流れた。

「少し前に、中学のころの友達に会ったんだ。」
シンジが口を開く。
「．．．」
ゲンドウがシンジを見る。
「親戚が戦自の人らしくて、僕のことを聞いたんだって。」
「．．．」
「それで、アスカや綾波や、ミサトさんのことを聞かれた。」
シンジがゲンドウを見る。
ゲンドウがシンジを見ていた。
シンジが、目を逸らす。
「それで、皆死んだって言ったら、少しショックだったみたいだった。」
「．．．」
沈黙が流れた。

「大学には行けそうか？」
唐突にゲンドウが口を開く。
シンジが、虚を突かれた感じで、ゲンドウを見た。
「．．．」
「．．．」
「通信制だったら、今と状況が変わらなくても行けると思う。」
「そうか。」
「何故？」
「俺も行ったから。」
「．．．」
「それだけだ。」
「そう。」
沈黙が流れた。

「時間です。」
看守が言った。
「体に気をつけて。」
シンジが言う。
「ああ。」
そう言いながら、ゲンドウが立ちあがり、看守に付き添われて、ドアから出ていった。
シンジが立ちあがろうとすると、事務官の声がした。
「次の方もこちらで。」
「あ、はい。」
シンジが、再び、椅子に腰を下ろした。

しばらくすると、奥のドアが開き、冬月が看守に連れられて、やってきた。
冬月がシンジの前に座る。
「元気かね、シンジ君？」
冬月が口を開く。
「はい。冬月さんは？」
「ああ。なんとかやっているよ。
  世の中は、結構平穏になりつつあるようだが、どうかね？」
「ええ。青葉さんや日向さんも言ってましたけど、食料が備蓄されていたものではなくて、新しく作られたものになりつつあるようです。」
「そうか。人口がかなり減って、このまま滅亡する危険もあるかと思っていたが、案外、人類はしぶといようだな。」
そう言いながら、冬月が苦笑する。
「どうなるんでしょうね。」
シンジが言う。
「分からんな。もしかしたら、あの時、何かが起きたのかもしれない。しかし、記録が、ほとんど残っていない以上、あとは、今生きている人間の遺伝子を調べるといったことしかできないが．．．」
冬月がシンジを見る。
「人間と使徒の遺伝子が９９．８９％同じだった以上、それも、期待薄だろう。」
「そうですか。」
沈黙が流れた。

「碇は、何か言っていたかね？」
冬月が口を開く。
「え？
  ええ。最近は、どうしている、って。
  あと、大学には、行けそうか、って言ってました。」
シンジが、少し遠くを見ながら、思い出すように言葉を繋いだ。
「そうか。」
冬月が腕組みをする。

「シンジ君は、自分の意思ではないかもしれないが、エヴァに直接関わった人間だ。しかも、今となっては、ただ一人の人間だ。その経験について学び、また研究してみるのは、貴重なことかもしれない。」
冬月が言う。
「．．．」
シンジが冬月を見ていた。
冬月がシンジを見る。
「もちろん、食べていく役には立たないかもしれないし、下手をすると命を危険にさらすことになるかもしれない。」
「．．．」
「まあ、大学は、研究するということを教える所だから、何をしてもいいと思うが。」
「．．．」
シンジが、冬月から目をずらした。
沈黙が流れた。

「それって、役に立ちますか？」
シンジが問う。
冬月がシンジを見た。
「エヴァは、役に立ったかね？」
シンジが少し驚いたような顔をし、そして、何か考えるように俯いた。
沈黙が流れた。

「時間です。」
看守が言った。
シンジが顔を上げる。
「それでは、また。」
そう言いながら、冬月が立ちあがる。
「あ、はい。」
シンジが言う。
冬月が微笑み、そして、看守に付き添われて、ドアから出ていった。
シンジが立ちあがり、面会室を出た。

「さよなら。」
そう言って、シンジが拘置所を出る。
『エヴァは、役に立ったかね？』
冬月の言葉が、頭の中に残った。
『エヴァは、役に立ったのか。』
シンジが、頭の中で呟いた。
 

「おはようございます。」
「おはよう。」
「おはよう。」
シンジが、資料室に入ると、いつものように、青葉、そして日向が先に来て、端末に向かっていた。

シンジは、席につくと、参考書と問題集を机の上に出した。

何度目かの昼休みを告げるベルが鳴った。
「行こうか。」
青葉と日向が立ちあがる。
シンジも立ちあがった。

３人が空いている席に腰を下ろす。
誰からともなく、定食に箸をつけた。
皿の上には、厚く切ったハムを焼いたものとキャベツの千切り、マカロニのサラダ、そして、ご飯と味噌汁が付いていた。

「いいかい？」
青葉が言う。
「はい。」
シンジが答えた。
３人が、お盆を持って立ちあがった。

３人が、駐屯地内の、芝生の端を歩いていた。
「あの。」
シンジが口を開く。
「昨日、冬月さんと父に会ったんです。」
「何か言ってた？」
青葉が聞く。
「父に、大学には行けそうかって聞かれました。」
「そう。」
「冬月さんに、『大学に行くのって役に立ちますか？』って聞いたら、『エヴァは役に立ったかね？』って聞き返されました。」
「．．．」
沈黙が流れた。

「シンジ君は、どう思う？」
日向が口を開いた。
少しの間のあと、シンジが言う。
「よく分かりません。」
「そう。」
沈黙が流れた。

「エヴァがなかったら、我々は、多分、今、生きていないよ。」
日向が言う。
「もちろん、今、生きていることが、どうなのかというのはある。」
シンジが、何かにはっとしたように日向を見た。
「しかし、生きていれば希望がある。
  違うかな。」
日向が歩きながら、遠くを見ていた。
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モニターのこちら側 Genesis 5:19 完 

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