シンジは席につくと、参考書と問題集を机の上に出した。

問題集をやるのに飽きると、端末から戦自の資料を眺めていた。
「よく調べてあるよな．．．綾波や、母さんのことまで．．．」
ユイの写真を見ながら、シンジが呟いた。

何度目かの昼休みを告げるベルが鳴った。
シンジ達には、最後の時間帯が割り当てられていた。
「行こうか。」
青葉と日向が立ちあがる。
シンジも立ちあがった。

３人が空いている席に腰を下ろす。
誰からともなく、定食に箸をつけた。
皿の上には、魚のフライとキャベツの千切り、ジャガイモのサラダ、そして、ご飯と味噌汁が付いていた。

「それなりに回復してきたのかな？」
日向が口を開く。
「新しくできた物って感じだしね。」
青葉がフライを箸で摘みながら言った。

セカンド・インパクトの経験を活かして、シェルターが作られ、食料などの備蓄があったせいもあって、サード・インパクトでは、セカンド・インパクトほどの混乱は起きなかった。しかし、人口の減少もあって、生活水準は、いまだ、サード・インパクト以前の状態には戻っていなかった。

「セカンド・インパクトの時は、もっと酷かったんですか？」
シンジが口を開く。
「そうだね。食べ物なかったしね。」
日向が言う。
「東京がなくなったから、混乱も酷かったし。けど、それにしては．．．」
青葉が、視線を遠くに移した。
シンジは青葉を見ていた。
青葉が視線を定食に戻した。
「それなりに仕組まれてたんだろうな。」
沈黙が流れた。

「いいかい？」
青葉が言う。
「はい。」
シンジが答えた。
３人が、お盆を持って立ちあがった。

「いい天気だなぁ。」
日向が声を上げる。
「こういう日は休まないと。」
青葉が、半分笑いながら言う。
「そうもいかんし。」
日向が苦笑する。
「．．．」
青葉が苦笑した。

「夏以外の季節って、やっぱりいいですか？」
シンジが口を開いた。
「そうだね。あったころを知ってるから。」
日向が答える。
「夏は、結構辛い。」
青葉が言う。
「そうですか。」
シンジが言った。

「シンジ君は、どの季節が好きだい？」
青葉が言う。
「．．．よく分かりません。」
シンジが答えた。
「そうか。」
青葉が呟いた。

「昨日、中学のクラスメートに会ったんです。」
シンジが言う。
青葉と日向がシンジを見た。
「そう。」
向き直りながら、青葉が言った。
「洞木さんって言う、クラス委員をやっていた女の子なんですけど。」
「シンジ君も隅に置けないな。」
「親戚が、ここの関係者らしくて．．．」
「．．．」
「それで、アスカや綾波やミサトさんのことを聞かれました。」
「何か言ったのかい？」
「いえ。一応、死んだということだけは、言いましたけど。」
「そう。ま、あまり関わらない方がいいかもしれないな。しばらくすれば状況も変わるだろうし。」
「ええ。」
沈黙が流れた。

「彼女、学校のことを楽しそうに話してました。」
シンジが言う。
「まあ、そうだろうね。」
日向が答えた。
「僕が、ここにいる意味って、何なんでしょうね。」
シンジが言う。
「まあ、色々あると思うけど、シンジ君の身柄を保護するという意味合いはあると思うよ。」
シンジが日向を見る。
日向は、前を見ていた。
「見当違いな恨みを持つ人もいるかもしれないし、シンジ君の知る機密情報が欲しい人もいるだろうしね。」
「．．．」
「学校にいけば、他の子にも被害が及ぶかもしれない。」
「．．．」
「まあ、大学に行く頃には、また状況も変わっているかもしれないから。」
日向が、前を見ながら言った。

「それに、我々が、こうして身柄を保護されているということは．．．」
青葉が言う。
シンジが青葉を見た。
青葉は、前を向いたままだった。
「あの頃のようなことが、また行われるかもしれないということだよ。」
シンジが、目を見開いて青葉を見た。
「問答無用でね。」
青葉が呟いた。
 

シンジ達は、資料室で端末に向かっていた。

昼のシフト終了のベルが鳴った。

「ふーっ。今日も終わった、終わった。」
日向が言う。
「飲みに行くかい？」
青葉が言う。
「いいね。」
「じゃ、行こうか。」
「ＯＫ。それじゃ、シンジ君、また明日。」
「はい。」
青葉と日向が連れ立って、部屋を出ていった。
部屋の中に静けさが満ちた。

「今日は何か買って帰らないといけないんだっけ。」
シンジが一人呟く。
『残り物で、なんとかなるかな．．．』
端末を落とし、教科書を鞄に入れて、シンジが立ちあがった。

「お疲れ様でした。」
「さよなら。」
警備員と挨拶を交わし、駐屯地のゲートを出て、駅までの道を歩く。
電車に乗り、家の最寄駅で降りて、そして家へ。
ドアを開け、部屋に入り、ドアをロックする。

鞄を置いて、手を洗う。
冷蔵庫から野菜を出して、炒め物を作る。
ご飯を温めて、茶碗に盛った。
「いただきます。」
野菜炒めに箸をつけた。

「ごちそうさまでした。」
食器を洗って、かたす。
風呂に水を張って沸かした。

体を洗って、お湯に浸かる。
『あの頃のようなことが、また行われるかもしれないということだよ。』
シンジの頭の中に昼間の青葉の言葉が浮かんだ。
『また、あんなことがあるんだろうか。
  使徒が来たりする？
  もう、エヴァもないのに．．．
  それとも、また、量産機を作って、補完計画を発動する？
  僕が．．．また？
  イヤだな．．．』
考えを止めるように、シンジが立ちあがった。

布団に横になりながら、窓から外を見ていた。
星空に月が浮かんでいた。

「エヴァか．．．」
シンジが呟いた。
『母さん、今、どこにいるんだろう。』
シンジが頭の中で言った。
『もう３年。探査衛星でも、結構遠くに行ける時間だから、母さんなら、もっと遠くに行っているのかもしれない。もう太陽系にはいないのかな．．．』

『綾波は、どうしたんだろう．．．
  もう戻ってこないのかな．．．
  あの時．．．』
月を眺めるシンジ。

『仕方ないか．．．』
シンジが寝返りを打った。
 

目覚ましが鳴っている。
シンジが手を伸ばし、目覚ましを止めた。
「ふわぁああ。」
シンジが欠伸をしながら起きあがる。
「さてと。」
シンジが立ちあがってトイレに歩き出した。

卵焼きと味噌汁とご飯。
「いただきます。」
シンジが味噌汁に箸を浸した。
 

駅まで歩いていき、電車に乗り、駐屯地の最寄駅で降りる。
駅から駐屯地まで歩く。
「おはようございます。」
「おはようございます。」
警備員と挨拶を交わし、ゲートの中へ。

「おはようございます。」
「おはよう。」
「おはよう。」
シンジが、資料室に入ると、いつものように、青葉、そして日向が先に来て、端末に向かっていた。
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モニターのこちら側 Genesis 5:18 完 

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