第２新東京市拘置所において、ネルフの職員は連日取調べを受けていた。

「では、あなたは、ネルフがサードインパクトを起こそうとしていることを、ほんの数日前に知ったと。」
取調官がミサトに言う。
「はい。私は、使徒を殲滅し、サードインパクトを回避することを命じられていましたので。ですが、同僚だった加持リョウジのスパイ行為を追っていて、セントラルドグマにアダムが拘束されているのを見てから、ネルフの目的に疑問を持ち、調査して知りました。」
「なるほど。ところで、あなたが、綾波レイではないかと考えている人がいるようですが。」
「おっしゃっていることがよく分かりませんが．．．」

最後には自白剤が使われた。

「では、君は、サードインパクトを避けるために、使徒を倒すため、エヴァに乗ったんだね。」
「．．．はい．．．そうすると褒めてもらえたし．．．」
「ところで、君は葛城ミサトと一緒にいたが、彼女は、綾波レイではないのかね？」
「．．．はい．．．」
「綾波レイなんだね？」
「．．．はい．．．」

ミサトには、ＤＮＡ鑑定が行われたが、その結果は、彼女が人間であるというものだった。

その後、国連監視の元、形式的な裁判が行われた。
ゲンドウと冬月には終身刑が、そして、他の職員には、ほとんど一生に近い執行猶予付きの終身刑が求刑され、その通りの判決が出た。
職員が監視付きで釈放され始めたのは、サードインパクトから３年近くたってからだった。
 

２０１８年８月某日 松代市 メゾン松代

蒸し暑い空気の中、マンションの一室の鍵を開け、シンジが中に入る。
ドアをロックし、汗を拭いながら、シンジがため息をついた。
『綾波．．．』
シンジが、頭の中で呟いた。

以前の知り合いとの接触を避けるために、シンジは、通信制の高校に通わされていた。そして、日中は、戦略自衛隊の松代駐屯地で、青葉シゲルや日向マコトと共に、ネルフ関係の資料の作成に従事していた。もちろん、これは、シンジを拘束するための方策であって、シンジがすることは、実際には何もなかった。
 

その２時間前

「あの、碇君？」
松代駐屯地からの帰り、駅で電車を待っているシンジに声をかける女性がいた。
聞き覚えのある声に、シンジが振りかえると、そこには、洞木ヒカリが立っていた。
「あ．．．洞木さん．．．久しぶりだね。」
以前の知り合いとの接触を避けるよう指示されているシンジは、気まずさを感じながら、ヒカリに話しかけた。
「．．．そうだね。今、この辺りに住んでるの？」
ヒカリが、シンジを見ながら言う。
「．．．うん。洞木さんは？」
シンジが、ヒカリから目を逸らながら言った。
「伯父さんが、この辺りにいたから、あの時からずっと．．．」
シンジがヒカリを見る。
ヒカリがシンジを見ていた。
「少し時間ある？」
ヒカリが真顔になって言う。
「答えられないこともあるけど．．．」
シンジが、やはり真顔で言う。
「ええ。いいわ。」
「分かった。」
ヒカリが歩き出す。シンジも歩き出した。
 

カフェ カプチーノ

「お待たせしました。」
ウェイトレスがアイスコーヒーを、シンジ、そしてヒカリの前に置く。
「ごゆっくりどうぞ。」
ウェイトレスが離れていった。

アイスコーヒーにガムシロップを入れながら、ヒカリが口を開いた。
「伯父さんから、駐屯地で子供を見かけるって聞いて、碇君じゃないかなって、思ってた。」
ヒカリがアイスコーヒーにストローを入れてかき混ぜている。
シンジは、ミルクを入れていた。
「そう。」
シンジが、ストローに口を寄せ、一口飲んだ。
沈黙が流れた。

「今日も、碇君が帰る時間を調べて、それで、声を掛けたの。」
ヒカリが口を開く。
「そう。」
シンジが視線をテーブルに落としたまま言う。
「色々聞きたいことがあるけど．．．」
ヒカリが視線を外に向ける。
「アスカは、今、どこにいるの？」
シンジが視線を落としたまま言う。
「死んだよ。あの時。」
ヒカリが驚いた様子でシンジを見る。
「死んだ．．．」
沈黙が流れた。

「詳しくは言えないけど、サードインパクトの直前に色々戦闘があったんだ。そこで死んでしまった。」
俯いたままシンジが言う。
「そう．．．」
ヒカリが俯いて呟く。
沈黙が流れた。

「綾波さんは？」
ヒカリが俯いたまま呟く。
少しの間の後、視線を落したまま、シンジが言う。
「綾波は、あの時から行方不明なんだ。」
「そう．．．」
沈黙が流れた。

しばらくして、気を取りなおしたのか、ヒカリが顔を上げて、シンジに言う。
「鈴原や相田君は元気よ。相変わらず同じ高校なの。」
シンジがヒカリを見る。
「トウジ．．．」
シンジが呟く。
「鈴原、足治ったのよ。というか、あの時、戻ってきたら直っていたの。」
ヒカリが微笑む。
「そう。よかった。」
シンジが安堵したように微笑んだ。

「そう言えば、葛城さんだっけ？碇君達が居候してた家の人。」
ヒカリが言う。
「うん。」
シンジの表情が曇る。
「今、どうしてるの？」
「．．．」
「あ、言えないことだったらいいから。」
少しの間の後、シンジが口を開いた。
「冬が来たよね。」
シンジが視線を落とす。
「え、ええ。」
唐突に言われて生返事をするヒカリ。
「拘置所で風邪をこじらせて、亡くなったんだ。ミサトさん。」
「．．．そう。」
沈黙が流れた。

その後、ヒカリが、学校での出来事を話し続けた。
洞木さん、トウジが好きなんだ．．．そう思いながら、シンジは、ヒカリの話しを聞いていた。

ヒカリが水を飲む。
「そろそろ出ようか。」
シンジが言う。
「あ、ごめんね。私一人で話しちゃって。」
「ううん。トウジとケンスケの消息も分かったし、楽しかったよ。」
「そう。」
シンジが、伝票を取って立ちあがる。
「あ、私が。」
ヒカリが言う。
シンジがヒカリを見た。
「一応、働いてるから。」
「．．．ごめん。」
「いや。」

シンジが支払いを済ませて外に出ると、ヒカリが待っていた。
「あの．．．ごちそうさま。」
ヒカリがシンジを見て言う。
「どういたしまして。」
シンジがヒカリを見て言う。
「今すぐは無理だと思うけど、そのうち、皆で会いたいね。」
ヒカリが少し作ったように微笑みながら言う。
「そうだね。」
シンジが苦笑しながら言った。
「サードインパクトも、本当は、発表とは違うんでしょ？」
ヒカリが真顔になって言う。
「．．．」
シンジが、空を見上げた。
ヒカリがシンジを見ている。
「僕が生きているうちに公表されるかな。」
「．．．」
「分からない。」
「．．．」
「．．．」
「そう。」
ヒカリが呟く。
沈黙が流れた。

シンジがヒカリを見る。
「今日は、色々な話しが聞けて楽しかったよ。」
ヒカリが微笑む。
「碇君、変わったね。」
シンジが苦笑する。
「そうかもしれないね。」
ヒカリがシンジを見る。
「それじゃ。」
「それじゃ。」
ヒカリが右手を顔の横に上げて静かに振る。
シンジが、微笑みながら踵を返し、駅に歩き出しながら、右手を頭の脇に上げた。
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モニターのこちら側 Genesis 5:17 完 

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