「ミサトさん？」
立ちあがり、レジャーシートを畳もうとしたシンジが言う。
「．．．」
「ミサトさん？」
シンジがミサトに近づく。
ミサトが寝息を立てていた。
「ミサトさん．．．」
シンジが微笑む。

しばらくミサトの寝顔を見ていたシンジが、顔をミサトの顔に近づける。
シンジの唇がミサトの唇を塞いだ。
「ん．．．」
ミサトが目を開く。
シンジの唇が離れる。
シンジとミサトの目が合った。
「あ．．．」
シンジが、しまったという顔をする。
「ご、ごめん．．．なさい。」
シンジは、そう言って視線を落とした。
「クス。」
ミサトが俯き加減に小さく笑う。
「初めてじゃないし．．．いいのよ。」
シンジがミサトを見る。
ミサトが微笑んだ。
 

階段を降りながらミサトが言う。
「いつも、屋上でお昼食べてたの？」
「ええ。」
シンジが答えた。
「けど、ちょっと暑いわよね．．．って寝ちゃったけど。」
苦笑しながらミサトが言う。
「ええ。まあ。けど、教室で食べるのも味気ないし。」
「そうなのよね。」

シンジの部屋の前に来た。
「それじゃ、私は、また、制御室にいるから。」
「はい。」
シンジが部屋の中に入っていった。
 

シンジが、制御室のドアをノックする。
返事がなかった。
「ミサトさん、入りますよ。」
シンジが制御室のドアを開ける。
ミサトが机に伏せていた。
シンジがミサトの脇まで歩いていき、肩を揺らす。
「ミサトさん。」
「ん．．．」
ミサトが起きあがって、シンジを見る。
「あ、シンジ君。」
「風邪引きますよ。」
「うん。ごめん。」
シンジが小さく笑う。
ミサトがシンジを見ながら言う。
「どうしたの？」
「もう３時だから、今日の分は終わりにしようかと思って。」
「そっか。宿題も書いてあったでしょ？」
「え、ええ。」
シンジが口ごもる。
「フフ。ま、いいわ。」
ミサトが、悪戯っぽく笑う。
「ちょっと外に出てみる？」
「はい。」
「じゃ、行こう。」
ミサトが微笑みながら、立ちあがった。

街中をシンジとミサトが歩いていく。
店には、シャッターが下りている。
「なんだか、お正月みたいね。」
ミサトが言う。
「そうですね。」
シンジが答えた。

高台の公園に着いた。
二人で、ベンチに腰を下ろす。
「結構あるわね。」
ミサトが言う。
「そうですね。」
シンジが言う。
二人が街を見ていた。
沈黙が流れた。

シンジが水筒を取り出して、水を飲む。
ミサトがシンジを見ていた。
シンジが水筒を口から離し、蓋を閉める。
シンジがミサトを見た。
「はい？」
シンジが言う。
「なんでもない。」
そう言って、ミサトは、街の方を見た。
シンジは微笑んで、そして、街の方を見た。

空の色が、ほんの少し赤みを帯び始めた。
「そろそろ帰ります？」
シンジが言う。
「そうね。」
ミサトが言う。
シンジが立ちあがって、ミサトに手を伸ばす。
「ミサトさん。」
ミサトが微笑む。
「ありがと。シンジ君。」
ミサトがシンジの手を取って立ちあがった。

シンジとミサトがシェルターに戻ると、５時近かった。
シェルターの中は静かだった。
シンジとミサトが、浴場や、部屋を見ていく。
ゲンドウ達は、戻っていなかった。
「ミサトさん？」
食堂の入り口で、シンジがミサトに言う。
「．．．」
ミサトが遠くを見ていた。
沈黙が流れた。

「とりあえず、食事しましょうか。」
ミサトが言う。
シンジがミサトを見る。
「けど、ミサトさん。」
ミサトがシンジを見る。
「お腹すいてない？」
「．．．すいてます。」
「じゃあ、食べましょう。」
「．．．はい。」

テーブルに、マーボー豆腐と、カイワレ、海苔が並べられた。
ミサトがご飯を御椀によそい、シンジが味噌汁を御椀によそう。
シンジがミサトを見る。
ミサトが頷く。
「「いただきます。」」
シンジが味噌汁に口をつける。
ミサトもそうした。

二人とも何も言わずに食べていた。

「「ごちそうさま。」」
シンジとミサトが皿と御椀を片して行く。
シンジが調理場で皿と御椀、箸を洗った。

シンジがテーブルにつく。
「父さんたち．．．」
テーブルに視線を落としてシンジが呟く。
「どっちかしらね。」
ミサトが呟く。
シンジがミサトを見る。
「どっちって？」
「日本政府と委員会。」
「委員会？」
シンジが怪訝そうな顔をする。
「ネルフの上の組織よ。彼らは、あの時、ネルフが人類補完計画で人類を消し去ろうとしていると日本政府に吹きこんで、ネルフを攻撃させた。」
シンジが驚いたような顔をする。
「まあ、今は、エヴァも無いし、マギも無いから、私達を殺すことはないと思うけど．．．」
「．．．」
「死ぬ前に何かしたいことある？」
「．．．」
シンジが俯く。
沈黙が流れた。

「続き、する？」
ミサトが唐突に呟く。
シンジが顔を上げる。
シンジが、半ば驚いたような、半ば呆けたような顔でミサトを見ていた。
『碇君が死んだら、私も、もう戻っては来ないから。』
シンジの頭の中で、レイの声がした。
沈黙が流れた。

突然、シンジが立ちあがり、テーブルを回ってミサトの脇に立った。
ミサトがシンジを見上げる。
「どうしたの？」
シンジがミサトの顎に軽く手を添える。
シンジの唇がミサトの唇を塞いだ。
ミサトが目を見開く。
シンジの舌がミサトの唇を開き、ミサトの舌に絡む。
ミサトが目を閉じた。

シンジが唇を離す。
ミサトが目を開き、シンジを見つめる。
「シンジ．．．くん？」
シンジが微笑んだ。
「また会えたら、続きをしましょう。」
シンジが言う。

シンジを見ていたミサトが、あの時のレイのように微笑んだ。
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モニターのこちら側 Genesis 5:16 完 

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