ミサトが広間に入る。
時計が１７４３を指していた。
「もう夕飯ね。」
制服を壁際に置いて、ミサトが立ちあがる。
ミサトが広間を出た。

ミサトが食堂に入ると、すでにいくつか食器が並んでいた。
調理場では、シンジが忙しそうに準備をしていた。
ミサトが調理場に入っていく。
「シンジ君。」
「なんですか、ミサトさん？」
シンジが手元を見たまま答える。
「何か手伝おっか？」
「まだ、持って行くところまで仕上げてないんですよ。」
「そっか。」
「待っててください。」
「了解。ごめんね。」
「いいえ。」
ミサトが調理場を出ると、ゲンドウと冬月が食堂に入ってきた。
「手伝いかね？」
冬月が、ミサトに言う。
「ええ。けど、待っててくださいって、言われちゃいました。」
苦笑しながら、ミサトが言う。
「そうか。」
冬月も、苦笑しながら答えた。

冬月の前にミサトが座った。
「ところで、葛城君は、松代のマギに入ることはできるかね？」
冬月が、おもむろに切り出す。
「私達のＩＤはないんですよね？」
「そうだ。」
「加持君の作ったＩＤが使えれば、可能性はありますが．．．」
「やはり、そういうものがあるのかね。」
「ええ。」
「そうか。」
「あとは．．．」
そう言って、ミサトがうつむく。
「あとは？」
そう呟いて、冬月がミサトを見る。
ミサトが冬月を見る。
「いえ。リツコがいれば、と思っただけで．．．
  もういないんですよね。まだ、実感が湧かないんです。リツコが死んだという。」
ミサトが口を開いた。
「そうか。まあ、仕方ない。私も、死んだ彼女を見たわけではないので、実感がないよ。」
冬月が言う。
沈黙が流れた。

青葉と日向が部屋に入ってきた。
「「こんばんは。」」
「「こんばんは。」」
冬月とミサトが言う。
青葉と日向がテーブルにつく。
シンジが、お櫃を持ってきて置いていく。
ミサトが、お櫃を開けて、茶碗にご飯をよそいはじめた。
ミサトが、茶碗を置いていく。
シンジが、肉じゃがとチンヂャオロースの皿を置く。
「これは、また、豪華だな。」
冬月が言う。
「パックがあったんです。」
シンジが、ミサトの隣りに座りながら答えた。
ミサトがご飯をよそい終わった。
「いただこうか。」
「「はい。」」
「「いただきます。」」
ゲンドウが箸を取った。

「葛城さんは、料理はしないんですか？」
青葉が口を開く。
「おい。」
日向が、低い声で言いながら、青葉を見る。
苦笑しながら、ミサトが言う。
「料理、駄目なのよ。ビールの方が好きだし。だから、シンジ君が来る前は、外食か、インスタント食品ばっかり。だから、シンジ君には感謝してるわ。ね、シンジ君？」
「ええ。まあ．．．」
苦笑するシンジ。
「それに、私好みの味付けにすると、この世のものとは思えない味のインスタントカレーとかできちゃうのよ。だから、シンジ君に止められてるの。ね、シンジ君。」
言葉もなく苦笑するシンジ。
「そうなんですか。」
苦笑しながら青葉が言った。

「ごちそうさま。」
「「「「ごちそうさま。」」」」
青葉と日向が席を立つ。
「「失礼します。」」
「ああ。」
冬月が答えた。
青葉と日向が、食器を調理場の下げ膳口に置いて、食堂を出ていった。
シンジがテーブルの上の食器をかたし、調理場に持って行く。
冬月、ゲンドウ、ミサトがお茶を飲んでいる。
沈黙が流れた。

シンジが湯のみをかたし、調理場に持って行く。
「では、松代のマギへのアクセス、お願いできるかね？」
「はい。」
「では、行こうか。」
「はい。」
冬月、ゲンドウ、ミサトが席を立ち、食堂を出ていった。

ミサトが、松代のマギの端末を操作している。
「加持君の作ったＩＤで行けるようです。」
「そうか。」
冬月が答える。
「とりあえず、補完計画の計画書があればいいですか？」
「ああ。セカンド・インパクトの文書と、各人の日誌もあればいいが。」
「計画書はＯＫです。」
「文書と日誌は？」
「その前に、状況を見ます。」
「．．．」
「アクセスはないようです。日誌は、司令、副司令、リツコのものでいいですか？」
「君の物もいるかもしれん。」
「分かりました。」
「．．．」
「ＯＫです。
  コピーは、６つでいいですか？」
ミサトが言う。
「ああ。頼む。」
「分かりました。」
ミサトが端末を操作しながら、チップを並べていく。
「終わりました。」
「ご苦労。
  他のマギ、いや、世界の状況は分かるかね？」
「松代のマギの外に出ると、履歴の残る可能性がありますが。」
「ふむ．．．いや、調べてみてくれ。」
「分かりました。」
「．．．」
「それ程多くありませんが、Internet上には、トラフィックが認められます。」
「．．．」
「マギへのアクセスは．．．」
「．．．」
「中国はないようです。」
「．．．」
「アメリカもないようです。」
「．．．」
「ドイツもないようです。」
「そうか。まだ、ほとんど戻ってきていないようだな。」
「ええ。」
「分かった。ありがとう。」
「いいえ。」
ミサトが接続を切った。

「どう思う、碇。」
冬月が口を開く。
「少ないながら、戻ってきている人がいるようですから、国々が動き始めるのも時間の問題だと思いますが。」
「そうだな。
  松代のマギのデータをプロテクトすることはできないのかね？」
冬月がミサトを見る。
「直接手を入れられれば、ここから出来るプロテクトなど役に立ちません。」
「そうだな。」
冬月が、腕組みをしながら、天井を見上げた。
沈黙が流れた。

「もし、手段があるなら、松代に行ってみますか？」
ミサトが、唐突に口を開く。
「返り討ちにあうだけではないか？」
冬月が言う。
「ここにいても、そのうち、捕まります。永遠にいられるわけでもありません。自給自足でもしないかぎり。」
「それはそうだ。しかし、車がいるぞ。」
「車を探すのを、日々の探索に加えるところから始めましょう。」
「そうだな。」
冬月がゲンドウを見る。
ゲンドウが頷いた。
冬月がミサトを見る。
「分かった。」
冬月が言った。
「他には、何かありますか？」
ミサトが言う。
「いや。」
「あすの予定は、どうなっていますか？」
「朝食が０７００、出発が０９００となっているが．．．
  葛城君には、シンジ君の保護を頼もうと思うが。」
冬月がゲンドウを見る。
「ええ。お願いします。」
ゲンドウが、ミサトを見て言う。
「分かりました。」
ミサトがゲンドウを見て言った。
「以上ですか？」
ミサトが言う。

冬月がゲンドウを見る。
ゲンドウが冬月を見る。
冬月が頷いた。
冬月がミサトを見る。
「つかぬこと聞くが、君は、レイではないのかね？」
ミサトが、虚をつかれたような顔をして、冬月を見る。
「あの．．．何を言われてるのか、よく分かりませんけど．．．」
冬月がミサトから視線を外した。
「我々は、ＬＣＬから戻ってきているが、最初に戻ってきたのは、シンジ君と惣流君だった。しかし、その惣流君は、シンジ君によれば、レイだったそうだ。」
「．．．」
「次に、碇と、伊吹君が戻ってきて、赤木君が戻ってきた。その赤木君も、シンジ君によれば、レイだったそうだ。」
「．．．」
「次に、青葉君、日向君、私、そして、君が戻ってきた。」
「．．．」
「ここからは、私の仮説だが、ＬＣＬ化した人は、ＬＣＬ化した場所に戻ってくる。我々のように。そして、ＬＣＬ化する前に死んでいた者は戻ってこない。もしそうではないとすると、ネルフ職員や戦自の兵士など、もっとたくさんの人が戻ってくるはずだ。」
「．．．」
「ひるがえって、正体がレイだった惣流君と赤木君について考えると、惣流君は、エヴァシリーズとの戦闘で死んでいる。赤木君は、碇が殺している。」
冬月がミサトを見る。
「そして、葛城君。君は、シンジ君を初号機のケージへおくる途中で爆死している。」
「．．．」
沈黙が流れた。

「しかし、真実は分からない。そういうことですか？」
ミサトが冬月を見る。
「そうだ。」
冬月が言う。
「なるほど。まず、私はレイではありません。
  それに、お話を聞いていると、たとえ、私がレイだとしても、特に利益があるようには思えませんが。」
「確かに、以前のレイのような能力はないようだが、レイならば、赤木君の記憶を持っている可能性がある。」
「なるほど。そうですね。ですが、残念ながら、私は、レイではありません。お役に立てなくて申し訳ありません。」
「いや、最低限の資料は確保できた。感謝する。つまらないことを聞いて、済まなかった。」
「いえ。」
沈黙が流れた。

「では、私は、これで。」
「ああ。ご苦労だった。」
「失礼します。」
ミサトがドアを開け、制御室を出ていった。

「どう思う。」
冬月が言う。
「分かりません。
  ただ、ここで、赤城君の記憶があったとしてもデータのプロテクトは、多分、無理でしょう。葛城君も言っていましたが、直接手を入れられれば、役に立たないでしょうから。」
ゲンドウが答える。
「そうだな。松代にいった後の問題か。葛城、青葉、日向．．．どう思う。」
「報告によれば、それなりに、マギをハッキングしているようでしたが。」
「．．．赤木、伊吹には及ばないか。」
「ええ。」
「違う手を考えるか。」
冬月が呟いた。
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