「副司令？」
青葉が言った。
「なんだね？」
冬月が答える。
「結局、人類補完計画は失敗したんですか？」
「まあ、そういうことになるな。」
「そうですか。ということは、人類は．．．」
「依然として絶滅の危機に瀕している。そういうことだ。」
「そうですか．．．」
「まあ、戻ってくる人間の数が少なければ、逆に絶滅を早めたということにもなるが。」
「．．．」
「しかし、今は、まず、我々が生き延びることだ。」
「そうですね。」
沈黙が流れた。

「また、人類補完計画を実行するということはありますか？」
日向が誰にとはなく問う。
「どう思う。」
冬月がゲンドウに言う。
「私はしないと思う。しかし、もし、それが、人類が絶滅しないための唯一の方法ならば、実行しようとする者はいるだろう。」
沈黙が流れた。

「君達は、実行したいかね？」
唐突にゲンドウが問う。
「いえ。あの時、完全な単体というのが、ピンときませんでしたから。」
青葉が言う。
「私も、そう思いました。」
日向が言った。
「そうか。」
冬月が遠くを見ながら言った。

学校に戻ってきた。
５人がシェルターに降りていく。
「とりあえず、シャワーを浴びますか？」
ゲンドウが冬月に問う。
「ああ。そうさせてもらうよ。」
冬月が答えた。
「着替えは、衣料庫にあります。」
「分かった。」
「夕飯、すぐ食べますか？」
シンジが聞いた。
「どうしますか？」
ゲンドウが冬月を見る。
「シンジ君が作ってくれるのかね？」
「ええ。」
「そうか。シンジ君の都合のいいようにしてくれればいい。」
「分かりました。」
シンジが食料庫に歩いていった。
ゲンドウ達は、衣料庫で着替えを取り、浴場に入っていった。

ゲンドウ達が食堂の椅子に腰を下ろすと、シンジがお茶を持ってきた。
「まだ、しばらくできないですけど。」
シンジが言う。
ゲンドウが口を開く。
「そうか。
　冬月先生。ちょっとお話が。」
「分かった。」
ゲンドウと冬月が立ちあがり、食堂を出ていった。

ゲンドウが寝起きしている部屋で、ゲンドウと冬月が話していた。
「しかし、補完計画を再び実行するかというのは、いい質問だな。」
冬月が言った。
「ええ。今のところ、依代はすべて失われていますが、多分、そう、我々が掛けた１５年よりも、ずっと短い時間で実行されるでしょう。ただし、あの状態を進化と言うのかは、疑問ですが。」
ゲンドウが言う。
「そうだな。ゼーレは、どうすると思う。」
「彼らが戻ってくれば、彼らは、また実行しようとするでしょう。」
「止められないか。」
「ええ。」
沈黙が流れた。

「どうにもならないのか。」
冬月が呟く。
「それが、人類の限界なのかもしれません。種の限界とか、そういうことではなく。」
ゲンドウが呟いた。
「そうかもしれんな。」
冬月が視線を壁に移した。
沈黙が流れた。

「ただ。」
唐突にゲンドウが言う。
「ただ？」
冬月が問う。
「リリスに人格があるとすれば。」
「．．．」
「補完計画は、失敗しつづけるかもしれません。」
「！」
冬月がゲンドウを見る。
「そうか．．．」
「．．．」
「そうかもしれないな。」
そう言って、冬月が微笑む。
ゲンドウが微笑んだ。

コンコン。

壁を叩く音がした。
ゲンドウが入り口に目をやると、シンジが立っていた。
「夕飯できました。」
「今行く。」
ゲンドウと冬月が立ちあがった。
シンジが歩き出した。

ゲンドウと冬月が、食堂に入り、椅子に腰を下ろした。
青葉と日向は、すでに食べ始めていた。
「「お先にいただいてます。」」
「ああ。かまわんよ。」
青葉と日向は、カレーを食べていた。
シンジが青葉と日向の前にコンソメスープを置く。
「あの、カレーとシャケ缶、どっちがいいですか？」
シンジがゲンドウと冬月に聞く。
ゲンドウと冬月が顔を見合わせる。
ゲンドウが、冬月に手を向けた。
冬月がシンジを見る。
「シャケ缶をお願いしよう。」
「分かりました。」
シンジが調理場に入っていく。
「ずっと、シンジ君がやっているのかね？」
「ええ。」
「人が増えてきたら、考えないといけないな。」
「そうですね。」
「シンジ君は、勉強もしなくてはならんし。」
「はい。」
沈黙が流れた。

しばらくして、シンジが椀と皿を持ってきた。
ゲンドウと冬月の前に、ご飯と、シャケ、ふろふき大根、味噌汁が置かれた。
「どうぞ。」
「ありがとう。
　いただこう。」
「はい。」
ゲンドウと冬月が味噌汁に口をつけた。
その脇でシンジがカレーを食べ始めた。

「ごちそうさま。」
「ごちそうさま。」
青葉と日向が、そう言って、食器を片し、調理場に持っていく。
しばらくして、青葉と日向が調理場から出てきて、座っていた椅子に腰を下ろした。

「ありがとう。シンジ君。」
食事を終えた冬月がシンジに言う。
「あ、いいえ。」
そう言って、シンジが、食器を片していく。
シンジが、食器を持って、調理場に入っていった。
「部屋は、決めたかね？」
冬月が青葉と日向を見る。
「いいえ。」
「今のところは、好きな部屋を使えばいいのだろう？」
冬月がゲンドウを見る。
「はい。
　早速、マギの方、やってもらいますか。」
「そうだな。制御室だったかね？」
「はい。」
「じゃ、すまないが、頼むよ。」
冬月が青葉と日向を見る。
「「はい。」」
青葉と日向が答えた。

「万策尽きたという感じかね。」
冬月が問う。
「はい。」
青葉が答えた。
通用するＩＤとパスワードが、まったくなかった。ハッキングするにしても、制御室のパソコンでは、処理能力がまったく足らず、お手上げだということが分かった。
「赤木君を失ったのは痛いな。」
冬月が厳しい表情をする。
「そうですね。」
日向がもう一つのモニターの前で腕を組みながら言った。

「おやすみ。」
冬月が言った。
「「おやすみなさい。」」
青葉と日向が言った。
「碇。」
「はい。」
冬月とゲンドウがゲンドウの部屋に入っていった。

「どうする。」
冬月が言う。
「仕方ないでしょう。」
ゲンドウが、諦めたように言う。
「まあ、そうだな。」
「．．．」
「早く、人がたくさん戻ってくることを期待する、ということか。」
「はい。」
「分かった。それじゃ。」
「はい。」
冬月が部屋を出ていった。

ゲンドウが、シンジの部屋の中を見る。
シンジはいなかった。

シンジは、屋上で、空を見ていた。
月が欠けはじめていた。
月に赤い帯がかかっていた。
「シンジ。」
ゲンドウの声がした。
「どうしたの？」
シンジが振り向く。
「することがなくなった。」
ゲンドウが苦笑いする。
「そう。」
シンジが、向き直り、空を見る。
ゲンドウも空を見た。
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モニターのこちら側 Genesis 5:11 完 

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