食器を洗いおえて食堂に行くと、プラグスーツ姿のアスカが椅子にかけていた。
テーブルの上に、ビニール袋に入った制服が置かれていた。
アスカがシンジを見る。
アスカが微笑んだ。
シンジが微笑む。
「着替え、見つかったんだ。」
「ええ。」
「そう。よかったね。」
アスカが微笑む。
「碇君は？」
「広間の手前の倉庫にあったの？」
「ええ。」
「そう。じゃ、これから見てくるよ。」
「私、これから、シャワー浴びるから。」
「うん。わかった。」
二人が同時に立ち上がり、食堂を出て行く。二人とも、入り口の方へ。
「じゃ、私．．．」
「うん。」
アスカが浴場に入っていった。
「僕も風呂に入って、服を洗わないと。」
そう呟きながら、シンジは、衣料倉庫に足を進めた。

衣料倉庫の中は、ほとんどが制服だった。普通の服もあったが、大人用だった。
「ま、学校だからね。ちょっと窮屈だけど仕方ないか。」
ワイシャツと黒ズボンの山を見ながら、シンジが呟いた。
「それで、下着は．．．
多分、奥の方．．．」
パンツとシャツ、靴下が積まれた棚が見えてきた。
自分のサイズのものを取っていく。
「いくつかまとめて持っていった方がいいかな。けど、置く場所がないか．．．」
シェルター内には、個人用のロッカーなどなかったことを思い出していた。
「ま、いいか、大した手間でもないし。あとは、寝るのに、体操着でも．．．」
体操着を見つけ出し手に取るシンジ。
「あと、タオルと雑巾かな．．．」
タオルと雑巾は入り口近くにあった。
着替えを抱えてシンジが衣料倉庫を出る。
食堂の方へ歩きはじめると、アスカが浴場から出てきた。
アスカがシンジを見る。
「碇君。」
「制服しかないんだね。」
「ええ。」
「プラグスーツは？」
「洗濯機に入れてあるわ。」
「そう。」
アスカがシンジを見ている。
「なに？」
シンジがアスカに問う。
「ううん、何も。後で取りに行くから。」
「そう。」
アスカがシンジを見る。
「一番手前の広間にいるから。」
「うん。」
アスカが広間へと歩いていった。

着ている物を脱いで、浴場の手前、ランドリーにある洗濯機に入れ、タイマーをセットする。水が注がれはじめた。

脱衣所の籠に着替えを入れ、棚から石鹸とシャンプーを取り、浴場に入る。
沢山のシャワーと乾いた浴槽。浴槽は、小さな物と大きな物があった。
シャワーの蛇口をひねると水が出てきた。少しすると多少温かくなった。
手早く頭、顔、体を洗い、石鹸をおとす。
シャワーを止めて、息をつく。
「どうしようか。これから．．．」

軽く体を拭いてから、浴場を出た。
きちんと水を拭き取り、体操着を着る。
着替えを持って、脱衣所を出た。

ランドリーで、椅子に座り、洗濯と乾燥が終わるのを待つ。
まず、プラグスーツの乾燥が終わった。
プラグスーツを取り出し、たたんでいく。
プラグスーツに落ちる涙。
「アスカ．．．」
急いでたたんで、脇に置いた。

ふと気が付くと乾燥機が動きを止めていた。
シンジは、涙を拭うと、乾燥機から自分の服を取り出し、たたんで、プラグスーツと共に持つと、ランドリーを出た。

広間に入ると、アスカが敷布団の上に横になっていた。
脇に腰を下ろすシンジ。
アスカが寝息を立てている。
「僕も、寝るかな。」
押し入れから、敷布団と毛布を取り出し、アスカの横に敷く。
アスカに毛布をかけ、シンジも布団に横になる。
歩きつかれていたシンジも、すぐに眠りに落ちた。

「．．．い．．君．．．碇君．．．」
軽く肩を揺すられて、シンジが目を醒ます。
目の前にアスカの顔。
「ん．．．アスカ．．．」
アスカが微笑む。
「お昼だけど．．．」
アスカが言う。
「そう。じゃ、お昼にしようか？何がいい、アスカ？」
「なんでもいいわ。」
「そう．．．あ．．．」
気まずそうな顔をしてアスカを見るシンジ。
「ごめん、綾波。」
「いいの。別に。」
その答えに、不思議そうな顔をしてアスカを見るシンジ。
「碇君が気付かなければ、そう呼ばれるつもりだったし。」
「そう．．．」

シンジが、食料庫からインスタントラーメンを取り出してきた。
二人分ラーメンを作り、食堂に持っていく。
「お待たせ、アスカ。」
シンジが、不安そうな顔でアスカを見る。
アスカが微笑む。
「ありがとう、シンジ。」
「．．．」
「．．．」
「じゃ、食べようか。」
「ええ。」
「「いただきます。」」
無言で、ラーメンをすする二人。
シンジが話しだす。
「この後、少し、外に出てみない？」
アスカがシンジを見る。
「ええ。」

ラーメンを食べ終えて、シンジが言う。
「他の人達って、そろそろ戻ってくるのかな。」
「人によって違うけど、そろそろ戻ってくる人もいると思うわ。」
「皆、芦ノ湖から？」
「それは、分からないわ。」
「そう。」

「「ごちそうさまでした。」」
シンジが食器を片し始める。
アスカも食器を持ち、立ち上がる。

シンジが食器を洗い、片していく。

「じゃ、行こうか。」
「傘とかいらないの？水とか？」
「そうだね。傘は、衣料倉庫だよね？」
「ええ。」

二人で、食料倉庫に寄った後、衣料倉庫に寄り、傘と鞄を取った。

外に出ると、太陽の光が眩しかった。午後２時。一番暑い時間だった。
「暑いね。」
「ええ。」
空には、あいかわらず赤い帯がかかっていた。
「まだ、沢山の人がＬＣＬの中にいるんだね。」
「．．．」
シンジはアスカを見た。
アスカが赤い帯を見ていた。

お店は、皆シャッターが降り、壊れていても、中に何かがあるわけでもなく、しばらく歩いて、高台の公園に来た。
日差しを避けるため、木陰のベンチに腰を下ろす。
シンジが、ミネラルウォーターのボトルの口を開け、水を飲む。
アスカがシンジを見ていた。
視線に気付いて、シンジがアスカを見る。
「アスカは、飲まないの？」
「．．．」
「？」
「それ、貰ってもいい？」
「！．．．あ．．．いいけど．．．」
アスカがシンジを見つめる。
シンジが顔を赤くしながら、ボトルをアスカに渡す。
アスカが水を飲む。
シンジがアスカを見ていた。
アスカがボトルから口を離す。
アスカがシンジを見て、ボトルを差し出す。
「ありがとう、シンジ。」
「あ．．．うん。」

「いい天気ね。」
「そうだね。」
ベンチに体をあずけ、二人共、空を見上げている。
夏とは言え、木陰を流れる風は涼しく、気持ちのいい空間を作り出していた。
「ずっと、このままならいいのに。」
「そうだね。」

「そろそろ帰ろうか。」
しばらくしてシンジが言った。
「ええ。」
アスカが答える。
シンジが立ち上がり、アスカに手を伸ばす。
「アスカ。」
アスカがシンジの手を握り、立ち上がる。
「ありがとう。シンジ。」

学校へ戻るべく、街の中を歩いていると、だんだん空が暗くなってきた。
「雨が降るのかな。」
「そうね。」
「急がなくちゃ。」
「ええ。」

学校が見えてきた所で、雨が降りだした。滝のような雨。
あたりに、雨宿りするような所はなかった。
「これじゃ、傘さしても濡れちゃうね。」
「そうね。」
「濡れていこうか。洗えばいいんだし。」
アスカが微笑む。
アスカが歩を緩める。
シンジも歩くのを少し遅くした。
雨にシンクロするように。
シンジは、なんとなく、雨の向こうのレイの心が分かるような気がした。

「シンジ、いいわよ。」
「了解、レイ。」
アスカの声を受けて、シンジがランドリーに歩を進める。
洗濯機が一台音を立てている。
シンジは、別の洗濯機にタオルを入れ、服を脱いで入れていく。
洗濯機のタイマーを回すと、シンジは脱衣所に入っていった。

シンジが脱衣所から出てくると、制服を着たアスカがランドリーの椅子に腰掛け
ていた。
アスカが微笑む。
シンジがアスカの隣に腰を下ろす。
「晩御飯、何がいい？」
シンジがアスカに問う。
「栄養のバランスも考えないといけないかしら。」
「そうだね。けど、そうも言ってられないし．．．」
「そうね。野菜の種とかあったかしら。」
「あるかもしれないね。後で探してみるよ。」
「．．．」
「けど、明日にしようかな。今日は疲れたし。」
苦笑いしながら、シンジが言う。
「そうね。」
そう言って、アスカが微笑んだ。

シンジが、五目御飯とお味噌汁をテーブルに置く。
「おまたせ。」
「ごめんなさい。シンジ。」
「別にいいよ。」
シンジが椅子に腰を下ろす。
「食べよう？」
「ええ。」
「「いただきます。」」

「明日は、芦ノ湖の方に行ってみない？」
アスカがシンジを見る。
「戻ってきた人を探しに？」
「うん。」
「そう。」
「朝出れば、戻ってこられるよね。」
「多分。けど、何か持っていった方が良いかもね。」
そう言って、アスカが視線を落とす。
「何かって？」
「拳銃とか。」
シンジが、目を見開いてアスカを見る。
「知っている人だけが戻ってくるわけじゃないわ。
いい人だけが戻ってくるわけでもない。」
視線を落としたままアスカが言う。
「．．．そうだね．．．」
シンジが視線を落とし、お味噌汁に口を付けた。

食器を片しながら、シンジが言う。
「そう言えば、通信設備とかあるよね。」
「ええ。」
「後で、ちょっと見てみようか。」
「ええ。」

広間に戻り、通信のスイッチを入れてみる。
『．．．御殿場．．．シェルター．．．してくだ．．．くりかえし．．．』

「御殿場のシェルターは生きてるみたいだね。」
シンジがアスカを見る。
アスカがシンジを見る。
「そうね。人もいるのかしら。」
「レイは、どう思う？」
アスカが目線を下ろす。
「分からない。」
「．．．」
アスカが目線を下ろしたまま続ける。
「ただ、まったく戻ってきていないとは言えないわ。」
「そう。」
そう呟いて、シンジは、通信のスイッチを切った。

シンジとアスカが、敷布団と毛布を出してきて並ベて敷く。
「寝ようか。」
「ええ。」
シンジがアスカを見る。
「おやすみ、レイ。」
アスカがシンジを見る。
「おやすみ、シンジ。」
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モニターのこちら側 Genesis 5:1 完

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