『僕を助けてよ！
一人にしないで！
僕を見捨てないで！
僕を殺さないで！』
『．．．イヤ』
『！！』

ここでも、あの台詞を、聞かされるのか。
もういいよ。アスカ。

波打ち際。
電柱のシルエット。
アスカに馬乗りになり、その首を絞めるシンジ。
目を見開くアスカ。
アスカの手がシンジの頬に触れる。

母さん？

アスカを見るシンジ。
アスカが静かにシンジを見つめる。
アスカの頬に落ちる涙。
手をゆるめるシンジ。
目線を少しゆるめ、空を見るアスカ。
シンジがアスカの胸に顔を埋める。
アスカが呟いた。
「気持ち悪い。」

しばらくして、顔を上げるシンジ。
アスカがシンジを見る。
「どいてくれる？」
シンジがアスカの上から降りて、アスカの脇に腰を下ろす。
シンジがアスカを見ている。
アスカが起き上がる。
「これから、どうするつもり？」
アスカがシンジに問う。
「．．．綾波は？」
シンジがアスカに問い返す。
アスカが微笑む。
「分かったの．．．」
「うん。」
「そう。」
沈黙が流れた。

「アスカは？」
アスカがシンジを見る。
「死んだ人は、生き返らないわ。葛城三佐も、弐号機パイロットも、赤木博士も。」
「そう．．．」
泣きはじめるシンジ。
シンジを見るアスカ。
「ごめんなさい。碇君。」
アスカを押し倒し、首を絞めるシンジ。
シンジを見て、悲しげに微笑み、目を閉じるアスカ。
シンジが、首を絞める手を緩める。
シンジがアスカの胸に顔を埋める。
アスカがシンジの背に手を回す。
アスカが空を見ていた。

シンジがアスカから降りて、横に寝転がる。
「綾波？」
「何？」
「他の皆は？」
「もうすぐ戻ってくるわ。」
「そう。
それまで、僕たち．．．」
「そうね。食べるもの、探さないと。」
「そう。」
シンジが体を起こす。
アスカがシンジを見る。
「僕たちの家、無事かな。」
「とりあえず、行ってみる？」
「そうだね。」
「その後は、学校とか、シェルターとか。」
「そうだね。」
シンジが立ち上がり、アスカに手を伸ばす。
アスカが起き上がり、シンジの手を掴んで、立ち上がる。
「行こうか。」
「ええ。」

二人は、破壊されていない道を探しながら、３時間以上歩いて、コンフォート１７マンションに着いた。
辺りは、明るくなっていた。
当然のことながら、何も動かない。
ジオフロントが失われて、この町の機能は死んでいた。
「学校に行きましょう。多分、水があるから。」
アスカが言う。
「そうだね。」

学校に行った。
校舎の裏の井戸の手動ポンプを動かしてみる。水が出てきた。
「助かった。」
アスカに微笑んだ。
アスカが、水を見ている。
水を少し口に含む。おかしな味、感じはしない。
「大丈夫みたいだよ。」
「そう。」
アスカが、水を口に含む。
「そうね。大丈夫そう。」
アスカが微笑んだ。
水を飲んだ。

「次は、食料だね。」
「そうね。」
「けど、皆、疎開してたよね。」
「ええ。」
「だとすると．．．」
シンジが考えている。
「お店とかは、駄目だろうから、やっぱり、シェルターしかないと思うけど．．．
ここから、入れるシェルター、生きてるかな。」
「調べてみる？」
「うん。」
校舎地下のシェルターの入り口のパネルを操作してみる。
シェルターの入り口が開き始める。
「生きてるみたいだね。」
「そうね。」

シェルターの中に入り、扉を閉じた。
実戦の時には、二人とも、この中に入ったことはなかったが、避難訓練に参加したことがあるので、内部の構造は把握していた。
「避難訓練、何の役に立つのかと思ったけど、参加しておいてよかったね。」
「そうね。」
「ここだっけ？」
「食料庫？」
「うん。」
「そうだと思う。」
シンジが扉の脇のパネルを操作する。
扉が開いた。
広大な倉庫に、非常食が積まれていた。
「しばらく大丈夫そうだね。」
「そうね。」

食料庫内を、しばらく歩き回り、乾パンとインスタントのカレーを取り出した。
「綾波、カレー、大丈夫？」
「ええ。」
「そう。肉があったら、避ければいいから。」
「ええ。」
「調理室、この先だよね。」
「ええ。」
「使えるかな。」
「試してみましょう？」
「うん。」

調理室は、ホットプレートも、水も、特に問題なく使えた。
しかし、水は、いつまで使えるか分からないので、あまり使わないようにしてカレーを作った。
食堂のテーブルに、カレーの皿を二つ置く。
「じゃ、いただきます。」
「いただきます。」
二人で、もくもくとカレーを食べる。
「綾波？」
アスカがシンジを見る。
「とりあえず．．．よかったね。」
「そうね．．．ありがとう、碇君。」
アスカが微笑んだ。
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