少し走るとパーキングエリアが見えた。
車が入っていく。
とぎれとぎれになった駐車枠に車が入って、止まった。
「ちょっと写真撮ってくるけど．．．」
ミサトが、シートベルトを外しながら言う。
「降りてもいい？」
聞いてみた。
「ええ。」
ミサトがバックミラー越しに微笑みながら言った。

柵の近くに並んで、湖を見ていた。
「あの時見たのと、あんまり変わらないね。」
湖を見ながら小さく言った。
「あの後、歩いてきたとき？」
シンジが言う。
「うん。」
「そうだね。」
「みんななくなって。そうすると、変わらないんだね。」
「そうだね。」
「．．．」
シンジの右手をつかんだ。
シンジが、私の手を握り返す。
沈黙が流れた。

「レイとは、あの時以来かな．．．」
レイの方を見て言った。
「あの時？」
レイが、私を見て、小さく言う。
「ほら。停電したとき。」
「．．．」
「忘れちゃった？」
「ううん。覚えてるよ。」
「うん。いろんなことあったよね。」
「そうね。」
沈黙が流れた。
『そっか．．．レイじゃないんだよね．．．』
『本物のレイがいたら、なんて言ったかな．．．』
『やっぱり、そうね、かな．．．』
『．．．』
あのころと同じような夏の日差しを感じながら、芦ノ湖を見ていた。
弱くあたっていた風を涼しく感じるようになって、汗が出てきたのが分かった。
「そろそろ行く？」
シンジに言った。
「そうだね。」
シンジが答える。
「いい？」
レイに聞いてみた。
「ええ。」
レイが頷いた。

車に戻ると、冷房が気持ちよかった。
「暑いね。」
先に戻っていたミサトに言った。
「そうね。昔みたい。」
サイドブレーキを下ろしながら、ミサトが言う。
「いい？」
ミサトが言う。
「はい。」
レイが、シートベルトを締めながら言った。
「じゃあ、行くね。」
車が動き出した。
 

街に下りていくと、第壱中学校の前に来た。
車が止まる。
「ここに泊まるんだっけ？」
ミサトに聞いてみた。
「ええ。ここも写真撮るんだけど、降りる？」
ミサトが、シートベルトを外しながら答える。
シンジを見た。
シンジが頷く。
「うん。降りてみる。」
「了解。」
ミサトがドアを開けて、外に出た。
私たちも、降りてみた。

「暑いね。」
あのころのように、アスファルトから、熱気が立ち上っている。
「そうだね。」
シンジが言う。
ミサトが、門を開けて入っていく。
「いこ。」
そう言って、門の方へ歩き出した。

「懐かしいね。」
校舎の写真を撮っているミサトを見ながら、言った。
「そうだね。」
シンジが答える。
「なんか、不思議。」
「何が。」
「うーん．．．」
「．．．」
「誰もいないのに、こんな風に、そのまま残ってるのが．．．」
「そうだね．．．」
「懐かしいような。そうでないような。」
「うん．．．」
「なんで．．．」
「．．．」
「．．．」
「なんで．．．？」
「ん．．．なんでもない。」
「そう．．．」
「うん。」
沈黙が流れた。

ミサトが、私たちの方へ歩いてくる。
「大体ＯＫかな。」
ミサトが言う。
「了解。移動？」
ミサトに聞いてみた。
「そうね。」
ミサトが微笑む。
「了解。」
ミサトに微笑んだ。
 

コンフォート１７マンション前

ミサトが車から降りて、写真を撮っている。
ミサトを車の中から見ていた。

その少し前。

「降りる？」
ミサトが、シートベルトを外しながら言う。
「中に入るの？」
聞いてみた。
「ううん。表からみるだけよ。」
「じゃ、いいかな。」
「了解。」
ミサトが、そう言ってドアを開けた。

「いいの？」
シンジが言う。
「中に入らなければいいかなって。」
シンジに答えた。
「そっか。」
「それに、入っても、ほこりが積もってそうだし．．．」
「．．．」
「昔の服とか、今更仕方ないし．．．」
「．．．」
「ちょっと夢がないかな．．．」
「いや。まあ、そうだよね。」
「うん。ま、いいかなって．．．」
沈黙が流れる。
窓から、マンションを見上げてみた。
空の明るさが眩しかった。
 

マンモス団地前

あのころ、いつも聞こえていた工事の音がしなかった。
何か不思議な感じがした。
「静かだね。」
なんとなく呟いてみた。
「そうだね。」
シンジが呟く。
「．．．」
「あのころは、いつも、工事の音がしてた。」
「うん．．．」
そう言って、レイを見ると、団地を見上げていた。
フロントガラスの向こうで、ミサトが団地の写真を撮っていた。
沈黙が流れた。

「変わらないね。」
呟いた。
「そうだね。」
シンジが呟く。
「．．．」
「ここは、あのころのままだね。」
「．．．」
「だから、ここに来ることになったのかな。」
「そうかもね．．．」
「．．．」
シンジを見た。
フロントガラスの向こうを見ていたシンジが、私を見た。
「湖の下に何か作ってるのかな？」
「うーん。あれだけ、戦自が検問しちゃってると、それはないと思うけど．．．」
「そうだね。」
「うん。」
「じゃあ、人がいないとか、そういうことかな．．．」
「そうかもね．．．」
「そっか．．．」
シンジが、また前を向いた。
沈黙が流れた。

「お待たせ。」
ミサトがドアを開ける。
「お疲れ。」
ミサトに言った。
「あとは、芦ノ湖だけ。」
「そうなんだ。」
「うん。それで、学校に戻って寝て帰るだけよ。」
ミサトがシートベルトを締めながら言う。
「じゃ、いい？」
「ええ。」
車が動き出した。
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モニターのこちら側 Genesis 3:97 完 

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