その数時間前

「ただいま。」
玄関のドアを開けて、シンジが言う。
返事はなかった。
「もう寝てるわよ。」
そう言って、靴を脱いで、廊下に上がった。
「そうだね。」
シンジが上がり、そして、靴をそろえる。
シンジが、立ち上がった。
「ありがと。」
「．．．」
シンジが小さく首を振る。

「シャワー、先に使っていい？」
シンジに聞いてみた。
「いいよ。」
シンジが答える。
「ありがと。じゃあ、先に使うね。」
「うん。」

部屋着を持って、浴室に行った。
脱衣所で服を脱いでいく。
Ｔシャツ。ジーパン。ブラ。ショーツ。靴下。

ほんの少し暖かいくらいの温度にして、シャワーを使った。
メークを落として、髪を洗って、汗を流す。
ほんの少し冷たくして、少しの間、頭から浴びていた。
頭が冷えていく。
シャワーを止めて、濡れたタオルで軽く拭いて、浴室から出た。

髪と体を拭いて、そして、ショーツをつけて、部屋着を着た。

「シンジ？」
シンジの部屋のドアの前で言う。
「はい。」
シンジの声がした。
「シャワー、空いたから。」
「ありがと。」
シンジの声を聞いて、そして、自分の部屋に入った。

ドライヤーで、髪を乾かす。
乾かし終えて、ベッドに横になった。
『死ぬのかな．．．』
『死んだら、ママに会えるのかな．．．』
『けど．．．』
起き上がって、じっとシーツを見ていた。

足音がした。

ベッドから降りて、ドアに歩いていき、ドアを開けた。
シンジが、部屋に入ろうとしていた。
シンジが、私を見る。
「どうしたの？」
「．．．」
シンジをじっと見た。
「何か飲む？」
シンジが私に言う。
「．．．うん。」
「了解。」
シンジが、キッチンの方へ歩き出した。

「はい。」
シンジが、私の前にカップを置く。
ラベンダーの香りがした。
「ありがと。」
シンジが、カップを持って、私の前に座る。
シンジが私を見た。
視線を落として、カップに口をつけた。

カップをテーブルに置く。
「シンジは、平気なの？」
シンジを見た。
シンジが私を見る。
「平気じゃないよ。」
「．．．」
シンジが、視線を落とす。
「けど、逃げられそうにもないし．．．」
「．．．」
「やるしかないんじゃないかな。何をやるのか分からないけど．．．」
「．．．」
「．．．」
テーブルを見た。
「そう．．．」
沈黙が流れた。

「死んじゃうかも．．．しれないよね．．．」
テーブルを見たまま言った。
「そうだね．．．」
シンジの声がした。
「平気なの？」
「アスカだけ、死なせるようなことはしないよ。」
シンジを見た。
シンジが私を見ていた。
視線をテーブルに落とした。
「そう．．．」
そう言って、カップに口をつけた。
沈黙が流れた。

ハーブティーを飲み終えた。
シンジを見て、そして、視線を左下にそらした。
「ありがと。もう寝るね。」
小さく呟いた。
「うん。」
シンジが、小さく言う。
シンジが、立ち上がって、カップを取り、キッチンに向かう。
カップを洗っているシンジの背中を見ていた。

シンジが、手を拭いて、歩き出す。
シンジの後ろから、私も歩き出した。

「じゃあ、おやすみ。」
シンジが言う。
「．．．」
シンジを見ていた。
「シンジ．．．」
そう言って、シンジの胸に頭を寄せた。
「アスカ．．．」
「怖いよ。シンジ。」
「．．．」
「死んだら、また、一人になっちゃうよ。」
「アスカ。」
シンジの腕が私を引き寄せる。
「もう一人になるのは嫌！」
「アスカ。」
「私を一人にしないで！！」
シンジの唇が、私の唇に重なった。
 

ダイニングを通ると、シンジが、キッチンに向かって何か作っていた。
洗面所に行って、キッチンに戻ると、シンジが、お皿を並べていた。
「おはよう。」
シンジが私に微笑む。
「おはよう。」
少しバツの悪い感じで、シンジに微笑んだ。
「何、飲む？」
「昨日と同じの。」
「了解。」
シンジが、ホットケーキとハッシュドポテトの載ったお皿をテーブルに置く。
シンジが、私の前にカップを置いた。
シンジが、リビングに歩いていく。
「ミサトさん？」
シンジがミサトを呼ぶ声が聞こえた。

「おはよう。」
ミサトが、あくびをしながら、洗面所に歩いていく。
「おはようございます。」
「おはよう。」
そう言って、カップに口をつけた。

シンジが、ホットケーキを切っているのを見ていた。
「ね。」
シンジに言った。
「なに？」
そう言って、シンジが、ホットケーキを口に入る。
「昨日は、ごめんね。」
「んんん。」
シンジが首を振る。
「嫌いに．．．ならないよね．．．私のこと．．．」
テーブルに視線を落として言った。
「また好きになったよ。アスカのこと。」
シンジを見た。
シンジが微笑んで、私を見ていた。
「うん。」
そう言って、ホットケーキにナイフを入れた。
 

ミサトが、リビングに入ってくる。
「何飲みます？」
立ち上がりながら、シンジが聞いた。
「コーヒー。薄めかな。」
ミサトが椅子に座りながら言った。
「了解です。」
シンジがキッチンに向かった。

「スケジュール、決まった？」
ミサトに聞いた。
「うーん。まだ、ちょっとつめてるところ。」
「．．．」
「箱根、私の車だと厳しいかもしれないから、少し段取りつけないといけないみたい。」
「ああ。そういうこと。」
「うん。ジープとか、その辺かな。」
「．．．」
シンジが、カップをミサトの前に置く。
「まあ、多分、松代から行くことになると思うけど、問題は、レイを、どこで拾うかかな。」
「なるほど。」
「まあ、今日明日には決まると思うから。」
「了解。」
「そっちは、何か決まったの？」
「うーん。まあ、終わってから。」
「了解。」
「もしかしたら、沖縄かも。」
「ああ。そうね。それもいいかも。」
そう言って、ミサトが、カップに口をつけた。
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