しばらく歩くと、３つめの分かれ道に出た。
「ここ？」
シンジに聞いてみる。
「うん。ここ。」
「了解。」
来た道とは違う方に曲がった。

少し歩くと、分かれ道に出た。
「どっち？」
「左かな。」
「了解。」

歩いていると、鳥の鳴き声が聞こえるようになってきた。
鳥の声を聞きながら歩いていた。
なんとなく、歩くのが楽な感じがした。

鳥の鳴き声を聞きながら、しばらく歩くと、また、分かれ道に出た。
「ここは？」
傍らのベンチを見ながら聞いた。
「右かな。」
「了解。」
ほんの少し歩くと、トイレがあった。
「トイレ、寄ってもいい？」
シンジに聞いた。
「僕も。」
レイを見た。
レイが頷いた。
「じゃ、後で。」
そう言って、トイレに入った。

ドアを開けると、レイが待っていた。
「あ。ごめん。お待たせ。」
「．．．」
レイが軽く目を閉じて、微笑みながら首を振る。
「前で待ってるね。」
「うん。」
そう言って、レイが、トイレのドアを閉めた。

外に出ると、シンジが、道の先の方を見て、立っていた。
「お待たせ。」
そう言うと、シンジが、私の方を見て、そして、首を軽く振った。
シンジの隣に立って、先の方を見た。
ベンチが、目に入った。
「今、どの辺なの？」
シンジが、ガイドを取り出す。
「ここかな。」
シンジが、トイレの記号のあるところを指す。
「こう来た感じかな。」
池から随神門に伸びる道を辿り、途中で曲がって、小鳥の小道を通って、トイレの記号のあるところに戻ってきた。
「さっきの、小鳥の小道って言うんだ。それで、鳥の鳴き声がしたのね。」
「そうかもね。」
「ふーん。」
そう言って、地図を見ていた。
ふと気配を感じて、目を上げると、レイが向こう側から見ていた。
レイに微笑んだ。
レイが私に微笑む。
「行く？」
シンジを見た。
「いい？」
シンジが、レイを見る。
レイが、頷いた。
「じゃあ、行こうか。」
そう言って、シンジが歩き出した。

歩き始めるとすぐに、道の両側に水芭蕉が咲き出した。
「綺麗ね。」
「そうだね。」
少し歩く早さを緩めて、水芭蕉を眺めていた。

水芭蕉が見えなくなって少し歩くと、また、分かれ道に出た。
「ここは？」
「こっちかな。」
シンジが、一番左の道を指す。
「了解。」
歩きはじめると、右側に、少し花が咲いていた。
「ここも、綺麗ね。」
「そうだね。」
「ここは、何かなの？」
「高山植物園だったかな。」
「そうなんだ。」
「うん。」
少しゆっくり歩いた。

いくつか分かれ道を過ぎて、歩いていると、ちょっとした広場に出た。
「あとどのくらい？」
シンジに聞いてみた。
「もうちょっとかな。」
シンジがガイドを見ながら言う。
「そう。けど、ちょっと疲れた。」
「ごめん。けど、もう少しだから。」
「分かった。」
少しふくれっつらをしてたかもしれない。

少し歩くと、見覚えのある道に出た。
鳥居が立っていた。
「ここ。」
「うん。さっきの参道の入口。」
シンジが答える。
「じゃあ、もうすぐレストハウスね。」
「そういうこと。」
「ふふ。やった。」
思わず、微笑んでいた。
「うん。行こう。」
「うん。」
頷いて、歩く早さを少し早くした。
 

奥社入口

バス停には、何人かの人が並んでいた。
「並ぶ？」
「そうだね．．．」
そう言って、シンジが時計を見る。
「あと１０分くらいだから、まあ、並んだ方がいいかも。」
「そう。ま、食べ物買ってあるしね。」
「そうだね。」
「了解。」
そう言って、レイを見た。
レイが、小さく頷いた。

ぼんやりと、道の、バスの来るほうを見て立っていると、バスが視界に入ってきた。
「来たね。」
誰に言うともなく、呟いた。
「そうだね。」
シンジが呟く。

バスが止まり、ドアが開く。
私たちの後ろにも、何人か人が並んでいた。
バスに乗り込む。
バスの中は、誰も乗っていなかった。
一番後ろの席に並んで座った。

「並んで座れたね。」
シンジに言う。
「そうだね。」
向こうのレイも、私を見て頷く。
「ね。何食べる？」
「チョコかな．．．」
シンジが言う。
「やっぱり、そうかな。」
レイを見た。
レイが私に頷いた。

窓の外を見ながら、チョコを口の中で溶かしていた。
両側に林の広がる、まっすぐな道。
中社を通り過ぎて、道がうねり始めた。
注意しながら水を飲んだ。
少し眠くなった。
「シンジ．．．」
そう呟いて、シンジの肩にもたれた。
目を閉じる。
沈黙が流れた。

ふと、目を開けた。
少し体を起こしてシンジを見た。
シンジも目を閉じていた。
そして、レイが、シンジの向こうで、シンジにもたれて、目を閉じていた。
『不思議だよね。やっぱり。』
そんな風に思いながら、また、シンジにもたれて、目を閉じた。

「．．カ。アスカ。」
シンジの声が聞こえた。
「ん．．．」
目を開けると、バスの椅子が目に入った。
体を起こす。
「そろそろ着くよ。」
シンジが、私に言う。
「．．．うん。」
そう言って、また、シンジにもたれて、目を閉じた。
「アスカ．．．」
シンジが困ったように呟いた。

「アスカ。」
シンジの声が聞こえた。
目を開けて体を起こす。
「着いたよ。」
シンジが、私を見て、言う。
「うん。」
そう言って、荷物に手を伸ばした。
「大丈夫？」
シンジが、通路に立って言う。
「うん。大丈夫。ありがと。」
そう言って、シンジの座っていた椅子に体をずらした。
 

長野バスターミナル

「夕飯、どうしようか。」
シンジが言う。
時計を見ると４時４６分だった。
「作るの嫌でしょう？」
シンジに聞いた。
「うーん。まあ、できれば。」
シンジが苦笑する。
「けど、どこかで食べるには、ちょっと早いよね。」
「そうだね。」
「ちょっとぶらぶらする？」
そう言って、シンジを見た。
「そうしようか。」
レイを見た。
レイが、小さく頷いた。
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