昼のシフト終了のベルが鳴った。
マヤが端末を落とし、バッグを持って、椅子から立ち上がる。
「それじゃ、お先に。」
「お疲れ様。」
マヤが部屋から出て行った。

しばらくして、電話が鳴った。
受話器を撮る。
「はい。惣流です。」
『僕だけど。』
シンジの声がした。
「行く？」
『うん。ミサトさんに声かけていくよ。』
「了解。」
『じゃあ、入り口で。』
「うん。それじゃ。」
受話器を置いた。

端末をロックして、部屋を出る。
階段を下りていくと、入り口には、誰もいなかった。

少し暗くなってきた空を見ていた。
「お待たせ。」
シンジの声がした。
振り返ると、シンジとミサトが階段を下りてきていた。
「お待たせ。」
ミサトが言う。
「ううん。」
ほんの少しうつむいて、首を振った。
「何か分かった？」
顔を上げて、ミサトを見た。
「ううん。」
少しうつむいて、顔を曇らせて、ミサトが首を振った。
「そう。」
そう言って、外の方を向き、歩き出した。
 

カフェテリア

隣を歩いているミサトに、端の方の空いている席を、目で示した。
ミサトが頷く。
ミサトに頷いて、席の方に歩いた。

ミサトが、トレイを置いて、椅子に腰を下ろす。
私も、トレイを置いて、椅子に腰を下ろした。
「人工進化研究所って、今は何してるの？」
ミサトに聞いてみた。
「わかんないわ。」
ミサトが、少し伸びをするようにして言う。
「そっか。」
「まあ、多分、また、起こそうとしてるんだと思うけど．．．」
「そっか。」
「うん．．．」
「また、つらい目に会うかもね。」
「そうかもね。」

「おまたせ。」
そう言って、シンジが、トレイを置いて、椅子に腰を下ろす。
「じゃ、食べよっか。」
ミサトが言う。
「うん。」
そう言って、箸を取った。

「シンジ？」
しょうが焼きを飲み込みながら、シンジに聞いた。
「何？」
シンジが、ラーメンを飲み込んで言う。
「フォースインパクトとか起こすことになったら、どうするの？」
そう言って、シンジを見た。
「そうだね．．．」
シンジが、私を見て、そして、視線を落とした。
「何かできるかな．．．」
「．．．」
「何かできたら、また、この前と同じようにすると思うよ。」
「．．．」
「まあ．．．」
「．．．」
シンジを見た。
シンジが私を見ていた。
「まあ．．．何？」
「いや、なんでもない。」
「．．．」
ミサトを見た。
ミサトは、チンゲンサイの皿に、箸を伸ばしていた。
シンジを見た。
「そう．．．」　
そう言って、しょうが焼きの皿に、箸を伸ばした。
 

地下鉄 列車内

向かいの窓ガラスに、シンジと私が並んで映っていた。
「ねえ。」
少し大きな声で言った。
「何？」
シンジが、少し大きな声で答える。
「さっき、フォースインパクトの話をしてたときに、」
「うん。」
「まあ、って言って、何か言おうとしたでしょう？」
「え．．．うん。」
「何、言おうとしたの？」
「．．．」
「．．．」
「あの時、綾波と二人だけの世界にいたんだ。」
「．．．」
「けど、これは違うと思うって言って。」
「．．．」
「それで、綾波と別れて、こうなったんだけど。」
「．．．」
「もしも、今度、アスカと二人だけの世界になったら、そのままでもいいかな、と思って。」
「．．．」
シンジを見た。
「アスカ？」
シンジが、私を見る。
「．．．」
「あ．．．駄目かな。」
「元に戻して、私がいなくなるんだったら、それでもいいかな。」
「．．．」
「けど、そうじゃないなら、戻してほしいかな。」
そう言って、前を見た。
「．．．そう。」
シンジが前を見る。
「うん。」
「分かった。」
「うん。」
シンジの手が、私の手に重なった。
沈黙が流れた。
 

４／２６ １０：３０
長野駅改札前

レイが、ぼんやりと改札の方を見ていた。
「お待たせ。」
レイに声をかけた。
レイが私たちの方を見て、微笑む。
「ごめんね。待たせちゃって。」
「．．．」
レイが、静かに首を振る。
「じゃ、行きましょう？」
レイが頷き、そして、歩き出した。

「バスで、雲上殿まで上がって、そこから、降りてきて、お昼は、その後にしようかと思うけど、いいかな？」
シンジが言う。
「いい？」
レイを見た。
「ええ。」
レイが、頷きながら答えた。
「じゃあ、そうしようか。」
シンジが、微笑みながら答えた。
 

雲上殿バス停

バスが走っていく。
私たちは、上ってきた桜坂のほうを見ていた。
「少し葉が混じってきてたかな？」
シンジが言う。
「そうね。けど、まだ、結構きれいだった。」
「そうだね。」
「．．．」
「じゃあ、行く？」
「うん。」
そう言って、レイを見た。
レイが、私を見て、頷いた。
 

展望道路

展望道路を下りていくと、りんごの花の甘い匂いがひろがっていた。
満開のりんごの花が、りんご畑に広がっている。
その向こうには、長野の街並み。
静かな昼時の、なんとなく空耳のするような感じがしていた。

「いい匂い。」
誰に言うともなく言ってみた。
「そうね。」
レイが小さく言う。
「桜もよかったけど、りんごもいいね。」
シンジが言った。
気持ちのいい沈黙が流れた。
 

善光寺

展望道路を降りきって、善光寺まで歩いてきた。
「おなか減った。」
シンジに言った。
「僕も。この辺で食べる？」
「うん。」
「それとも、帰る？」
「うーん。ちょっと厳しそう。」
「了解。そうだね。じゃあ、この辺で食べようか。」
「うん。レイは？」
レイを見た。
「よければ。」
レイが私を見る。
「じゃあ、食べよう。」
レイに微笑んだ。
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モニターのこちら側 Genesis 3:83 完 

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