『いい、アスカ、エヴァシリーズは必ず殲滅するのよ。シンジ君もすぐに上げるわ。頑張って。
　―――で、初号機へは、非常用のルート２０でいけるのね。』

量産機に殺された時のことを思い出した。
「人類の未来がかかってるとはいえ、無茶してたわよね。まったく。」
人類の未来？
ふと、思った。
人類の未来ってなんだったんだろう。
皆一つになること？
あれが人類の未来のためだった？
挙句の果てに、私とシンジしかいなくなっちゃったじゃない。
けど、ミサトが帰ってきたということは．．．

「アスカ？」
ミサトの声がした。
布団から起きあがってミサトを見た。
入り口で、ミサトが微笑んで、手を振っている。
「今日帰ってきたの？」
ミサトに話し掛けた。
「ええ。」
ミサトが答える。
「そう。」
沈黙が流れた。

「ねえ、ミサト？」
ミサトを見た。
「何？」
ミサトが私を見る。
「人類って滅びるの？」
ミサトが私を見つめる。
「そう言われてたわね。」
ミサトが視線を壁に逸らして、答える。
「そう。」
視線を床に落とした。
「けど、このまま行くと、マジに滅びるかもね。」
ミサトを見た。
「どういうこと？」
ミサトが壁を見ながら続ける。
「だって、補完計画は頓挫したみたいだし、にもかかわらず、人類は、今のところ３人しかいないんだもの。」
「この３人しかいないって言うの？」
ミサトが私を見る。
「私達が知っている範囲では、の話だけど。けど、松代のマギ、アクセスしてないんでしょ？」
「ええ。」
「知らないものは無いのよ。無い物に期待したり、恐れたりするのは、体に悪いだけだわ。」
視線を落とした。
「けど．．．」
「戦自は、まあ、攻めてくるかもね。」
「．．．」
「けど、攻めてくるようなら、逃げても長くはないわ。」
確かに、それは、そうかもしれない。けど．．．
ミサトが続ける。
「けど、アスカが行くというなら止めないわ。」
思わず、ミサトを見た。
「私、使徒を倒したかったのよ。父親の仇だったの。公私混同って言うかもしれないけど、大人って、そういうものなのよ。けど、それも終わったみたいだし．．．」
ミサトが壁を見ながら続ける。
「ネルフもなくなっちゃったみたいだから、もう、あなた達の保護者でもないし、上官でもないわ。」
ミサトが息を継ぐ。
「勝手にすればいいのよ．．．」
ミサトが口を閉じた。
沈黙が流れた。

「ミサトは、どうするつもり？」
ミサトに話し掛けた。
「とりあえず、松代のマギにアクセスしてみるしかないんじゃない？」
ミサトが答える。
「そう。」
「けど、望み薄かな。」
ミサトを見た。
「私達のＩＤじゃアクセスできないかもしれないし、マギをハックするのは、なかなか大変よ。」
「そうね。」
視線を落とした。
「ま、そしたら、待つのね。」
「捕まるのを？」
「それもあるけど、他の人、戻って来ないかもしれないわ。」
「！」
ミサトを見た。
「そしたら、まあ、いずれ死ぬわよ。少なくとも、寿命より早く。」
「．．．」
「色々な可能性があるけど、どれも、似たり寄ったりで、どれが最善か分からないわ。」
「．．．」
「ま、努力はするけどね。」
「そう。」
沈黙が流れた。

「ミサトは、何で帰ってきたの？」
ミサトに話し掛けた。
「さあ。分からないわ。」
ミサトが壁を見ながら答える。
「ミサトも思い出の中にいたの？」
「．．．悪夢を見ていた。そんな感じかな。」
「そう。」
「アスカは？」
ミサトが私を見る。
「量産機に殺されつづけていたわ。」
視線を落とした。
「そう．．．アスカも死んだんだ。」
「？」
「私も、シンジ君を初号機に送り届ける途中で撃たれて、動けなくなって、爆発に巻き込まれて死んだわ。」
「．．．そう。」
沈黙が流れた。

「私は、夕飯食べるけど、アスカは？」
ミサトを見た。
ミサトが私を見ていた。
「そうね。ま、食べてやってもいいわ。」
「そう。じゃ、行きましょう？」
「ええ。」
そう言って立ちあがった。

食堂に入ると、シンジが椅子に掛けていた。
シンジが私達を見る。
シンジが微笑んだ。
シンジが立ちあがって、調理場に入っていく。
ミサトとテーブルについた。
しばらくして、シンジが、料理を運んでくる。
テーブルに、ハンバーグにコーンやグリーンピースを添えたものと、ご飯、お味噌汁が並べられた。
「なんだか凄いわね。」
ミサトが呟く。
「アスカに食べてもらえるように、って思って。」
シンジが小さな声で言う。
シンジが席についた。
「じゃ、いただきます。」
シンジが言う。
「いただきます。」
ミサトが言う。
「いただきます。」
小さく呟いた。
ハンバーグを箸で切って口に運んだ。

「「ごちそうさまでした。」」
ミサトとシンジが言う。
「ごちそうさまでした。」
小さく呟いた。
シンジが食器を片付けていく。
席を立とうとした。
「あ、ちょっと待って。」
シンジが言う。
シンジを見た。
シンジが私を見る。
椅子に腰を下ろした。
少しして、シンジが器を持ってきた。
プリンが私の前に置かれた。
「シンちゃん、私には？」
ミサトが言う。
「あ．．．ごめんなさい。作ってなくて。」
「ひっどーい。」
「ごめんなさい。」
「ま、いいわ。次は作ってね。」
「はい。」
沈黙が流れた。
プリンを一口食べた。

プリンを食べ終わるころに、お茶が置かれた。
顔を上げた。
シンジと目が合った。
思わず、視線をテーブルに落とした。

お茶を飲み終えて、席を立った。
広間に戻って、歯ブラシを持って、洗面所に行った。
歯を磨いた。

なんとなく、屋上に出てみた。
少し欠けた月が出ていた。
町のあった方を見た。
夕闇が広がっていた。
「暗いわね。」
思わず呟いた。
「何で、こんなに苦しいんだろう。」
口に出してみた。
『苦しくなければ、考えないでしょ？』
レイの言葉が浮かんだ。
「プログラムどおりか．．．」
思わず、苦笑いした。

しばらく夜空を見ていた。
誰も来ない。
シンジも、ミサトも。
『今、アスカがいなくなったら、僕は．．．どうしたらいいか、分からないよ．．．』
シンジの言葉が浮かんだ。
『勝手にすればいいのよ．．．』
ミサトの言葉が浮かんだ。

シェルターに戻ることにした。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
モニターのこちら側 Genesis 3:8 完 

モニターのこちら側 Genesis 3:9へ 

Evaメニューに戻る