桜坂バス停

バスの降り口が閉まり、バスが走っていった。
「結構近かったね。」
シンジが言う。
「そうね。歩いてもよかったかも。」
来た方を見ながら言った。
「そうだね。けど、まあ、この先、結構歩くかもしれないから。」
「そうなの？」
「えーと．．．」
シンジが地図を出して、ページをめくる。
「今ここで、ここを上がって、それで、ここが見晴らしがいいみたいなんだけど、前後が結構あるんだよね。」
「．．．なるほど。」
「まあ、大体下りだから大丈夫だと思うけど。」
「そうね．．．」
レイを見た。
レイが、少し覗き込むようにしている。
レイが、私を見て、頷く。
レイに頷いた。

桜坂を上っていた。
桜並木が続く。
時々、花びらが舞っていく中を、三人で歩いていた。
「いい感じね。これ。」
なんとなく言った。
「そうだね。」
シンジが答える。
沈黙が流れた。

「綺麗ね。」
隣でレイが呟く。
「そうね．．．」
沈黙が流れた。

「レイは、桜、これが始めて？」
ふと思いついて聞いてみた。
「ええ。」
レイが答える。
「そっか。」
そっか。なんとなく、頭の中で繰り返していた。
そうなのかな．．．
なんとなく違和感があった。
桜を見ながら、歩いていた。

風が吹いて、桜の花びらが紙ふぶきのように舞っていく。
あ．．．
思わず足を止めていた。
「綺麗だね。」
シンジが言う。
「うん。」
そう呟いて、桜の花びらを見ていた。
「散っていく桜の花びらが綺麗なのは何故なのかな。」
「．．．」
「．．．」
「分からない。」
「．．．」
「．．．」
「そうだね。」
レイを見た。
レイが、軽く目を伏せて、小さく首を振った。
沈黙が流れた。

何故かな．．．
『始まりがあって、終わりがあるから。』
『夢の終わりだから。』
ふと、あのときのレイの言葉が浮かんだ。
そう．．．
そうかもね．．．

桜の花びらが舞うのを見ていた。

桜坂を登りきって、次のバス停が見えてきた。
「あそこを左？」
シンジに聞いてみる。
「うん。そう。」
シンジが答える。
「そう。」
沈黙が流れた。

雲上殿を過ぎて、右手に山の木々を、左手に遠くの街並みを眺めながら歩いていた。
「ここ、いい感じね。」
街を眺めながら言った。
「そうだね。」
シンジが言う。
「また来たい感じ。」
「そう。じゃあ、また来よう。さっきのバス停まで来られるし。」
「そうね。」
そうね。そう思いながら、レイを見た。
レイが、私を見ていた。
「レイ．．．」
そう呟いて、レイの手を取った。
レイが少し驚いたような顔をして、そして微笑んだ。
 

子丸山公園

ベンチに腰を下ろして、オレンジジュースを飲んでいた。
「ちょっと疲れた？」
シンジが私たちに聞く。
レイを見た。
「少し．．．」
レイが言う。
「私も少し．．．ね。」
シンジを見て言った。
「了解。まあ、ここで少し休んでいこう。まだ、そんなに遅くないし。」
「そうね。」
そう言って、レイを見た。
レイが小さく頷いた。

ベンチに座って、ぼんやりと、公園の木々を見ていた。
「あれ？シンジやないか？」
声の方を見ると、鈴原とヒカリが並んで立っていた。
「あ。トウジ、洞木さん、久しぶり。」
「ほんま、久しぶりやな。」
「久しぶりね。碇君。アスカ。」
ヒカリが、シンジと私を見て、そして、レイを見た。
「あの、そちらは？」
ヒカリが、レイから私とシンジに視線を戻して聞く。
「あ、うん。」
シンジが、私を見て、レイを見る。
私もレイを見た。
「綾波レイです。鈴原さん。洞木さん。久しぶり。」
鈴原とヒカリが、少し驚いたような顔をして、そして、納得したような顔をした。
「そういえば、似とるな。」
「うん。似てる。」
「僕らより、少し後に戻ってきたらしくて、戻ってきたら、この姿になってたんだって。」
そう言って、シンジが、鈴原とヒカリを見た。
「そうなの。」
そう呟いて、ヒカリがレイを見ていた。

「じゃ、僕たち、そろそろ行くから。」
シンジが言う。
「ああ。また、ケンスケも呼んで、どこかで会おうや。」
鈴原が答える。
「うん。それじゃ、また。」
「ああ。元気でな。」
「うん。」
シンジが立ち上がった。
「じゃ、またね。」
そう言って、ヒカリに手を振った。
「うん。またね。」
ヒカリが手を振る。
レイを見た。
レイが、微笑みながら、軽く頭を下げていた。

トウジとヒカリが、シンジとアスカ、そしてレイが、公園を出て行くのを見送っていた。

「どう思う？」
トウジが言う。
「綾波さん？」
ヒカリが答えた。
「ああ。」
「あの頃と、あんまり変わらない感じだったけど．．．」
「そうやな。」
「何か、引っかかるの？」
「なんとなくな。」
「そう．．．」
沈黙が流れた。

「よう。」
トウジが声の方を見ると、ケンスケが近づいてきていた。
「なんや、見てたんか？」
トウジが、少しあきれたような顔をして言う。
「ああ。ちょっとね。」
「まったく、油断も隙もないやっちゃな。」
「まあ、これも付き合いってことで。」
「なにが付き合いや。」
「ところで、さっきの、誰？」
「綾波やそうや。」
「綾波？」
「ああ。」
「そう．．．」
ケンスケが、トウジの隣に腰を下ろし、ノートパソコンを開いて、操作しだす。
「．．．」
トウジが、少し真顔になって、ケンスケがパソコンを操作するのを見ていた。
パソコンの上で、今の映像と、以前の映像が重ねあわされる。
「ちょっと変だね。」
「どこが？」
「うまく合わないんだ。変化の具合とかが。」
「そうか。」
トウジが、空に視線を移し、少し伸びをするようにした。
沈黙が流れた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
モニターのこちら側 Genesis 3:79 完 

モニターのこちら側 Genesis 3:80へ

Evaメニューに戻る