目覚まし時計が鳴り始めた。
ため息をつく。
手が少し冷たくなっていた。
目覚ましのスイッチを切って、ベッドの上で起き上がった。

ダイニングに入ると、シンジが、キッチンに向かって何か作っていた。
そのまま、トイレに行く。

洗面所から戻って、ダイニングの椅子に腰を下ろした。
トースターにパンを入れる。
「飲み物、何がいい？」
シンジが、キッチンに向かったまま言う。
「．．．ミルクがいいかな。温かいの。」
「了解。」
シンジが、答えた。

「おまたせ。」
シンジが、ミルクの入ったカップと、ベーコンエッグとレタスの載ったお皿を、私の前に置く。
「ううん。ありがと。」
首を振りながら答えた。

トースターからトーストを取って、お皿の上に置く。
トースターに新しいパンを入れた。
トーストにバターを塗っていく。
「はい。」
シンジに差し出した。
「ありがと。」
シンジが、微笑みながら受け取る。
「ううん。」
そう言いながら、もう一枚のトーストにバターを塗り始めた。

「おはよう。」
ミサトが、髪を手で梳きながら、ダイニングに入ってくる。
「おはようございます。」
「おはよう。」
ミサトが、トイレに歩いていった。
シンジが、立ち上がって、キッチンに向かう。
トースターにパンを入れた。

「今日は、何時ごろ出るの？」
ミサトが、トーストを飲み込んで言う。
「そうですね。１０時少し前とか。」
シンジが、カップから口を離して言う。
「洗濯物干してからっていう感じ？」
「そうです。」
「了解。」
そう言って、ミサトが、また、トーストを齧り始めた。

「「「ごちそうさまでした」」」

お皿とフォーク、ナイフ、そして、カップを持って、立ち上がり、キッチンに歩いていく。
シンジの脇に置いた。
「ここでいい？」
シンジに聞いてみる。
「いいよ。ありがと。」
シンジが、自分の食器を洗いながら答えた。
「ううん。」
そう言って、キッチンから離れた。

リビングで、ソファにもたれて、外を見ていた。
洗濯機の音が、小さく響いている。
外は、陽の光が少しまぶしい感じだった。
そろそろ春なのかもしれない。
そんな風に思った。

シンジが、洗濯物をベランダに持っていく。
「手伝う？」
シンジに聞いた。
「ううん。いいよ。」
シンジが、私の方を見て答える。
「ごめんね。じゃあ、用意始めるね。」
「うん。」
そう言って、シンジが、窓を閉めた。

コートとバッグをソファに置いて、ソファに腰を下ろした。
窓の外に、洗濯物がかかっている。
ほんの少し霞んだ空を見ていた。

「．．カ．．．アスカ。」
目を開けると、シンジが、私を見ていた。
「寝ちゃってたんだ。」
シンジを見て言う。
「うん。」
シンジが、微笑む。
「もう行く？」
「うん。」
「了解。」
そう言って、ソファから体を起こした。
 

第２新東京市拘置所

３人で、受付の前の長いすに腰を下ろしていた。
「あんまり人いないね。」
シンジを見て言った。
「そうだね。」
シンジが答える。
「この前も、そうだったっけ？」
「そう言えば、そうだね。」
「葛城ミサト様、いらっしゃいますか？」
受付の人が、ミサトの名前を呼んだ。
受付を見て、そして、ミサトを見た。
「はい。」
そう言って、ミサトが立ち上がり、受付に歩いていく。
「はい。何でしょう？」
ミサトが、受付の職員に聞く。
「この、赤木リツコさんですが、先日、移送されまして、ここには、もういないのですが．．．」
「え？」
「．．．」
「それで、どこへ？」
「いえ、それが．．．」
「機密ですか？」
「はい．．．」
「分かりました。」
「すみません。」
「いいえ。」
ミサトが、踵を返し、戻ってくる。
「いないの？」
ミサトに聞いた。
「そうみたいね。」
ミサトが、腕組みをしながら、長いすに乱暴に座る。
ミサトの耳に口を寄せた。
「エヴァかしら？」
ミサトが、私を見る。
ミサトの目を見た。
ミサトが、前を向く。
「そうかもね。」
ミサトが、立ち上がって、受付に歩いていく。
「すみません。」
ミサトが言う。
「はい。」
職員が答える。
「彼らの面会、私も入りたいんですが．．．」
「では、一応、申請書を書いていただけますか。」
「はい。」
ミサトが、申請書を書き始めた。

「碇シンジさん、惣流・アスカ・ラングレーさん、葛城ミサトさん。第一面会室へどうぞ。」
「「「はい。」」」
ミサトを見た。
ミサトが、私を見て、うなづいた。

第一面会室のガラスの前に座っていると、奥のドアが開き、看守に連れられて、司令がやってきた。
司令が、ガラスの向こうの椅子に腰を下ろし、私たちを見る。
「体の調子は、どう？」
シンジが言う。
「特に問題はない。」
司令が答える。
「そう。」
シンジが、答えた。

「大学、受かったよ。第二東京大学。」
シンジが、口を開く。
「そうか。よかったな。」
司令が微笑む。
「うん。アスカも受かったんだよ。」
「そうか。」
そう言って、司令が私を見る。
「これからもよろしく。」
司令が言う。
「いえ。こちらこそ、よろしくお願いします。」
司令に軽く頭を下げた。
司令が微笑んだような気がした。

「父さん？」
シンジが言う。
「．．．」
司令が、シンジを見る。
「試験場で、綾波に会ったよ。」
「そうか。」
「髪の色とか、肌の色は、前とは違って、まるで、母さんみたいだった。」
「．．．」
「本物かな？」
「さあ。俺には分からん。」
「話した感じは、本物みたいなんだ．．．」
「そうか．．．」
司令が、ミサトを見る。
ミサトが、小さく首を振る。
司令が、シンジに視線を戻した。
「まあ、気をつけることだ。」
「．．．うん。」
沈黙が流れた。

「司令？」
ミサトが言う。
「．．．」
司令がミサトを見る。
「そのことに関連して、少し教えていただきたいことがあるんですが．．．」
「俺に分かることならいいが。」
「リツコが、ここから移送されたそうなのですが、何か聞かれていますか？」
「．．．」
司令が、少し考えるような表情をした。
「．．．」
ミサトが、司令の表情を見ている。
「しばらく前に、俺も、移らないかと言われた。」
「！」
「強制ではなかったので、断ったが、赤木君は、断れなかったのかもしれないな。」
司令が、ミサトを見る。
「何か役にたったかね？」
司令が、ミサトに、口の周りだけで微笑んだ。
「はい。とても．．．」
ミサトが呟く。
沈黙が流れた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
モニターのこちら側 Genesis 3:72 完 

モニターのこちら側 Genesis 3:73へ

Evaメニューに戻る