「マギは？」
シンジが口を開く。
「ここのマギは死んでるみたい。モニターを立ちあげても、ログオン画面が出ないわ。」
シンジを見た。
シンジが私を見ている。
「あと、松代のマギのモニターがあるんだけど．．．」
シンジが私を見ている。
「．．．ちょっとね．．．」
不思議そうな顔で、シンジが私を見る。
「ちょっと？」
「．．．」
視線を床に落とした。
少し考えていた。
沈黙が流れた。

「シンジ？」
床を見ながら呟いた。
「何？」
シンジが答える。
「他の人達が帰ってきたら、何が起きるのかな？」
シンジを見た。
「何が．．．起きる？」
シンジが怪訝そうな顔をする。
「ネルフって、あの時、戦自に攻撃されたのよ？」
シンジから視線をはずした。
「．．．」
「他の人達が帰ってきたら、私たち、逮捕されて、取り調べを受けるんじゃないかしら。」
シンジは、黙っている。
「ううん。下手したら、もっと酷い扱いを受けるかもしれない。」
「．．．」
「松代のマギのモニターを立ちあげたら、私たちを探し出す糸口を与えるような気がしたのよ。だから、止めたの。」
「．．．」
「もしかしたら、ここを動かしたことすら．．．」
床を見ていた。
沈黙が流れた。

「アスカ。」
シンジの声がした。
シンジを見た。
シンジが私を見ている。
「なんて言ったらいいかよく分からないけど、今日は、もう寝ない？」
思わず、シンジの顔を見詰めた。
「寝る？」
そう言って、シンジを睨んだ。シンジが視線を逸らす。
「あんたねぇ。今にも、戦自が攻めてくるかもしれないのよ！
  下手したら、殺されるかもしれないのよ！
  よく、そんな悠長なことが言えるわね！
  まったく、これだから、バカシンジだって言うのよ！！！！」
シンジが私を睨む。
「だったら、どうしろって言うんだよ！
  ここから逃げたって、いくらも行かないうちに、食べ物がなくなってのたれ死ぬだけじゃないのかよ！！！！」
「な！
  なら、ここに居て殺されるのを待つって言うわけ？！
  馬鹿じゃないの？
  私は、そんな生きる努力を放棄するようなことは、絶対に嫌！！！！
  そんなに殺されたいなら、勝手に残って、勝手に殺されればいいわ！！！！」

バシッ。

シンジが、私の頬を叩いた。
思わずシンジを見た。
シンジが俯く。
「ごめん。」
シンジが呟いた。
「けど、殺されると決まったわけじゃないんだし．．．」
「．．．」
「ここを出たら、ほんとに死んじゃうよ．．．」
「．．．」
「今、アスカがいなくなったら、僕は．．．どうしたらいいか、分からないよ．．．」
沈黙が流れた。

「ごめん。」
そう言って、シンジが部屋から出ていった。
「バカ。」
思わず呟いた。
涙が床に落ちた。
 

しばらくして、少し落ち着いたので、モニターを落として、通路に出た。
少し涼しい感じがした。
思わず、息を吐いた。
洗濯物を洗濯機に入れたままなのを思い出して、ランドリーに足を向けた。
ランドリーには、誰もいなかった。
洗濯機から、プラグスーツと今日着ていた服を取り出す。
プラグスーツと服を畳んだ。
畳んだ服を見て、ため息をついた。
しばらく洗濯機を見ていた。

服を持って立ち上がり、ランドリーを出た。
私の広間に入った。
布団の脇に服を置いて、布団に横になった。
「シンジのバカ。」
そう呟いて、左脇を下にして、頬を枕に押し付けた。
 

目が覚めた。
時計を見ると朝の７時。
あのまま、寝ちゃったんだ。
起き上がって、広間を出た。

顔を洗って、食堂に行くと、シンジが椅子に座っていた。
シンジが私を見る。
「おはよう、アスカ。」
シンジを見た。
「．．．」
シンジが椅子から立ちあがり、調理場に歩いていく。
少しして、シンジが、お茶とおにぎり、そしてお味噌汁を運んできた。
シンジが、私とシンジの前に、お盆を置く。
シンジが私を見る。
「いただきます。」
「．．．」
シンジが、お味噌汁に口を付ける。
シンジが、おにぎりを食べている。
シンジが、お味噌汁を飲んでいる。
シンジが、お茶を飲んでいる。
シンジが、私を見た。
「食べてくれないの。アスカ？」
「．．．」
椅子から立ちあがった。

洗面所で歯を磨いた。
少し水を飲んだ。
広間に戻った。
布団に横になった。
「バカシンジの作ったお味噌汁なんて誰が飲むもんか。
  バカシンジの作ったおにぎりなんて誰が食べるもんか。
  バカシンジの煎れたお茶なんて誰が飲むもんか。
  バカシンジと同じ空気なんか誰が吸うもんか。」

ドンッ。

右手で床を叩いた。
涙が出た。

「アスカ？」
シンジの声がした。
「芦ノ湖に行かない？」
「．．．」
「アスカ。」
「．．．」
「ね、何か言ってよ。」
「．．．」
「ごめん。アスカ。」
「．．．」
「芦ノ湖、行ってくるね。」
「．．．」
シンジの靴の音が遠ざかっていった。

広間を出て、食料倉庫に行った。
左の方を見ていくと、カップ麺があった。
「これでいいや。」
一つ取って、食堂に歩いていく。
調理場に入り、お湯を沸かす。
お湯を入れて、箸を取り、食堂に入った。
テーブルに、おにぎりが置かれていた。
広間に戻った。
広間でカップ麺を食べた。
調理場に行って、汁とカップを捨てた。
歯を磨いて、また布団に横になった。

目が覚めた。時計を見ると昼過ぎだった。
「お昼は抜きでいいかな。」
なんとなく食欲がなかった。
シェルターを出て、校舎の屋上に上がってみた。
屋上へのドアを開けると、風が肌にあたって、少し涼しくなったような気がした。
日差しと屋根から立ち上る熱気に、再び汗が出始める。
以前と変わらない風景。
「私、何してるんだろう。」
思わず呟いていた。
そして、その言葉の感触に、思わず苦笑いした。
「ほんと、何してるんだろう。」

シェルターに戻って、シャワーを浴びた。
体が冷えていく。
「ママ．．．」

また、布団に横になった。

目が覚めた。時計を見ると夕方６時を過ぎていた。
何か、話し声がしていた。
食堂に行った。

シンジとミサトが話していた。
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モニターのこちら側 Genesis 3:7 完 

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