「それでは気をつけて帰ってください。」
椅子を動かす音が響き、ざわざわと皆が出口へと歩いていく。
鉛筆と消しゴムを筆袋に入れ、鞄に入れる。
そして、受験票を鞄に入れた。
出口を見ると、まだ、皆が並んでいた。

「行こう。」
右の方を見上げると、シンジが立っていた。
「うん。」
鞄を持って立ち上がる。

教室の出口を出ると、階段に行列ができていた。
「別の出口、あるよね。」
シンジに聞いた。
「うん。あっちかな。」
シンジが、後ろを見ながら言う。
「行こ。」
「うん。」
踵を返して、歩き出した。

階段を下りてドアを開け、外に出ると、中庭が広がっていた。
通路は除雪されているものの、木々には雪が積もっていた。
「道なりでいいのかしら？」
除雪された通路を見ながら言った。
「そう．．．かな．．．」
シンジが、キャンパスの全体図を見ながら言う。

「多分、そう。」
少しして、シンジが言った。
「そう．．．じゃあ、行こう。」
そう言って、歩き出そうとしたとき、背後でドアの開く音がした。
ドアの方を見ると、女の子が地図を見ながら、周囲を見ていた。
卵型の顔に、栗色のショートヘア、大きな目、そして、私と同じように、女の子にしては、酷く高い背。
『この子．．．シンジのママに似てる。』
シンジを見ると、少し驚いたような顔をしていた。
『やっぱり、似てるんだ。』
女の子に視線を戻す。
女の子と目があった。
女の子が私たちを見ていた。

女の子が、近づいてきて、そして口を開く。
「久しぶり。碇君。アスカ。」
『え！？』
まるで、あの頃のレイのような口調で、女の子が話す。
「あの．．．綾波？」
少し間の抜けた感じで、シンジが呟いた。
「ええ。」
女の子が答えた。
沈黙が流れた。

「あんた、ホントにレイなの？」
女の子を見て言った。
「ええ。」
女の子が呟く。
レイと名乗る女の子を、じっと見ていた。
「信じられないのは、分かるわ。」
「．．．」
「見た目も少し違うし。」
「．．．」
「信じなくてもいいわ。」
「．．．」
沈黙が流れた。

「まあ、いいわ。」
レイを見ながら言った。
「とりあえず、再開を祝って、お茶でもする？それとも、まだ、試験あるから、明日終わってからにする？」
レイからシンジに視線を移しながら言った。
「．．．明日にしようか。」
シンジが言う。
レイを見た。
レイが軽く頷く。
「じゃあ、帰りましょう。駅まで一緒に行くでしょ？」
レイが軽く頷く。
シンジも頷いた。
「じゃあ、行きましょう。」
そう言って、歩き出した。

「あんた、今、どこにいるのよ。」
前を見たまま言った。
「松代。」
レイが答える。
「そうなんだ。私たちもそうよ。」
「そう。」
「あいかわらず、一人暮らし？」
「ええ。」
歩を止めて、レイを見た。
レイが歩を止めて、私を見る。
「．．．ネルフに関係あるの？」
声を低くして聞いた。
「ええ。」
レイが呟く。
「．．．そう。」
「今は、人工進化研究所。」
「そう。」
視線を前に戻して、そして、歩きだした。
 

窓に映る私たちを見ながら、地下鉄特有の音を聞いていた。
「それじゃ。」
レイが、唐突に言う。
レイを見た。
「ええ。」
「また明日。」
シンジの声がした。
レイが、軽く頷いて、地下鉄を降りていった。
沈黙が流れた。
 

メゾン松代

夕飯の準備をしていた。
「ただいま。」
ミサトの声がした。
「おかえり。」
食器をテーブルに置きながら言った。
「おかえりなさい。」
キッチンに向かったまま、シンジが言った。

「どうだった？」
お味噌汁のお椀を置きながら、ミサトが言う。
「まあまあかな。」
シンジを見た。
シンジが頷く。
「そう。あと一日、がんばってね。」
ミサトが微笑みながら、ししゃもを取った。

「ミサト、聞いた？」
ちくわぶを取りながら、口を開いた。
ミサトが、口を動かしながら、私を見る。
ミサトを見ていた。
ミサトが、口を開く。
「レイの話？」
ミサトが私を見ていた。
「ええ。」
そう言って、頷いた。
「いきなりよね。」
ミサトが、おでんの鍋を見ながら言う。
「うん。」
「まあ、一応、注意してみて。」
「そう．．．」
「本気で来られたら、どうにもならないわ。多分。」
「レイが？」
「その後ろの組織。」
「．．．そうね。」
「まあ、今のところは、そのくらい。」
「了解。」
シンジを見た。
「分かりました。」
シンジが、少し厳しい顔で、ミサトを見ていた。
 

「それでは、鉛筆を置いてください。」
試験監督の声がした。
鉛筆を置く音が教室に響く。
「問題と解答用紙を回収します。回収し終わるまで、席を立たないでください。」
解答用紙を裏返した。

「ご苦労さまでした。」
試験監督の声に、椅子を動かす音が響く。
鉛筆と消しゴムを筆袋に入れ、鞄に入れる。
受験票を、ゆっくりと鞄に入れた。

「行こう。」
シンジの声がした。
「うん。」
そう言って、立ち上がった。

教室の出口を出ると、階段に行列ができていた。
「あっちよね？」
シンジを見て、逆の方を指差す。
「多分ね。」
シンジが、指先の方を見た。

階段を下りて、ドアを開ける。
まだ、レイは来ていなかった。

しばらく待つと、ドアの開く音がして、レイが出てきた。
「．．．」
レイが、私たちの近くまで来て、立ち止まった。
沈黙が流れた。

「今日、どうだった？」
口を開いた。
「まあ．．．」
レイが呟く。
「そう．．．」
「．．．」
「お茶でもする？」
「ええ。」
シンジを見た。
シンジが頷く。
「じゃあ、行こう？」
レイを見た。
レイが頷いた。
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モニターのこちら側 Genesis 3:65 完 

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