「ん．．．」

目覚し時計に手を伸ばして、ボタンを押した。
『なんか、だるい。』
頭の中で、そう呟いて、そのまま横になっていた。

しばらくして、また、目覚ましが鳴り出した。
『今日は、土曜日だっけ．．．起きるんだっけ．．．』
そんな風に思いながら、目覚ましの音を聞き流していた。
『ま、いいか。』
なんとなく起き上がって、目覚ましを止めた。

トイレに行くために、ダイニングを通ると、シンジが、何かを作っていた。
ダイニングに戻って、椅子に腰を下ろした。

シンジが、皿を持って、私の方を見る。
スクランブルエッグとハム、レタスの載った皿が、私の前と、向かい側に置かれた。
コーヒーの入ったカップを置いて、シンジが、私の前に座った。
シンジが、ちらっと私を見て、そして、パンをトースターに入れる。
シンジが、カップに口をつけた。
私は、なんとなく、それを見ていた。
沈黙が流れた。

スクランブルエッグをナイフで切って口に入れた。
「飲み物、何にする？」
シンジが、口を開いた。
「コーヒー．．．ミルクたくさん。」
「ん．．．」
シンジが、立ち上がって、冷蔵庫からミルクを取り出した。

トースターからトーストが出てきた。
シンジが、一枚取って、バターをぬっていく。
なんとなく、それを見ていた。
「．．．」
ぬり終わったトーストを、シンジが差し出す。
「うん．．．」
トーストを受け取って、一口かじった。
シンジが、パンをトースターに入れて、また、バターをぬり始めた。

「ミサトは？」
ハムを食べているシンジに聞いた。
「まだ、寝てるんじゃないかな？」
「そう。まあ、運転、長かったしね。」
昨日、昼ごろ、京都を出て、松本で夕飯を食べたりしたので、家に着いたのは、結局、９時少し前だった。
とりあえず、お風呂に入って、その後は、何もやる気が起きなくて、すぐに寝てしまった。

「なんか、だるくない？」
シンジを見た。
「．．．少し。」
シンジが、皿に視線を落としたまま呟く。そして、レタスを口に入れた。
「ミサト、きついかもね。」
「そうだね。」
その時、リビングの方から戸の開く音がした。
「．．．」
リビングの方を見た。
ミサトが、右手で、軽く髪をかきむしりながら、歩いてくる。
「おはよう．．．」
ミサトが言う。
「おはよう。」
「おはようございます。」
ミサトが、トイレに入っていった。

「今日は、どこか行くんだっけ？」
トーストをかじりながら、ミサトが言う。
「．．．」
シンジが、私を見る。
軽く首をかしげた。
シンジが、ミサトを見る。
「強いて言うと、お墓参りくらいですか．．．」
「ああ。そう言えば、旅行の準備で忙しくて、いけなかったわね。」
「ええ。」
「そうね．．．午後とか？」
「ええ。まあ、明日でもいいし。」
「そう．．．」
ミサトが、スクランブルエッグを口に入れた。

シンジが、キッチンに立って、食器を洗っている。
「どうせ出かけるなら、どこかで食事しようか。」
ミサトが言う。
「それでもいいよ。」
「じゃあ、お昼、どこかで食べて、それで行こうか。」
「いいわよ。」
「じゃあ、そういうことにしようか。ちょうど、そんな時間だし。」
「．．．」
沈黙が流れた。
 

メゾン松代 駐車場

シンジが、ドアを閉め、シートベルトを締める。
ルノーが動き出した。
「どこ行こうか？」
ミサトが言う。
「第二新東京市についてからにします？」
シンジが言う。
ミサトが、バックミラー越しに私を見る。
軽く頷いた。
「そうね。その方がいいかもね。」
「そうですか。」
シンジが、カーナビを操作している。
「．．．うなぎ笹むし．．．」
シンジが呟く。
カーナビの画面を見た。
蒲焼の入ったおこわが、笹に包まれている写真が出ていた。
「鰻屋さん？」
「そうみたいだね。」
「いろんなものあるのね。」
「そうだね。ここにする？」
「まあ、いいかも。ちょっとばててるし。」
「．．．そうだね。」
「決まり？」
ミサトが聞く。
「そうですね。」
「了解。」
 

桜屋

「安曇野膳、お待たせしました。」
女中さんが、私たちの前に膳を置いていく。
「ごゆっくりどうぞ。」
女中さんが、下がっていった。
「食べましょう？」
ミサトが言う。
「ええ。」
「いただきます。」
シンジが、箸を割って、和え物を口に入れる。
私は、煮物を食べてみた。
「なかなか。」
そういいながら、シンジが、うなぎ笹むしの笹を取り始める。
箸で少し切って、口に入れた。
「なるほど。」
シンジが微笑む。
「おいしい？」
「うん。食べてみなよ。」
一口、口に入れてみた。
おこわと蒲焼のたれがよくあっていて、おいしかった。
「なるほど．．．」
そう呟いて、シンジに微笑んだ。
 

第二新東京市共同墓地 入口

シンジとミサトが花を買っている。
少し下がって、それを見ていた。
「お待たせ。」
ミサトが言う。
「ううん。」
ミサトに微笑んだ。
「じゃ、行こう？」

「シンジ君は、ここだっけ？」
ミサトが、降り口の標識から、シンジに視線を移して言う。
「ええ。」
シンジが答える。
「それじゃ、また、３０分後に入り口で。」
「はい。」
ミサトが歩いていった。
「行こう。」
シンジが、私を見て言う。
「うん。」
シンジに頷いた。
 

ＩＫＡＲＩ ＹＵＩ １９７７−２００４

そう書かれた墓標を見ていた。
シンジが、花を置き、そして、手を合わせ、目を閉じた。
私も、そうした。
あのとき、シンジと話していた、シンジのママの姿が浮かんだ。
目を開けると、シンジが、私を見ていた。
「ありがとう。」
シンジが言う。
「ううん。」
軽く首を振った。
沈黙が流れた。

「行こうか。」
シンジが小さな声で言う。
「うん。」
そう答えて、来たほうに歩き出した時、通路に、あのころと同じ壱中の制服を着た、レイが立っていた。
『え！！』
そう思った、次の瞬間、レイは姿を消していた。
『今の．．．何？』
そう思いながら、シンジを見ると、少し目を見開いて、前の方を見ていた。
そのまま、少しシンジを見ていた。

シンジが、私を見る。
「あ．．．ごめん。行こうか。」
そう言って、シンジが歩き出す。
「うん。」
そう言って、歩き出した。

「どうかしたの？」
聞いてみた。
「うん？．．．いや、少しぼーっとしちゃって。何でもないんだ。」
「そう。」
沈黙が流れた。

「レイがいたわ。さっき。」
口を開いた。
「え？」
シンジが、足を止める。
シンジを見た。
シンジが、驚いたような顔をして、私を見ていた。
「見えたんだ。シンジにも。」
シンジを見つめた。
「．．．」
シンジが頷く。
「そう．．．どうしたんだろう．．．」
シンジから目をそらし、視線を落とした。
沈黙が流れた。

「僕は、前にも見たことがある．．．」
シンジが口を開く。
「．．．」
「初めて、第三新東京市に行ったとき．．．」
「．．．」
「そして、あそこから戻ってきたとき．．．」
「．．．」
「嫌な、予感がする．．．」
「そう．．．」
沈黙が流れた。
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モニターのこちら側 Genesis 3:59 完 

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