「おまたせ。」
そう言いながら、ミサトが出てきた。
「次は、どこだっけ？」
ミサトからシンジに視線を移して、聞いてみた。
「南禅寺だよ。」
「南禅寺．．．遠いの？」
「いや。歩いていける距離だったと思うけど。ですよね、ミサトさん？」
シンジが、ミサトを見る。
「ん？何？」
ミサトが、シンジを見た。
「南禅寺なんですけど、歩いていけますよね？」
「ああ。そうね。それで、どっちだっけ？」
シンジがガイドを見だす。
思わず苦笑してしまった。

「うん。大丈夫。５００ｍくらいだよ。」
シンジが、私を見る。
「そう。それで、どっち？」
そう言いながら、ガイドを覗き込んだ。
「あっちみたいだね。」
シンジが、右の方を見た。
 

南禅寺

歩いて１０分弱で、南禅寺と思しき所に着いた。
「どうするの？」
シンジを見た。
「まず、金地院かな。」
シンジが前の方を見て答える。
「そう．．．」
シンジの見ている方を見た。
 

金地院

拝観料を払って中に入り、石庭を一回りした。
東照宮が、ちょっと変わった形をしていた。
 

金地院を出て、水路に沿って、三門、そして、方丈庭園を、拝観料を払って見た。
それぞれ、色々由来が書かれていた。

一回りして出てくると、結構時間がたっていた。

「次は？」
シンジに聞いてみた。
「銀閣寺だけど、バス停まで歩かないと。」
シンジが答える。
「さっきと同じくらい？」
シンジがガイドを見る。
「そうだね。同じくらい。」
「そう。」
「．．．」
「けど、なんか、似たような建物がたくさんあるのね。」
「そうだね。」
「なんで、こんなにあるのかしら？」
「．．．なんでだろうね。」
「まあ、ドイツにも教会がたくさんあったから、それと同じなのかしら。」
「そうかもしれないね。」
「人間って、どこでも大して変わらないのね。」
「そうだね。」
「フフ。」
「どうしたの？」
「ん？ううん。なんでもない。」
なんとなく可笑しさが止まらなくて、しばらく笑いをこらえていた。

南禅寺・永観堂道から岩倉操車場行きに乗って、次の東天王町で銀閣寺行きに乗り換え、銀閣寺前で降りた。待ち時間の方が長かったけど、少し疲れてきていたので、歩くのを減らすようにした。
 

銀閣寺

歩いて５分くらいで銀閣寺についた。
拝観料を払って、中に入る。
「銀閣って言っても、銀色じゃないのよね。」
なんとなく言ってみた。
「そうなんだよね。」
「．．．」
「ただ、なんか、ここが東山文化発祥とかって、書いてあるけど。」
「東山文化？」
「うん。」
「どんなの？」
「どんなのだろうね。」
シンジがガイドを見ている。
「分かんないや。後で調べとく。」
「うん。ごめん。」
「あ。ううん。」
「．．．」
「．．．」
なんとなく、いい感じの沈黙が流れた。

銀閣は、古い木造の建物だった。
こういうのも国宝なんだ。
なにか、とても質素で、少し寂しいような悲しいような感じがした。

庭園を眺めて、そして、外に出た。
 

銀閣寺前でバスを待っていた。
「次は、京大？」
「うん。」
シンジが答える。
「京大って、どの辺？」
「うーん。」
シンジが持っているガイドを覗き込んだ。
「ここと、ここと、ここと、ここと、ここと、ここかな．．．」
シンジが、立て続けに、地図の中の四角を指していく。
「はあ？」
思わず、シンジを見た。
「．．．うん。はあ？って感じ。」
「こんなに広いんだ。」
ミサトを見た。
「ん？何？」
「京大、凄く広いけど。」
「そうなの？」
ミサトが、ガイドを覗き込む。
「ここと．．．ここまでですよね？」
シンジが、地図の上で指を動かす。
「そうねー。」
ミサトが、地図を見ている。
「まあ、大学だから、そんなもんでしょう。」
ミサトが言う。
「そんなもんでしょうって、全部は行けないわよ？！」
「そうね。まあ、全部行く必要もないから。どこか、本部みたいなところのあるところに行けばいいんじゃない？」
「本部って．．．」
「多分、ここじゃない？」
ミサトが、あるブロックを指差す。
「ここに、太字で京都大学って書いてあるから、多分、ここよ。」
「．．．」
シンジを見た。
「僕も、最初は、そこしか目に入ってなかったんですよ。」
「．．．」
ミサトを見た。
「それで、そこに行くつもりなんでしょう？」
「ええ。」
「まあ、とりあえず、それでいいことにしない？」
ミサトが、私を見る。
「分かった。」
なんとなく腑に落ちない感じだったけど、他にいい手も浮かばなかったので、承知することにした。
 

バスに乗り、次の銀閣寺道で降りて、北野白梅町・西ノ京円町行きに乗り換えて、京大農学部前で降りた。大学っぽい建物が、周囲に広がっていた。

「どうするの？」
ミサトに聞いた。
「そうねー。ちょっと待ってね。」
ミサトが、携帯を取り出して、短縮ダイヤルを押し、耳にあてる。

「．．．葛城です。」

「悪いんだけど、京大のこと教えて欲しいんだけど。」

「うん。よろしく。」

ミサトが、携帯のオンフック・ボタンを押し、バッグに戻した。
「誰に電話したの？」
ミサトに聞いてみた。
「あの人たち。」
ミサトの視線の方を見ると、黒い車がやってきて、そして、私たちの脇で止まった。
ミサトが、車に寄ったので、私たちも、ミサトの後ろについた。
ドアミラーが開く。
「ごめんね。」
ミサトが言う。
「いいえ。それで、知りたいのは？」
「京大のキャンパスマップとか出せるかな。っていうか、冬月さんのいたところが知りたいんだけど。」
「キャンパスマップは出せます。これです。」
そう言って、カーナビを操作すると、画面に京大のキャンパスマップが表示された。
「今は、ここ？」
ミサトが、指さして言う。
「そうです。」
「ちょっと拡大して。」
「はい。」
マップが、そこを中心にして、拡大された。
「生物科学研究所．．．ここかな。もう一度、全体を見せてくれる？」
「はい。」
「医学部じゃなかったから．．．多分、ここね。ありがとう。」
「いいえ。」
「それじゃ。」
「はい。」
ドアミラーが閉まった。

「と、言うことみたいよ？」
ミサトが、私たちを見て言う。
「みたいね。けど、いいの？こんな風に使って。」
「いいのよ。どうせ、ついてくるんだから。行き先が、きちんと分かってたほうが、彼らも助かるわ。」
「それは、まあ、そうかもね。」
「そういうこと。じゃ、行きましょう？」
ミサトが、私たちを見て言う。
「「了解。」」
苦笑しながら、歩き出した。
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