電話の音がしていた。
「はい．．．」

受話器を置く音がした。
カーペットを歩く音がして、ユニットバスの扉を閉める音が、かすかにした。

「アスカ．．．」
シンジの声がして、肩を揺すられた。
「ん．．．」
目を開けると、シンジが見ていた。
「起きる時間。」
「うん．．．」
そう呟いて、起きあがった。
シンジの顔を見た。
シンジが私を見る。
「シンジ．．．」
そう言って、シンジの唇に短く唇を重ねた。
シンジが、少し驚いたような顔をして、私を見ている。
「顔、洗ってくるね。」
シンジに微笑む。
「うん。」
シンジが微笑んだ。

トイレを使って、手早く顔を洗って歯を磨き、ユニットバスを出た。
「もういいの？」
シンジが言う。
「うん。後は、そこでするわ。」
作り付けの、鏡台を見ながら言った。
「じゃあ、ミサトさん、起こしていい？」
「うん。いいわよ。」
「了解。」
そう言って、シンジがミサトを起こし始めた。
 

レストラン

シンジが、海苔でごはんを包んで、口に入れている。
ミサトは、トーストを齧って、口を動かしていた。
スクランブルエッグを、ナイフで切って口に入れた。

「それで、いつごろ出るの？」
オレンジジュースのグラスを置きながら、シンジを見て、言った。
シンジが、お茶を飲みながら、私を見た。
「そうだね．．．もうすぐ８時だから、９時ぐらい？」
シンジが、ミサトの方を見た。
ミサトが、コーヒーカップを置いた。
「そんな感じかな．．．」
ミサトが呟く。
シンジが、私に視線を戻す。
シンジに頷いた。
ミサトが、手を上に伸ばし、椅子にもたれる。
「ちょっと疲れ気味かな．．．」
ミサトが、手を戻し、息を吐きながら言う。
「そうよね。大丈夫？」
ミサトが私を見る。
「ふふ。大丈夫。ありがと。」
ミサトが微笑んだ。
 

町営法隆寺駐車場

「はい、お疲れ。」
ミサトが、ハンドブレーキを引きながら言う。
「そんなに混んでなくてよかったね。」
ミサトに言う。
「そうね。観光バスが来ちゃうと、まずいかなって思ってたんだけど、そんなに来てなくてよかったわ。」
「そっか。バスが来るのね。」
「奈良とか京都は、そこがきついかな。京都は、宿に置きっぱなしがいいかもね。」
「そっか。」
「まっ、さしあたり、今日の午後が問題かな。」
「そう．．．」
「ま、なるたけ早く行きましょう？」
ミサトが微笑む。
「そうね。」
そう言って、前に倒れたシートに手をかけた。
 

中門を通ると、五重塔の全体が、見えるようになった。
「なんか凄いわね。」
少し五重塔に近づいて、見上げながら呟いた。
「そうね．．．」
ミサトが言う。

中に入ると、いくつもの仏像が置いてあった。
『国宝．．．』
前に掛けられた札の端に、そう書かれていた。

隣の金堂に入ると、やはりいくつもの仏像が置いてあり、説明の書かれた札に国宝と書かれていた。

奥にある大講堂という建物に入ると、そこにも仏像があり、やはり国宝と書かれていた。

大講堂から出て、五重塔の脇を歩いていく。

「皆、国宝なのね。」
「そうだね。」
シンジが答える。
「国宝って、何なのかな？」
「．．．」
シンジが、私を見る。
「まあ、何か、歴史的に大切なんじゃないのかな。」
「ふーん。」
「ドイツには、国宝とかないの？」
「うーん。よく知らないわ。」
「そう．．．」
シンジが、バッグからガイドを取り出して、見始める。
「なんとなく、美術的に重要なものみたいだね。まあ、建物も国宝みたいだから、歴史的にも重要なんだろうけど。」
「そうなの．．．」
中門から振り向いて、大講堂、金堂、五重塔を見た。
 

大宝蔵殿

ここにも、仏像が置かれていた。飾り付けられた箱とか、そういうものもあった。国宝と書かれていた。
 

夢殿

八角形の建物。不思議な感じがした。聖徳太子という人に縁の建物。あまりピンと来ないけど。救世観音は見られなかった。ちょっと時期を選んだほうがよかったかな。
 

中宮寺

聖徳太子の母親の御所を寺にしたらしい。国宝の仏像と、刺繍が置かれていた。
 

駐車場に戻ると、１０時半を過ぎていた。
「結構、時間かかったね。」
後部座席に腰を下ろしながら、口を開いた。
「そうねー。結構、広かったし、見るもの多かったし。」
ミサトが、シートベルトを伸ばしながら言う。
「そうね。国宝が、たくさんあったし。」
「そうね。」
ミサトが笑った。
 

興福寺 県営駐車場

「結構近いのね。」
法隆寺から３０分もかかっていなかった。
「ええ。１０ｋｍちょっとだし。」
ミサトが言う。
「そっか。」
「まあ、歩く距離じゃないけど。それで、どうするの？」
ミサトがシンジを見る。
「早めにお昼にしようと思うんですけど。」
「そうなの。」
「興福寺の境内の、塔の茶屋か、柳茶屋にしようかと思うんですけど。」
そう言って、シンジが、ミサトに、ガイドを見せる。
「ふーん。じゃあ、行きましょう？」
「はい。」
シンジが、私を見た。
 

柳茶屋

「ミニ懐石、お待たせしました。」
女中さんが、膳を置いていく。
「ごゆっくりどうぞ。」
女中さんが、歩いていった。
「食べよっか。」
ミサトが言う。
「はい。」
「うん。いただきます。」
膳の上には、魚の干物とべっ甲色をしたもの、刺身、寒天に色々入ったもの、茶飯、吸物が並べられていた。
ミサトが、べっ甲色をしたものを、口に入れ、ビールを飲む。
「おいしー。」
「あんまり飲んじゃダメよ。」
ミサトを見て言った。
「分かってるって。けど、これ、おいしいわよ。」
ミサトが、べっ甲色をしたものを、また、口に入れる。
私も口に入れてみた。
「おつまみね。」
「そういうこと。」
ミサトが、うれしそうに微笑みながら、干物を口に入れ、ビールを飲んだ。
「これ、何？」
シンジを見た。
「茗荷じゃないかな。」
少し噛んでから、言った。
「そうなの。これは？」
箸で干物を取って言った。
「それは、鮎だと思うよ。」
干物を口に入れて噛んでみた。普通の魚とは違う、少しいい匂いが口の中に広がった。
「値段だけのことはあるっていう感じ？」
干物を飲み込んで言った。
「そういう感じ。」
シンジが、寒天に色々入ったものを飲み込んで言った。
寒天を取って、口に入れる。
寒天の中から色々な味がして、口の中に、おいしさが広がった。
少し噛んで飲み込んだ。
「なるほど。」
シンジを見た。
シンジが頷いた。
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モニターのこちら側 Genesis 3:51 完 

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