食堂から一番近い広間に入った。
入り口には鍵どころかドアもない。まあ、仕方ないけど、着替えとかどうしよう。
中は広いから、入り口から見えにくい入り口脇の壁際で着替えようかな。浴場に行った方がいいかな。
奥の方に歩いて行ってみる。部屋の真ん中辺りで立ち止まり、辺りを見回した。
「一人でいるには、広過ぎるのよね。確かに。」
そう呟いてみた。
なんとなく声が響いた感じがした。

暑い中、長い時間歩いたので、足と全身がだるくなっていた。
ちょっと、寝ようかな。
そう思って、納戸らしき戸を開けて、布団と毛布を取り出した。
不用心かな．．．
ま、いいか。
布団に横になって、毛布をかけた。
これからどうしよう．．．

目が覚めた。
時計を見ると午後３時半。一日寝てたってことはないわよね。
起き出して、通路に出た。
他の広間を見ていく。隣の広間にシンジが寝ていた。
「．．．」
中に入り、シンジの方に歩いていく。
シンジの脇に腰を下ろした。
「シンジ？」
「．．．ん。」
「シンジ。」
シンジが目を開ける。
「．．．アスカ？」
「少し、外にいかない？」
「今、何時？」
「３時半。」
「３時半．．．いいよ。」
そう言ってシンジが起き出す。
「昼の３時半だよね？」
「当然でしょ！」
「ごめん。」
「まったく、その癖なんとかしなさいよ。」
「う、うん。ごめん。」
「しょうがない奴。」
「．．．」
シンジを見ていた。なんとなく微笑んでいるような気がした。

「水だけ持っていけばいいかな。」
「そうね。私の分もお願い。」
「了解。」
食料庫で、シンジが、ミネラルウォーターを探している。
「ねえ、おやつみたいなものないの？」
「うーん。乾パンとか。」
「あー。うーん。ま、それでもいいわ。」
「了解。」

「鞄も欲しいかな．．．」
ミネラルウォーターのボトルと乾パンの袋を持ったシンジが呟く。
シンジが衣料庫に歩いていく。
シンジの後をついていった。

「サバイバルキットも持っていこうか。」
「そうね。」
シンジが、私にサバイバルキットを渡した。

校舎を出て、腕時計を見た。４時を少し回っていた。
「どこに行くの？」
「街中に何か使えそうなものが残ってないか調べるの。」
「そう。」
「．．．」
「けど、皆、疎開してたから、あんまりないと思うけど。」
「そう言えば、そうだったわね。ま、いいじゃない。一日中、シェルターの中にいたら、気が滅入っちゃうわ。」
「そうだね。」
そんな事を話しながら、校門を出た。

学校帰りに寄っていたお店を回ってみた。
皆、シャッターが降りている。
試しに、洋服屋さんのシャッターを、サバイバルキットで開けてみた。
マネキンやハンガーが残っているだけだった。
「ま、仕方ないか。」
そう呟いて、シャッターを閉めた。

あまり歩き回っても仕方なさそうなので、街を見渡せる公園に行った。
ベンチの埃を払って､腰を下ろす。
シンジが横に、少し間をあけて腰を下ろした。
「シンジと、ここに来るのって、久しぶりよね。」
「え？．．．あぁ、アスカとユニゾンの特訓してた時のこと？」
「そうそう。」
「そんなこともあったね。」
「．．．つまんない奴。」
「．．．」
沈黙が流れた。
シンジが、鞄からミネラルウォーターのボトルを出し、栓を開けて、水を飲み出した。
私も、そうした。

空が赤くなり始めていた。
最悪、ずっと、シンジと二人っきりっていうこともあるのかな．．．
夕日を見ながら、そんなことを考えていた。
「皆、いつになったら帰ってくるのかな？」
シンジが言った。
「さあ。私には分からないわ。」
そう。誰が決めてるんだろう。まさか、レイ？
「もしかしたら、ずっと、アスカと二人っきりっていうこともあるのかな。」
！
思わず、シンジを見た。
「．．．」
「それ、どういう意味？」
シンジが、驚いたように、私を見る。
「ううん。別に。ただ、そう思っただけ。」
「そう。」
ま、バカシンジだから、こんなもんよね。

「明日から、どうしようか。」
シンジが言った。
「どうするって？」
「帰ってくる人を探すとか．．．将来の食べ物の心配をするとか．．．勉強するとか．．．」
「ま、シンジは、勉強もした方がいいかもね。」
「．．．」
沈黙が流れた。

「帰ってくる人を探すって？」
「芦ノ湖まで行くとか。」
「やっぱり、あそこから帰ってくるのかしら。」
「僕たちと同じならね。」
「そう．．．」
皆、本当に帰ってくるのだろうか。
私は、レイに会って、それで帰ってきた。
もし、レイが現れなかったら、帰ってこられたのだろうか。
あのまま、量産機に殺され続けていたのではないのだろうか。
「シンジ？」
シンジが私を見る。
「何？」
「シンジは、最後に、レイに会ったのよね？」
「うん。最後は、母さんだけど。」
「そう。」
「どうしたの？」
シンジが私を見ている。
「私が最後にレイに会ったのは言ったわよね。」
「うん。」
「シンジは、レイに会わなかったら、帰ってこられた？」
シンジが、少し驚いたような顔をする。
「．．．」
「．．．」
沈黙が流れた。
シンジが夕日の方を見た。

夕日を見ていた。
「分からない。」
唐突にシンジが言う。
「え？」
シンジの方を見た。
「綾波に会わずに、帰ってこられたか。」
「そう。」
「それまでは、自分の思い出の中で、夢を見ていたのかもしれない。」
「．．．」
「綾波に会わずに、そこから抜け出せたか、分からない。」
「．．．」
沈黙が流れた。

「私も、そう思ったのよ。」
シンジが私を見る。
「レイが現れなかったら、ずっと、量産機に殺され続けていたかもしれない。」
「．．．」
「廃屋の中で．．．ううん、思い出の中から抜け出せなかったかもしれない。」
「．．．」
「．．．」
「そう．．．」
シンジが夕日の方を見る。
私も夕日の方を見た。

「案外、僕らの知っている人達から帰ってくるかもしれないね。」
唐突にシンジが言う。
「？」
シンジの方を見た。
「もし、綾波が、皆を、ここに返しているのなら。」
思わず苦笑した。
「そうね。そうかもしれない。」
夕日を見ながら、しばらく、微笑んでいた。

シンジの方を見て、言った。
「明日から、芦ノ湖に行くようにしようか？」
シンジが私を見る。
「いいよ。」
「知ってる人を探しに。」
「いいよ。」
思わず、微笑んだ。
「将来の食べ物の心配は、食料庫の食べ物が半分になってからにしましょう？」
「そうだね。」
二人で夕日を見ていた。

シンジを見て、言った。
「そろそろ帰る？」
「そうだね。夕飯の支度もしないといけないし。」
「ふふふ。」
「アスカも、少しはやってよね。」
「へいへい。当番表でも作る？」
「うーん。アスカ、じゃんけん強いからなぁ。」
「ま、そういうことね。」
「ちぇっ。」
ちょっとふてくされて、シンジが立ち上がる。
「行こう。」
シンジが私を見る。
「うん。」
私も立ち上がった。
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モニターのこちら側 Genesis 3:5 完 

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