| −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 地下鉄車内 「ねえ。」 つり革につかまって、前を見たまま、口を開いた。 「何？」 窓ガラスに映ったシンジの目が、私の目を見る。 「今年の夏、どこも行かなかったね。」 「そうだね。」 沈黙が流れた。 「ねえ。」 窓ガラスに映ったシンジを見て、言った。 「うん。どこか行く？」 窓ガラスのシンジが、私から目をそらしたまま言う。 「うん。」 窓ガラスのシンジを見ながら言った。 「どこがいいかな．．．」 「．．．」 「日帰り？」 「泊まり．．．でも、いい。」 「そう．．．」 「．．．」 「僕達、二人で、泊まりの旅行、行っていいのかな。」 「分からない。」 「うん．．．聞いてみるよ。」 「うん．．．」 地下鉄がホームに入った。 メゾン松代 １２１号室 アスカの部屋 数学の問題集をしていた。 コンコン。 ドアをノックする音がした。 「はい。」 ノックに答える。 「僕だけど。入っていい？」 シンジの声がした。 「うん。いいよ。」 椅子を回して、ドアの方を向いた。 ドアが開いて、シンジが入ってくる。 シンジが、私の脇に立った。 「座っていいよ。」 ベッドの方に手を向けた。 「ありがと。」 シンジが、ベッドに腰を下ろす。 「それで、何？」 シンジを見た。 「旅行の話し。」 「うん。そうだよね。一応、聞いてみただけ。」 シンジを見て、小さく笑いながら、言った。 「アスカ。」 シンジが、少し、むっとしたような顔をする。 「ごめん。」 右手を顔の前に立てて、少し頭を下げた。 「う、うん。ごめん。」 シンジが、少し困ったように、私を見る。 「ううん。それで、ミサトは、なんて？」 シンジが、私を見ながら、口を開いた。 「うん。二人は、まあ、ちょっとまずいって。」 「まあ、普通、そうよね。」 「それで、三人で行かないかって。」 「．．．そう。」 「うん。どうする？」 「．．．」 シンジから目を外して、壁を見た。 少し考えていた。 「ミサトも、行けるんだ。」 壁を見たまま、呟いた。 「うん。そうみたいだよ。僕達の上司をしてるだけみたいだから。」 「なるほど。まあ、言われてみれば、そうかもね。」 「うん．．．」 「それで、どこに行くって？」 「それは、考えるって。」 「宿とか取れるのかな。」 「まあ、どこも取れなければ、戦自の施設を使っちゃえばいい、とか言ってたよ。」 「．．．なるほど。ミサトらしい意見ね。けど、正しいかも。」 「うん。まあ、こんな感じ。」 「了解。ミサトに任せるのがいいかもね。分かったわ。」 「うん。ただ、行き先のリクエストくらいは、したほうがいいかも。」 「そうね。分かった。ありがとう。」 「うん。それじゃ。」 シンジが、微笑んで、立ちあがる。 「うん。ありがとう。」 シンジに微笑んだ。 シンジが、軽く手を振りながら、部屋を出ていった。 「三人か．．．」 閉まったドアを見ながら、小さく呟いた。 ベッドに横になって、天井を見ていた。 「どこに行くのがいいかな。」 行きたいところ．．．しばらく考えたことなかった。ちょっと、おかしくなってたし。どこか行きたいところ．．． 翌朝 鳥の鳴き声がしていた。 「ん．．．」 目を開けると、窓から光が入っていた。 目覚ましを手にとって見る。 あと１０分くらいで、いつも起きる時間だった。 「寝てようかな．．．」 目覚ましの音がする。 「んんん．．．」 手を伸ばして、目覚ましを止めた。 起きあがって、目を開けた。 「はー。」 ため息をついた。 ベッドから降りて、部屋を出た。 ダイニング 顔を洗って、ダイニングに入ると、シンジが、椅子に座っていた。 「おはよう。」 シンジに言った。 「おはよう。」 そう言って、シンジが、トースターのレバーを押し下げ、立ちあがる。 キッチンに立って、コンロのスイッチを入れた。 「はい。」 シンジが、私の前に、ベーコンエッグとスープを置く。 「ありがとう。」 シンジに微笑んだ。 「食べよう。」 シンジが、椅子に腰を下ろし、言う。 「うん。いただきます。」 「いただきます。」 シンジが、スープに口をつける。 ベーコンを、一口かじった。 「おはおう。」 あくびをしながら、ミサトが、ダイニングに入ってくる。 「おはようございます。」 「おはよう。」 ミサトが私の隣に腰を下ろした。 シンジが、立ちあがって、キッチンに立つ。 「はい。」 シンジが、ミサトの前に、ベーコンエッグとスープ、水を置く。 「ありがとう。」 ミサトが、そう言って、水を飲んだ。 「ふう。生き返るわ。」 ミサトが、コップをテーブルに置きながら言った。 「どこ行くか決まった？」 トーストをかじっているミサトに聞いた。 「んんん。」 ミサトが、トーストを口から離し、口を動かしながら言う。 「そう。」 「どこか行きたいとこ、ある？」 ミサトが、トーストを飲みこんでから言った。 「そうねー。」 軽く腕組みをして、視線を上に上げて、呟いた。 「．．．」 沈黙が流れた。 「そう言えばさ。」 スプーンで口に運んだスープを、口の前で止めて言った。 「ん？」 ミサトが、口を動かしながら言う。 「沖縄って、行けるの？」 ミサトが、卵焼きを飲みこむ。 「．．．そうね．．．行けなくはないわよ。」 「修学旅行で、行けなかったし、なんとなく．．．」 「なるほど．．．」 ミサトが視線を左上にそらす。 沈黙が流れた。 「そう言えばさ。」 ミサトが、スープを飲みながら、口を開く。 「．．．」 ミサトを見た。 「修学旅行って言うと、京都とか、奈良とか、行ったみたいよね。セカンド・インパクトの前は。」 「京都と奈良．．．」 「知ってる？」 「うーん。名前は知ってる。お寺が、たくさんあるんでしょ？」 「うん。昔の首都だから。」 「そうなの。」 「うん。私も、修学旅行、行けなかったから。なんとなく、行きたくなっちゃって。」 「うん。まあ、いいけど。」 ミサトを見た。 「あ、これ、わがままだから。沖縄でも、別に、いいよ。」 「．．．」 ミサトからシンジに視線を移して、ちょっと首をかしげた。 シンジが、視線を左上にずらして、そして、私を見て、軽くうなづいた。 ミサトに視線を戻した。 「そうね．．．それもいいかも。」 ミサトに、軽く微笑んだ。 ミサトが、顔を輝かせる。 「ありがと。」 ミサトが微笑んだ。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− モニターのこちら側 Genesis 3:46 完 |