| −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 旧ネルフ松代支部 国連直轄 人工進化研究所 所長室 「やはり、サード・インパクトで、人の遺伝子は、変化しているようです。」 研究員が、プロジェクタに映し出された映像を指しながら言う。 「こちらが、サード・インパクト前の人の遺伝子パターン、こちらが、サード・インパクト後の人の遺伝子パターン、そして、これが、使徒の遺伝子パターンです。」 研究員が、キールの方を見る。 「サード・インパクト前の人と、使徒の遺伝子パターンは、０．１１％違っていましたが、サード・インパクト後の人の遺伝子パターンは、その０．１１％の違いを含んだ上で、０．２２％違っています。」 「つまり、使徒の遺伝子が含まれているということかね？」 「そうです。」 「残りの０．１１％は？」 「残念ながら、未知の遺伝子です。」 「分かった。ご苦労。」 「失礼します。」 研究員が、パソコンを片付け、退出した。 「どう思うかね？」 キールが、他の委員を見渡しながら言う。 「アダム、そして、リリスの遺伝子が含まれるようになったということかね？」 「神とヒトが一つになり、均質のまま、分かれたということか。」 「サード・インパクト後、ヒトの数は、増えてもいない。減ってもいない。」 「これが、人類の新生かね。」 「新たな補完をすべきだろう。全ての生命が『死』をもって一つになるために。」 「リリスは失われている。我々の中に。そして、リリスの分身たる、エヴァ初号機も。それを手中に収める必要がある。」 キールが口を開く。 「次回の会合は、追って連絡させていただく。以上。」 委員らの映像が、次々に消えていく。 「神の見えざる手か。」 そう呟いて、キールの映像が消えた。 階段を上がって、３３号室のドアを開ける。 「おはよう。」 マヤが私の方を向いて言う。 「おはよう。」 ドアを閉めて、そう言いながら、机にバッグを置いた。 「今日も暑いわね。」 端末のスイッチを入れながら言った。 「そうね。冷房、少し強くする？」 マヤが言う。 「あ、うん。じゃ、ちょっとの間だけ。」 エアコンの方に歩いていって、温度設定を少し下げた。 「寒くなったら言ってね。」 「ええ。」 マヤが端末を見たまま答えた。 問題集と参考書を取出して机の上に置き、端末からメールと掲示板を見た。 「Shigeru Horaki．．．誰だろう。」 見覚えのないアドレスからのメールが来ていた。メールを開いてみる。 Subject: はじめまして Date: Wed. 7 Aug 2019 18:01:29 +0900 From: Shigeru Horaki <shigeru_horaki@army.jssdf.gov> To: Soryu Asuka Langley <soryu_asuka_langley@pm.jssdf.gov> Security: Personal Importance: Normal はじめまして。洞木ヒカリの伯父の洞木シゲルといいます。 いつも姪がお世話になっております。 実は、姪から、同窓会に惣流さん、碇君を呼びたいと言われ、お知らせする次第です。 日時、場所は以下の通りです。ご都合をお知らせください。 日時：８／１５ １１：４５ 場所：松代 旅館定鑑堂 予算：４０００円程度 以上 「ヒカリの伯父さんね．．．」 そう呟いて、ミサトに、参加してもいいかという、問い合わせのメールを打ち始めた。 何度目かのベルが鳴った。 「行きましょう？」 マヤが言う。 「ええ。」 そう言って立ちあがった。 階段を降りていくと、入り口で、シンジ達、そしてミサトが待っていた。 「お待たせ。」 シンジに言う。 「ううん。」 シンジが微笑んだ。 「じゃ、行きましょう。」 ミサトが言うと、皆が歩き出した。 「あのメールだけどさ？」 ミサトが、私達に話し掛ける。 「うん。」 ミサトの方を見た。 「今、問い合わせてるから、ちょっと待ってて。多分、今日中には、分かると思うから。」 「了解。」 「まあ、問題ないと思うわ。」 「了解。」 「洞木さんとか、鈴原君や相田君には、私も会いたいけど、ま、それは、機会を改めてってことで。」 ミサトが笑っている。 「そうね。」 私も笑った。 トレイをテーブルに置いて、椅子に腰を下ろした。 私の前にシンジが腰を下ろす。 「食べよう。」 「うん。」 明太子スパゲティにフォークをいれた。 「僕、どうしようかな。」 シンジが言う。 「同窓会？」 スパゲティを飲みこんでから口を開いた。 「うん。」 「そう．．．」 沈黙が流れた。 「トウジ．．．どんな風に思ってるかな．．．」 シンジが呟く。 「足も治ったみたいだし、いいんじゃないの？」 スパゲティをフォークに絡めながら言った。 「そう．．．そうかもね．．．」 「．．．」 沈黙が流れた。 シンジが、俯いているのを見ていた。 「そろそろ行く？」 窓の外に視線を移して言った。 「そうだね．．．」 シンジが立ちあがる。 私も立ちあがった。 ２人で、カフェテリアの脇の道を歩いていた。 相変わらず、シンジは俯いている。 「シンジ？」 口を開いた。 「．．．何？」 シンジが、俯いたまま答える。 「あのさ．．．」 「．．．」 沈黙が流れた。 「鈴原の乗った参号機を倒して、鈴原の足が切断されたの、そんなにショックだった？」 シンジが、不思議なものを見るように、私を見る。 「そんなの当たり前じゃないか。もう少しで友達を殺すところだったんだよ！？」 シンジが声を荒げる。 「そう．．．」 声が低くなるのが分かった。 「そうって．．．」 「あんたが、早く来なかったから、私は、量産機に殺されたのよ。」 シンジを睨んでいたかもしれない。 「あ．．．」 シンジが、目を見開いて、そして、私から目を逸らす。 「死んだのよ？」 「．．．」 「足がなくなったとかじゃないのよ、死んだのよ？！」 「．．．」 「あんた、あたしに対しては、どう思ってたわけ？！」 シンジのシャツの襟首を掴む。 「．．．」 「しかも、あの後、初めて会ったときに、あんた、あたしに何をした？」 シンジを激しく揺らした。 「．．．」 「殺そうとしたのよ？！！！！！！！！」 涙声になっていた。 「．．．」 シンジから手を離す。 シンジが、体を震わせて立ちすくんでいた。 沈黙が流れた。 「あ．．．あの．．．」 シンジが呟く。 「何．．．」 小さく呟いた。 「ごめん．．．アスカ．．．」 「．．．」 「謝って済むことじゃないけど．．．ごめん．．．」 「．．．」 沈黙が流れた。 「シンジ．．．」 立ち尽くしているシンジの手を取った。 シンジが私を見る。 「アスカ．．．」 「ごめんね．．．」 「．．．」 「けど、会った方がいいと思うよ。 私に会ったみたいに．．．」 シンジが目を逸らす。 「．．．」 沈黙が流れた。 「そうだね．．．」 シンジが私を見る。 「うん．．．」 「ありがと。アスカ。」 シンジが微笑んだ。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− モニターのこちら側 Genesis 3:44 完 |