| −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ２０１９年４月１９日 松代城跡 「日向君？」 ミサトが、日向の前にしゃがみこみ、酒瓶を傾ける。 「はい、いただきます。」 「ふふ。あんまり無理しちゃ駄目よ。」 そう言いながら、ミサトが、日向のコップに、なみなみとお酒を注いだ。 「はあ．．．」 日向が、少し困ったように微笑んだ。 明日が、土曜で休みということもあって、私達、元ネルフの面々は、駐屯地近くの桜の名所、松代城跡に来ていた。 「もうそろそろ終わりなのかな。」 散っていく桜の花びらを眺めながら、シンジが言った。 「そうね。そろそろ、４月も下旬だし。ここって、見頃、中旬なんでしょ？」 私も、花びらを眺めながら答えた。 「そうだね。」 沈黙が流れた。 見まわすと、駐屯地で見かける顔、見かけない顔、いろんな人達が、桜の下で、お酒を飲みながら、歌ったり、語ったりしていた。 私達の所では、ミサトがメインでしゃべっている感じで、青葉とマヤが、時々、何かを話している感じだった。 いなり寿司を一つ取って、口に入れた。 「この、下に敷いてあるのって、テントマットって言うんだっけ。」 なんとなく、話したくなって、口を開いた。 「確か、そうじゃなかったかな。」 シンジが答える。 「そう．．． これって、あのパーキングエリアに歩いていったときに敷いたやつよね。」 「ああ．．． そう言えばそうだね。」 「だって、周りの人、誰も、こんなの敷いてないよ。」 「そっか。嫌だった？」 「あ、ごめん．．． そういう意味じゃないから．．．」 「そう。」 「これの方が暖かいから、好きよ。」 「そう。よかった。」 「．．．うん。」 沈黙が流れた。 会話続かないな．．． そんな風に思って、周りを見た。 ミサトと日向は、ミサトがしゃべって、日向が相槌を打っているような感じだった。 青葉とマヤは、青葉がしゃべって、マヤが相槌を打っている。 シンジを見た。 シンジは、そんな光景を、なんとなく見ているように見えた。 「ねえ。」 「何？」 シンジが、前を見たまま答える。 「会話、続かないね。」 シンジが、私を見る。 「そうだね．．． ごめん。」 「．．．」 シンジを見ていた。 「何か．．．何て言うか、言うことが思いつかなくなっちゃうんだ。こういうところだと。」 「．．．」 「何か、変なのかな．．．」 「．．．」 「．．．」 「まあ、シンジらしいとは思うけど。」 「そう．．．」 「前にも、こんなことあったわよね。いつだったかな．．．」 「あの時だよ。ミサトさんの昇進祝いの時じゃないかな。」 「ああ．．．あの時は、ヒカリとか、鈴原に相田に、リツコと加持さんもいたんだっけ？」 「そうだね。」 「なんか、懐かしいわね。」 「そう．．．」 シンジが、視線を落として呟く。 「．．．」 シンジを見ていた。 「私、何か、まずいこと言ったかな．．．」 シンジが私を見る。 「．．．そんなことないよ。」 「そう．．．」 「．．．」 沈黙が流れた。 「あの時は、ちょっと居心地が悪かったんだ．．．」 シンジが口を開く。 「ケンスケが、ミサトさんが昇進したのに気付いたとき、ミサトさん、少し困ったような顔をしてた。」 「．．．」 「あの頃、僕のシンクロ率の伸びがよくて、リツコさんに誉められたら、アスカが機嫌を悪くして、一人で帰っちゃって．．．」 「．．．」 「ミサトさんと帰るときに、ミサトさんに昇進おめでとうございます、って言ったら、あまりうれしくないんだって言われて．．．」 「．．．」 「リツコさんに誉められても、アスカが機嫌を悪くするから、あまり嬉しくないって言ったら、そうやって人の顔色ばかり気にしているからだって、ミサトさんも機嫌を悪くしちゃって．．．」 「．．．」 「けど、ミサトさんは、宴会では、機嫌よく盛りあがってて、なんだか、よく分からなかったんだ。」 「．．．」 「．．．」 「そう．．．」 沈黙が流れた。 「今は、分かるの？」 桜を見上げながら、口を開いた。 「よく分からない．．．」 シンジが呟く。 「そう．．．」 桜の花びらが散り、舞っていくのを見ていた。 「私、帰ろうかな。」 桜を見ながら言った。 「じゃあ、僕も帰るよ。」 シンジが言う。 「うん．．．」 そう呟きながら、立ちあがって、ミサトに近づいた。 ミサトの脇にしゃがみこんで、耳に口を寄せる。 「私達、先に帰るね。」 ミサトが、私を見る。 「了解。」 ミサトが、私にウインクした。 微笑みを少し作った。 シンジの隣りに戻る。 「行こう。」 「うん。」 靴を履いて、皆の方を見た。 「私達、帰ります。それじゃ、お先に。」 そう言って、歩き出した。 「「「お疲れ。」」」 「お疲れ様。」 皆の声が聞こえた。 地下鉄車内 「あの時、どうして、私の機嫌が悪くなったのか分からなかった、って言ってたわよね。」 少し大きな声で言った。 「うん。」 シンジが答える。 「あれは、私の方が、ずっと長く訓練して、シンクロ率を上げたのに、シンジが、それを追い越す勢いで、シンクロ率を上げたから、むっとしたのよ。」 「．．．そう。」 「挙句の果てに、追い越されちゃって。私がやられた使徒を、シンジ．．．初号機が倒して、それで．．．」 「．．．」 「それで．．．」 「．．．」 「私．．．」 涙声になっていた。 膝に載せていた手に涙が落ちる。 「アスカ。」 シンジが、私を抱きしめる。 「．．．」 「ごめん。」 「．．．」 「嫌な事思い出させちゃって．．．」 「．．．」 「ごめん．．．」 シンジの胸に額を押しつけた。 「アスカ．．．」 私を抱きしめるシンジの手が、少しきつくなった。 メゾン松代 シンジが、鍵を開けて、中に入る。 私も、中に入った。 スリッパを履いて、振りかえると、シンジが、靴の向きを直していた。 シンジが立ちあがって、私の方を見る。 「大丈夫？」 シンジが、私に話し掛ける。 「うん．．．多分．．．」 シンジが、私を軽く抱きしめて、髪を撫ぜるようにする。 シンジに軽くもたれるようにした。 「アスカ。」 「何？」 「．．．」 「．．．」 「好きだよ。」 「うん．．．」 沈黙が流れた。 体を少し離して、シンジを見た。 シンジが私を見る。 「シンジ。」 目を閉じた。 「アスカ。」 シンジの唇が私の唇に重なる。 少しして、唇が離れた。 俯いて、シンジの肩に額をあてる。 「シャワー浴びるわ。」 「うん。」 体を離して、シンジを見た。 シンジが心配そうに私を見つめる。 「ありがとう。」 シンジに微笑んだ。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− モニターのこちら側 Genesis 3:43 完 |