「そろそろお花見かな？」
湯のみを置いて、シンジに言った。
「そうだね。」
シンジが、窓の外に視線を移しながら言う。
私も、窓の外を見た。

「アスカ。シンジ君？」
ミサトの声がした。
声の方を見る。
「はい。」
シンジが答える。
「悪いんだけど、昼休み終わったら、私の部屋に来てくれる？」
「分かりました。」
シンジが答える。
「いい？」
ミサトが、私を見る。
「了解。」
ミサトを見て、軽く手を上げた。

「何かしらね。」
駐屯地内の芝生の端を歩きながら、シンジに言った。
「多分、大学のことじゃないかな。」
シンジが答える。
シンジを見ると、前を向いたまま、軽く俯いていた。
「そっか。」
「アスカは、大学、どうするの？」
「うん．．．そうね．．．」
「アスカは、もう大学出てるから行かなくてもいいんだよね？」
「そうね。」
「そう．．．」
「けど、別に行ってもいいのよ。」
「そう．．．」
沈黙が流れた。

「僕は、エヴァに関係あることができたらいいかなって、思ってるんだけど．．．」
シンジが口を開く。
「そう。」
前を見たまま答えた。
「まあ、直接関係あることは、できないとは思うけど。」
「．．．」
「どう思う？」
「どう思う．．．」
「．．．」
エヴァに関わる．．．確かに私達には適任かもしれない。けど．．．
沈黙が流れた。

「アスカ？」
シンジの声がした。
「あ．．．何？」
シンジの方を見た。
「あ。うん。ちょっと思いつめた顔してたから。」
シンジが、少し作ったような笑顔で答えた。
「ごめん．．．」
少し笑顔を作った。
少し考えていた。

「エヴァに関わるのって．．．」
前を見たまま口を開いた。
「．．．」
シンジが私を見る感じがする。
「危なくないのかな？
  殺されそうになったりしない？」
シンジを見る。
シンジが、虚を突かれたような顔をして、そして、少し厳しい顔になる。
「そうだね．．．」
シンジが呟いた。
「あんまり、危ないことはしないでね。」
「うん．．．」
沈黙が流れた。
 

４２号室前

ミサトの部屋のドアを叩いた。
「はい。」
インターホンから、ミサトの声がした。
「来ました。」
シンジが答える。
「開いてるから、入ってくれる？」
「分かりました。」
シンジが、ドアを開けた。

ミサトが、机の向こうに座っていた。
「座って。」
机の手前の椅子を手のひらで指した。
シンジが、左側の椅子に腰を下ろす。
右側の椅子に腰を下ろした。

「大学の件だけど、監視の都合があるから、この辺の大学にして欲しいっていう解答が来たわ。」
ミサトが、書類に目を落としながら言う。
「そうですか。」
シンジが相槌を打つ。
「ええ。防衛大学校とかの指定は、特にはなし。」
ミサトが、シンジを見る。
「．．．」
「ただ、そういう指定がないというのは、逆に、もしかしたら、ちょっと話しが複雑になっているのかもしれないけど。」
「そうなんですか。」
「ええ。」
ミサトが私の方を見る。
「アスカも同じだから。学部に行くか、大学院に行くかは、任せるわ。」
「了解。
  それで、その、複雑な話って？」
「うん．．．」
ミサトが、書類に目を戻す。
「これ、国連から来てるのよね。」
「．．．そうなんだ。」
「だから、どうって程でもないんだけど。まあ、一応、そういうことになってるみたいよ。」
「分かった。」
ミサトが、私達を見ながら言う。
「もしかしたら、身柄が国連に引き渡されることもあるかもしれないから、その辺の覚悟はしておいて。」
「覚悟って．．．」
シンジが口を開く。
「英語、出来たほうがいいと思うわ。」
ミサトが言う。
「そうですか。」
「まあ、あとは、なんとかなるんじゃない？私もそうだったから。」
「はあ．．．」
シンジが、少し困ったような呆れたような顔をして、ミサトを見ていた。
「そんな感じだけど、何か質問は？」
ミサトが私達を見て言う。
「いいえ。」
シンジが言う。
シンジを見て、そして、ミサトを見た。
「私も。」
「ＯＫ。じゃあ、戻っていいわ。」
「はい。」
シンジが立ち上がる。
「私、ちょっと話しがあるから、先に行ってて。」
シンジを見て言った。
「うん。それじゃ。」
シンジが微笑んで、そして、部屋を出ていった。

「どうしたの？」
ミサトが言う。
ミサトを見た。
「うん．．．
  国連の所属になったら、ドイツに帰ることになったりするのかな？」
視線を左下に逸らした。
「そうね．．．」
「．．．」
「そうかもね。」
「そう．．．」
ミサトを見た。
ミサトが、視線を落としていた。
「あと、今更、戦自から国連に所属が移るのって、何か意味があるのかしら？」
「そうね．．．」
ミサトが、私を見て、そして、視線を左上に上げる。
「まず、所属が移るかもしれないというのは、私の単なる推測で、本当にあるかどうかは、分からない。それはいい？」
「了解。」
「その上で、所属が移るというのは、何を意味しているかというと、アスカのチルドレンとしての素質に利用価値が生じたということを意味していると思う。」
「．．．」
「つまり、エヴァを動かすということ。」
「！」
「それが、使徒を殲滅するためなのか、フォースインパクトを起こすためなのか、それとも、他のことのためなのかは、分からないわ。」
「．．．」
「まあ、大学進学の指示書が国連から来ただけだから、ちょっと読みすぎかもしれないけどね。」
「そう．．．」
沈黙が流れた。

視線を上げて、ミサトを見た。
「また、あんなことあるのかな？」
ミサトが、私を見て、そして、視線を上に外した。
「そうね．．．まったくないとは言えないかな．．．」
「そう．．．」
「．．．」
沈黙が流れた。

「ま、考え込んでても仕方ないわね。」
息を吐いて、そして、ミサトを見た。
「まあ、そうね。私達には、できること、なさそうだし。」
ミサトが、少し表情を崩しながら言う。
「了解。それじゃ、色々ありがとう。」
椅子から立ちあがりながら言った。
「うん。」
ミサトが微笑む。
「それじゃ。」
扉を開けながら、ミサトに手を振った。
 

昼のシフト終了のベルが鳴った。
「それじゃ、お先に。」
マヤが席を立つ。
「お疲れ様でした。」
現代国語の問題集を閉じながら、マヤに言った。
 

階段を降りていくと、出口にシンジが立っていた。
「おまたせ。」
シンジに声をかける。
「ううん。」
シンジが微笑んだ。
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モニターのこちら側 Genesis 3:42 完

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