「あっちの方に行くわよ。」
波打ち際から離れる方を指差して、シンジに言った。
「うん。」
そうシンジが答えるのを聞いて歩き出した。
砂を踏む音だけが聞こえる。
「暑くならないうちに、何か見つかるといいんだけど．．．」
思わず呟いた。

三時間位歩いて、やっと街の残骸が形をなしてきた。
家、コンビニ、コインランドリー．．．
「シンジ？」
シンジの方を見た。
「なに？」
シンジが私を見る。
学生服か．．．
「なんでもないわ。」
「そう。」
シンジが怪訝そうな顔をする。
プラグスーツからサバイバルキットを取り出して、家のドアを開けた。
「何してるの？」
シンジが私に聞く。
「水が飲めるかと思って。」
「ああ．．．」
家の中に入る。
「いいのかな？」
シンジが言う。
「非常事態だからいいのよ。」
「そう．．．」
水道の蛇口をひねる。
何も起こらない。
「そう．．．
  困ったわね。」
思わず愚痴った。

家のドアの鍵を締め、また歩き出した。
「シンジ？」
「何？」
「どうするといいと思う？」
「．．．」
沈黙が流れた。
「この辺に、シェルターあるかな。」
シンジが呟く。
「そっか。それ、いいかも。」
思わず声が大きくなる。
「この辺りって、家の近くだから．．．学校？」
「そうかな．．．」
「よーし、急ぎましょ？」
「えー、けど、駄目かもしれないし．．．」
「もー、ぐずぐずうるさいわね！」
「ごめん。けど、急ぐことはないと思うよ。」
「分かったわよ、もー。」
「．．．」
シンジは無視して、少し歩調を早くした。

途中、コンフォート１７マンションにも寄ったけど、一階のロビーのドアさえ開かなかった。これで、学校のシェルターが生きてないと、かなりヤバイ．．．内心、そう思っていた。

やっと学校に着いた。結構日が高くなっていて暑い。水がなくても、とりあえず、木陰で休もうと思った。
シンジが校舎の裏に歩いていく。
「どこ行くのよ、シンジ。」
「井戸、あったよね？」
「．．．」
そんなものあったかしら．．．
シンジの後を付いていくと、手押しの井戸があった。
シンジが井戸のポンプを動かす。
水が出てきた。
シンジが水を見ている。
シンジが水を手に取って、鼻を近づけ、飲んだ。
「どう？」
シンジに聞いた。
シンジが口の中で水を動かしている。シンジが水を飲み込んだ。
シンジが私を見ている。
「とりあえず、すぐに死ぬことはないみたいだよ。」
シンジが私に微笑む。
「了解。」
ポンプの水の出口に左手を差し出した。
水が出てくる。
シンジがポンプのレバーを動かしている。
左手に水を受け止めながら、口を付け、水を飲んだ。
おいしい。
生き返った気がした。
水を飲むのを止めた。
シンジを見た。
「ありがとう、シンジ。」
シンジに言う。
シンジが微笑んだ。

シンジが、ポンプの水の出口に手を差し出す。
ぼーっと、それを見ていた。
「悪いけど、水、出してくれる？」
「あ、ごめん。」
慌ててレバーを動かした。
シンジが手に口を付け、水を飲む。
シンジが顔を洗っている。
シンジが顔の水を拭っている。
「ありがとう、アスカ。」
シンジが微笑む。
「どういたしまして。」
シンジに微笑んだ。

「さてと、じゃ、シェルターに行きましょう？」
「そうだね。」
校舎の入り口の鍵を開けて中に入る。むっとする熱い空気に包まれた。空調が死んでいるから、室温は上がり放題のようだった。汗が流れ出す。外で水を飲めてよかった、と思いながら、シェルターの入り口へ歩を進めた。
「まったく、熱射病になりそうな暑さね。」
「そうだね。」
シンジから気のない返事が返ってくる。まったく、もう少し気のきいた返事できないのかしら。そう思いながら、歩いていると、シェルターの入り口に着いた。シェルターのドアの脇の操作盤の開放ボタンを押してみる。

ゴー。

音をたててドアが開き始めた。
「生きてるみたいね。」
そう言って、シンジを見た。
「そうだね。」
シンジが微笑む。

一応、入り口を閉めて、階段を降りていく。避難訓練で内部構造は把握しているので、まず、食料倉庫に行ってみる。扉を開けると大量の食料が山積みされていた。
「これなら、しばらくは大丈夫ね。」
「コンロとか使えるかな？」
「チェックしましょ？！」
「うん。」
シンジと調理場に行く。シンジが色々チェックしている。
「使えるみたいだよ。」
シンジが私を見て微笑む。
「そう。」
あとは．．．

浴場に行ってシャワーの蛇口をひねった。

シャー。

水が出てきた。
「やったー！」
思わず、叫んでいた。
「どうしたの？」
シンジが後からやってきて、怪訝そうに聞く。
「シャワーが使えたのよ！うれしー！」
「そう．．．」
「今からシャワー浴びるから、出て行くように！」
「了解。」
「分かってると思うけど、覗いたら殺すわよ。」
「はいはい。」
そう言って、シンジが出口に歩いていく。
それを見ていたら、突然、シンジが足を止めた。
「どうしたのよ？」
ちょっと不機嫌な声で聞く。
シンジが振り向く。
「着替え、用意した？」
「あ．．．」
シンジが微笑む。
「ご飯の用意しておくから。」
思わず、目線を落とした。
「ありがとう。」
シンジが浴場を出ていった。

衣料倉庫に行くと、制服が山積みされていた。
「制服だけかぁ。とりあえずしょうがないかな．．．」
少し悲しくなった。いつも制服なんて。レイじゃあるまいし．．．
下着と制服とタオル、シャンプー、石鹸を取って浴場に戻った。

頭の包帯を取っていく。何の傷もなかった。ゆっくりと瞼を開くと左目が見えた。
「よかった．．．」
思わずため息をついた。
右手の包帯を取っていく。何の傷もない。
「．．．」
プラグスーツをリリースする。
肩を出し、腕を抜いて、上半身をはだける。やはり何の傷もない。
「．．．けど、どういうこと？」
レイが、何かした？
分からない．．．
だいたい、なんで包帯が．．．
そう思いながら、プラグスーツから足を抜いた。
「ま、いいか。」

シャワーで石鹸を流していく。
「生き返るわね。」
思わず微笑んだ。

タオルで水を拭き取って、下着、そして制服を着る。
脱衣籠のプラグスーツを見た。
「一応、洗っておこうかな。」
洗濯機に入れて、スイッチを押した。

食堂に行くと、シンジが椅子に座っていた。
「シンジ、ご飯は？」
シンジが振り返る。
「あ、ちょっと待ってて。」
シンジが立ち上がり、調理場に歩いていく。
すぐに戻ってくると、私の前に湯飲みを置いた。お茶だった。
「あ、ありがとう。」
シンジは、私に微笑むと、また調理場に戻っていった。
お茶を飲みおわった頃にシンジがカレーを持ってきた。
「お待たせ。」
「ううん。そんなことないわよ。」
シンジが私の前と、私の向かいの席にカレーの皿とスプーンを置く。
シンジが私の向かいに座った。
「じゃ、食べましょう？」
「うん。」
「「いただきます。」」
カレーを口に運ぶ。
シンジを見た。
「おいしい。」
シンジに微笑んだ。
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モニターのこちら側 Genesis 3:4 完

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