１２月８日 １７：４６

ドアをノックする音がした。
「アスカ？」
ミサトの声。
「うん。ちょっと待ってて。」
世界史の参考書と問題集を閉じて引き出しに入れた。

着替えて、リビングにいくと、シンジとミサトが話していた。
「お待たせ。」
シンジとミサトに言う。
「あ、それじゃ。」
シンジがミサトに言う。
「うん。ありがと。」
ミサトがシンジに言う。

シンジが立ちあがって、私を見て微笑む。
シンジに微笑んだ。
「それじゃ。」
シンジが言う。
「うん。」
シンジが、リビングから出ていった。
ミサトを見た。
「プレゼント貰った？」
「うん。ペンダントヘッド。」
ミサトが、バッグからだして、ケースを開いて見せる。薄いオレンジっぽい感じの石がキラキラ光っていた。
「へー。シンジもまめね。」
「アスカも貰ったんでしょ？」
「うん。」
そう言って、髪をかきあげて、イヤリングを見せた。
「へー。似合うじゃない。」
「そう？ありがと。」
「ね、アスカは私にくれないの？」
「ごめん。用意してないの。欲しい？」
「うーん。どうしようかな。」
「夕飯、どこで食べるの？」
「長野のどこか。」
「じゃあ、まず、デパート行こうか。」
「ふふ。ありがと。」
「じゃ、行こう。」
「うん。」
立ちあがって、玄関に歩き出した。
 

東急 長野店

「これは？」
なんとなく、ミサトに似合いそうな、指輪を見つけた。シンプルなリングに、小さな人工ダイヤが付いていた。
「うん。そうね。いいかも。」
「試してみる？」
「うん。
  すみません。」
ミサトが店員さんに声をかける。
「はい。」
「これ、１３号はありますか？」
「はい。」
「見せていただけますか？」
「少々、お待ちください。」
店員さんが鍵を開け始める。
「似合うといいね。」
ミサトに言う。
「そうね。」
ミサトが、ショーケースの中を見ていた。

「こちらです。」
ミサトが、店員さんから受け取り、少し眺めてから、左手の薬指にはめた。
「ミサト？」
ミサトを見た。
「何？」
手元を見たままミサトが言う。
「何でもない．．．」
ミサトの左手を見た。指輪が光っていた。
「じゃあ、これ、お願いします。」
ミサトが言う。
「はい。かしこまりました。」
「あの、カードでいいですか？」
店員さんに聞いた。
「はい。結構です。」
店員さんにカードを渡した。

「ありがとうございました。」
店員さんが頭を下げる。
ミサトと歩き出した。
「ミサト？」
ミサトの方を見た。
「何？」
ミサトが私を見る。
「それ、どういう意味？」
「婚約指輪とか、結婚指輪とか、そういうこと？」
「そう。」
「別にいいじゃない。それに、右手の薬指にも入るから。」
「そう．．．」
「誰も、アスカと私が、結婚してるなんて思わないわ。」
「それは、そうかもしれないけど。」
「そんなに嫌？」
「．．．ううん。」
「．．．ごめん。」
「ううん。」
沈黙が流れた。

「ね、お手洗い、いこ。」
ミサトが言う。
「ん？うん。」
ミサトが私の手を引いて、婦人トイレに入る。
同じ個室に引っ張りこまれた。
「何？」
「ごめん。ちょっとだけ．．．」
ミサトが、私に抱き付くようにする。
「ミサト．．．」
「ごめん。アスカ．．．」
ミサトの背中に手を回した。
「ミサト．．．」
「ママ．．．」
沈黙が流れた。
 

和食処 松竹

「お待たせしました。」
店員さんが、私達の前に器を置いていく。
「ごゆっくりどうぞ。」
店員さんが歩いていく。
「食べよう。」
ミサトに言った。
「うん。」
ミサトが、割り箸を手に取り、割った。

「ミサトも、夢、見たの？」
すき焼きの鍋に箸を伸ばしながら聞いた。
「ううん。けど、アスカの話しを聞いて、思い出したの。」
「そう．．．」
「誰もいなくなっちゃったんだ．．．あの時．．．」
「．．．」
「私のこと、見てくれる人。」
「！」
ミサトを見た。
ミサトが俯いて、手元の器を見ていた。
「そう．．．」
沈黙が流れた。

「けど、今は、そんなことないでしょ？」
口を開いた。
「．．．そうね．．．」
ミサトが呟く。
ミサトが、お猪口にお酒を注ぐ。
私は、それを見ていた。
 

和食処 松竹 前

会計を済ませて、外に出ると、ミサトが待っていた。
「ごちそうさま。」
ミサトが笑う。
「どういたしまして。」
ミサトに微笑んだ。
「もう帰る？」
「どこか行きたいの？」
「ホテルとか。」
「．．．」
ミサトを見た。
「冗談よ。ごめんね。」
ミサトが笑う。
「ケーキとか、食べる？」
「ううん。いいわ。ごめんね。アスカ。」
「ううん。」
「じゃ、帰ろう。」
「うん。」
駅の方に歩き出した。
 

メゾン松代

「ただいまー。」
ミサトが、少し大きな声を出す。
「ただいま。」
口を開いた。
靴を脱いで、スリッパを履く。
ダイニングに入ると、シンジの声がした。
「おかえりなさい。」
シンジが、リビングの方から入ってきた。
「何か作る？」
シンジが言う。
ミサトを見た。
「ううん。いいわ。ありがと。」
ミサトが、少し大きな声で言う。
シンジを見て、頷いた。
「お風呂、お湯入れてありますから、適当に足して入ってください。」
「うん。ありがと。」
シンジが、ダイニングから出ていった。
ミサトが私を見る。
「ね、座らない？」
「うん。いいよ。」
ミサトが、リビングの方に歩いていく。

ミサトがソファに腰を下ろした。
私も隣りに腰を下ろす。
しばらく、窓の外を見ていた。
「ママ．．．」
ミサトの声がした。
ミサトを見た。
「何？」
「ママ．．．」
ミサトの顔が近づいてきて、私の唇にミサトの唇が重なる。
ミサトの舌が、口の中に入ってきて、私の舌と絡んだ。

ミサトが唇を離す。
ミサトが、私に抱きついてきた。
「ごめんね．．．ママ．．．」
「ううん。」
ミサトを抱きしめながら、窓の外を見ていた。
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モニターのこちら側 Genesis 3:38 完

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