ダイニングを通ると、シンジが何か作っていた。
「おはよう、シンジ。」
「おはよう、アスカ。」
シンジが、振りかえらずに言った。

ダイニングに戻ると、シンジがごはんを食べていた。シンジの前に、焼き魚と、海苔、そして、お味噌汁が置かれていたので、そこに座った。
「食べていい？」
シンジを見た。
「うん。」
シンジが、箸を休めて言った。
お味噌汁に口をつけた。

「ミサトは？」
箸を休めて聞いた。
「今日は、どうするのかな。ミサトさん。」
シンジが私を見る。
「そう言えば、この前は、シンジは、お墓参りで、ミサトは、結婚式で、私は、デートだったっけ？」
「そうだったかな。」
「そうよ。」
「そうだったね。」
シンジが、私から目を逸らした。
「初めてキスしたんだよね。」
「．．．そうだね。」
シンジが、目を逸らしたまま言う。
「あの時、怒ってた？」
「．．．よく分からなかった．．．かな。」
「．．．」
改めて、シンジを見た。
シンジが、左下に視線を落として、少し暗い顔をしていた。
「ごめんね。シンジ。」
シンジが私を見る。
「え．．．別に、アスカが謝ることじゃないよ。」
「うん。けど．．．」
視線を少し落とした。
「うん．．．ありがと。アスカ。」
シンジを見た。
シンジが微笑んで、私を見ていた。
 

「おはよう。」

そう言って、ミサトがダイニングに入ってきた。
「おはようございます。」
シンジが言う。
「おはよう。」
ミサトに言った。

ミサトがトイレから戻ってきて、私の隣りに座る。
シンジが、ミサトの前に、焼き魚と、海苔と、お味噌汁とご飯を置いた。
「ありがとう。」
シンジが、椅子に腰を下ろす。
ミサトが、お味噌汁に箸を漬けた。

「ミサト、今日、行くの？」
海苔に醤油をつけながら聞いた。
「二人共、行くんでしょう？」
「うん。」
「私も、久しぶりに行こうかな。」
「お父さんのお墓？」
ミサトを見た。
「お母さんもね。」
ミサトが、海苔に醤油をつけながら言う。
「そうなんだ。」
「まあ、お父さんのお墓は、何も入ってないけど。」
ミサトが、シンジを見る。
「形見は、あのペンダントだけだし。」
「そうなんですか。」
シンジが、ミサトを見て言う。
「ペンダント？」
「あの、十字架みたいな奴。見た事あるでしょう？」
「ああ。あれね。」
何で、シンジを見るんだろう？
「そうそう。」
ミサトが、私を少し見ていた。
「どうかした？」
「え？ああ。なんで、シンジに言ったのかな？って思って。」
「ああ。」
ミサトが、得心したように言う。
「シンジ君を初号機に送る途中で、撃たれて死んだのは言ったでしょ？」
「うん。」
「あの時、シンジ君に、あのペンダントを渡したの。形見として。」
「そういうこと．．．」
「うん。まあ、幸いって言うか、何て言うか、形見にはならなかったけどね。」
「ふーん。」
ミサトとシンジを見た。
シンジが、ちょっと困ったような顔をしていた。
 

メゾン松代 駐車場

ミサトがキーを開ける。
「乗って。」
ミサトが、ドアを開けながら言う。
シンジが、ドアを開けて、座席を前に倒し、私を見る。
「ありがと。」
そう言って、後部座席に乗り込んだ。
ミサトが、ドアを閉める。
シンジが、座席を立てて乗りこみ、ドアを閉めた。
「いい？」
シンジが、シートベルトを締める。
「はい。」
「ＯＫ。」
ルノーが走り出した。
 

第２新東京市 共同墓地 入口

シンジとミサトが、花を買っている。
「「お待たせ。」」
シンジとミサトが言う。
「ううん。」
少し作ったように微笑んだ。

少し歩くと、眼下に広大な広場が広がった。一定の間隔で立つ墓標。
「不思議なところね。」
小さく呟く。
「そうね。」
ミサトが呟いた。

「私は、あっちの方なんだけど。」
ミサトが、軽く指差しながら言う。
「僕は、ここから降りていくんですよ。」
シンジが、降り口の標識を、チラッと見て言う。
「じゃあ。」
ミサトが、少し考えている。
「３０分後に、入り口でいいかしら？」
シンジが少し考える。
「そうですね。分かりました。」
「じゃ、３０分後に。」
そう言って、ミサトが歩き出した。
「行こう。」
シンジが私を見て言う。
「うん。」
シンジに頷いた。
 

ＩＫＡＲＩ ＹＵＩ １９７７−２００４ 

そう書かれた墓標の前に立つシンジ。 シンジが、花を置き、手を合わせて、目を閉じる。私も、手を合わせた。
目を開けて、シンジを見ると、シンジが私を見ていた。
「ありがとう。」
シンジが言う。
「ううん。」
シンジに答えた。
シンジが墓標を見る。
私も、そうした。
「アスカのママのお墓は、ドイツなんだよね。」
「うん。」
「よく行ってた？」
「行かなかったわ。エヴァのパイロットでなくちゃいけないっていうのが、いつも頭にあったから。」
「そう。僕も、先生のところに預けられてから、あの時まで、来たことがなかったんだ。」
「そう．．．」
「結局、アスカのママも、僕の母さんも、エヴァの中にいた。」
「そうね。」
「．．．」
二人で、シンジのママの墓標を見ていた。
沈黙が流れた。

「行こうか。」
シンジが言う。
「うん。」
シンジが、私の手を握る。
「．．．」
二人で歩き出した。
 

第２新東京市 共同墓地 入口

ミサトが、売店の前の椅子に腰掛けていた。
「ミサト。」
ミサトが、私達の方を見る。
ミサトが、微笑んだ。
ミサトに近づく。
「お待たせ。」
「ううん。」
ミサトが立ちあがった。
「お昼、どうしようか？」
ミサトが言う。
「まだ、ちょっと早いんじゃない？」
シンジを見た。
「家に帰れば、適当に作るけど。」
シンジが言う。
「だって。」
ミサトを見た。
「じゃ、そうしようか。」
「ふふ。いい？」
シンジを見た。
「ラーメンでいいかな？」
「「いいわよ。」」
思わず、ミサトと顔を見合わせて笑った。
シンジが微笑んでいた。
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モニターのこちら側 Genesis 3:36 完

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