発車のベルが鳴って、ドアが閉まった。
シンジが、バッグを網棚に乗せ、私の隣りに腰を下ろす。
「間に合ったね。」
シンジを見る。
「そうあね。」
シンジが、欠伸をしながら言う。
「ふふ。ちょっと眠いね。」
「そうだね。」
「寝ちゃおうかな。」
「いいよ。終点まで乗るし。」
「うん。」
シンジから目を逸らして、窓の外を見た。町の風景が途切れ始めていた。

結局、電車で、松代から一番近い海、直江津に行くことにした。ただ、午前中は、何故か、電車が少なくて、この電車を逃すと、長野を出るのが１０時ごろになり、着くのが１２時ごろになってしまうので、この電車にしたのだった。

「．．．カ。アスカ．．．」
「ん．．．」
目を開けると、向かいの座席が見えた。
頬が、シンジの肩にのっている。
体を起こして、シンジの方を見た。
「着いたよ。」
シンジが、微笑む。
「うん。」
シンジに微笑んだ。

駅前でバスを待っていた。
「歩いて行けないの？」
シンジに聞いてみた。
「うん。下手すると、３０分くらい歩くんじゃないかな。」
「３０分ね。それは、ちょっと嫌かな。」
「でしょ。それとも、タクシーにする？」
「それでもいいよ。」
「じゃ、そうしようか。」
「うん。」
二人でタクシー乗り場の方へ歩いていく。
タクシーのドアが開いた。
「乗って。」
シンジが言う。
「うん。」
奥に乗り込む。
シンジが、バッグを持って乗りこんだ。
ドアが閉まる。
「どちらまで？」
「直江津海水浴場まで。」
「はい。」
タクシーが走り出した。

「９３０円です。」
「はい。」
「はい。」
運転手が、シンジにお釣りを渡す。
「ありがとうございました。」
シンジが降り、私も降りた。
タクシーのドアが閉まった。
「行こう。」
シンジが言う。
「うん。」
砂の敷かれた道を歩き出すと、背後で、タクシーが走りだす気配がした。

海の家が何軒か立っていた。
一番手前にあるお店に入る。
「いらっしゃいませ。」
「あの。着替えて、荷物を預けたいんですけど。」
「はい。お一人様８００円になります。」
「はい。」
シンジが、お金を渡す。
「はい。更衣室は、あの奥になります。荷物は、ロッカーがありますので、そこに入れてください。」
「分かりました。」
シンジが、私の方を見る。
シンジに頷いた。

「それじゃ。」
「あとで。」
更衣室に入った。
バッグを棚に置いて、Ｔシャツを脱いだ。
ブラジャーを外し、スカートを脱いで、パンティーを脱いだ。
インナーをはいて、赤とオレンジの模様のビキニのパンツをはき、ブラを付けた。
日焼け止めのファンデーションをつけて、軽くルージュを引く。
ポーチとタオル、それに上着を、ビニールのバッグに入れて、バッグを閉めた。

更衣室を出ると、シンジが待っていた。
「お待たせ。」
「ううん。」
「．．．」
シンジを見つめた。
「似合うよ。アスカ。」
「ありがと。」
シンジに微笑んだ。
 

海辺は、それほど混んでいなかった。
「そんなに混んでないね。」
シンジに言う。
「そうだね。」
「海、行かないのかな。」
「一応、平日だし。もう少し遠くに行くのかもしれないし。」
「そっか。」
沈黙が流れた。

シンジが、ビーチマットを敷く。
端にバッグを置いて、マットに腰を下ろした。
シンジが、私の隣りに腰を下ろす。
「車、あったほうがいいね。」
シンジが言う。
「そうね。」
海を見ながら言った。
夏の日差しと、海と砂浜の照り返しで、目が、少しちかちかした。
「サンオイル、塗る？」
シンジが言う。
「あ。うん。」
「はい。」
シンジが、サンオイルを私に渡す。
「ありがと。」
キャップを開けて、手に取り、手や足、それにお腹や、首や肩に塗った。
「背中、塗ってくれる？」
「いいよ。」
「じゃ、お願い。」
シンジが私の後ろにまわる。
シンジの手が、私の背中にオイルを塗っていく。
ちょっといい気分になった。
「これでいい？」
シンジが言う。
「うん。ありがと。
  ね、ビキニの紐、緩んでない？」
「どうかな。きつくしとけばいいの？」
「うん。」
シンジが、紐を引っ張る感じがする。
「こんな感じかな。」
「ありがと。」
「どういたしまして。」

シンジが、私の隣りに戻り、オイルを塗り始めた。
手足と、お腹、胸、肩、首、そして顔。
「顔にも塗っちゃうんだ。」
「まあ、男だからね。アスカは、化粧してるんでしょ？」
「分かる？」
「分かるよ。」
「おかしくないかな。」
「おかしくないよ．．．」
「．．．」
「きれいだよ。」
「ありがと。」
シンジが、背中にオイルを塗ろうと、手を回している。
「背中、塗ってあげようか。」
シンジが、私を見る。
「うん。よろしく。」
シンジが、オイルを私に渡す。
シンジの後ろに回って、シンジの背中にオイルを塗っていく。
「塗ったよ。」
「ありがとう。」
サンオイルのキャップを閉めながら、シンジの隣りに戻る。
「はい。」
シンジにサンオイルを渡す。
「うん。」
シンジが、サンオイルをバッグに入れた。

「少し、海に入る？」
シンジが言う。
「うん。」
「じゃ、行こうか。」
「うん。」
シンジが立ちあがって、私を見る。
「アスカ。」
シンジが、手を伸ばした。
「うん。」
シンジの手を取って、立ちあがった。

くるぶしくらいまで、海に入った。
「冷たいね。」
シンジに言った。
「そうだね。ちょっと準備運動したほうがよかったかな。」
「ここで、すればいいんじゃない？」
「そうだね。」
シンジが、苦笑いしながら、アキレス腱を伸ばしたり、屈伸をしたりする。
私も、笑いながら、シンジに合わせて、体を動かした。

膝くらいまで、水に浸かった。
「シンジ。」
「何？」
シンジが私の方を見る。

バシャ。

水をすくって、シンジにかけた。
「あ、やったな。」
シンジが、すかさず、水をかけてくる。
「きゃああああ。」
私も、どんどん水をシンジに投げつけた。
 

「「はあ、はあ、はあ．．．」」
ひとしきり水をかけあって、手を止めた。
「もう、ビショビショ。」
「目とか、大丈夫？」
「うん、平気。シンジは？」
「うん、大丈夫。
  ちょっと、戻ろうか？」
「うん。」
歩き出したシンジに近づいて、手を繋ぐ。
シンジが、私を見て、そして、前を見た。
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モニターのこちら側 Genesis 3:32 完

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