少しの間、シンジの顔を見ていた。
「ミサトも、そう言ってたわ。」
シンジが私を見る。
「そう。」
シンジが、ほんの少し微笑む。
「そうかもしれないね。」
シンジが、私の目を避けるように、かるく俯いた。

ベルが鳴った。
「そろそろ行く？」
シンジが、私を見る。
「うん。」
シンジが立ちあがる。
私も、トレイを持って立ちあがった。
 

下げ膳口にトレイを置く。
待っているシンジの方へ歩き出す。
「ね。」
「ん？」
歩き出しながらシンジが呟く。
「何時行こう？」
「今週末は、父さん達に会わないといけないし。お墓にもいかないといけないし。」
「面倒ね。」
「ごめん。」
沈黙が流れた。

「お盆休みってあるのかな。」
シンジが口を開く。
「何、それ？」
「え？ああ、仏教の習慣で、７月とか８月に先祖の霊が、家に戻ってくるっていうのがあって、その時期に実家に戻るために休みを取るっていうのが、昔からあるみたいなんだ。」
「ふーん。ドイツで、キリスト教関係の祝日があるのと同じ？」
「まあ、祝日にはなってないけどね。」
「そう。それで、それがどうかしたの？」
「ここは、一斉に休むことはないと思うけど、そういうのがあれば、僕達も休んで、どこか行けるかな、って思って。」
「ああ、なるほど。けど、皆、実家に帰るんだと混みそうね。」
「そ。そこが問題かな。」
「なるほど。」
「まあ、けど、とりあえず、ミサトさんに聞くのが早いかも。」
「そうなんだけどさ．．．」
俯いて、床を見た。
「アスカ．．．」
シンジを見た。
シンジが私を見ていた。
 

昼のシフト終了のベルが鳴った。
マヤが端末を落とし、バッグを持って、椅子から立ちあがる。
「それじゃ、お先に。」
「お疲れ様。」
マヤが部屋から出ていった。

端末の電源を切り、バッグを持って、椅子から立ちあがる。
部屋から出た。

階段を降りると、入り口で、シンジが待っていた。
「お待たせ。」
「ううん。」
シンジが言う。

シンジが歩き出した。
「海、行きたい？」
シンジが言う。
「シンジ、泳げないんじゃなかったっけ？」
「泳げないって言ったら、『保護監視の都合上、困ります。』って、水泳の訓練を受けさせられてるから、少しは泳げるようになってるんじゃないかな。」
「ああ。そう言えば、そんなこと言ってたわね。」
「うん。それに、アスカが行きたいんだったらいいよ。」
「そうね．．．」
沈黙が流れた。

「海に行くんだったら、お盆前の方がいいみたいだから。くらげとか出るんだって。」
シンジが口を開く。
「くらげ？」
「刺されると痛いんだって。」
「そう。」
沈黙が流れた。

「「さよなら。」」
「お疲れ様でした。」
警備員にＩＤカードを見せて、ゲートを出た。

「ミサトさんに聞いたんだけど、夏休みの間なら、遊びに行くのは、いつでもいいって。」
「そう。」
「海でなくてよければ、お盆の後でもいいかなって思ってるんだけど．．．」
「シンジの好きなところでいいよ。」
「そう．．．分かった。」
沈黙が流れた。
 
 

メゾン松代

「「ごちそうさま。」」
シンジが、食器を片付けていく。私も、自分の食器を片付けて、立ちあがる。
食器を持って、流しへ。
「はい。」
「ありがと。」
「どういたしまして。」
シンジを見た。
シンジが、茶碗を洗っている。
「ミサト、今日も遅いのかな。」
「いつも通りじゃない？」
「そう。」
沈黙が流れた。

「部屋にいるね。」
「うん。」
ダイニングを出た。
 

ベッドに横になって、天井を見ていた。
シンジの足音が、近づいてきて、そして、シンジの部屋に入った。
ベッドから起きあがり、部屋を出て、シンジの部屋のドアの前に立つ。
「シンジ？」
「何？」
「入っていい？」
「いいよ。」
ドアを開けて、部屋に入る。
シンジは、机に向かっていた。
「勉強中？」
「うん．．．けど、別にいいよ。」
「そう．．．」
シンジの後ろに立ち、膝をついて、背中から軽く抱きしめた。
「アスカ？」
「少しだけ、このままでいて．．．」
「うん。」
シンジの首の後ろに左頬をもたれさせる。
沈黙が流れた。

シンジの背中から頬を離した。
「ありがと。」
立ちあがって、部屋を出ようとした。
「アスカ。」
シンジが、立ちあがる気配がして、そしてシンジが私の前に立った。
「アスカ。」
シンジが私を抱きしめる。
「シンジ．．．」
「ごめん。気付かなくて。」
「ううん．．．」
「好きだよ。アスカ。」
「うん．．．」
「好きだよ。」
目を閉じて、抱きしめられるままにしていた。

シンジが私を離し、そして、指が私の顎を軽く持ち上げるようにする。
シンジの唇が私の唇に重なった。
少しして、唇が離れた。
目を開けて、シンジを見た。
シンジが私を見ていた。
「ありがと。」
シンジから目を離して俯いた。
「うん。」
シンジが呟く。
「続きは、もう少し待って．．．」
「うん。」
「ごめんね。」
シンジを見た。
シンジが頷く。
シンジに微笑みながら頷いた。

「ごめんね。邪魔しちゃって。」
「ううん。」
「ありがと。シンジ。」
「うん。」
シンジの部屋から出て、私の部屋に戻った。

椅子に腰を下ろす。
鏡を見た。
顔が赤くなっていた。

シンジも、こんな気持ちかな．．．
勉強なんてできないかも．．．
続き、しちゃったほうがいいのかな．．．
好きなんだし．．．

椅子から立ちあがって、ベッドに倒れこんだ。

けど、シンジが大学に入るまでは、待ったほうがいいかな．．．
大学か．．．
私は、どうしよう．．．
学部はスキップできるけど、シンジと大学に行くのも興味あるかな．．．
大学って、そもそも行けるのかな。こんな監視されてる状況で．．．

あお向けになって、天井を見つめた。
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モニターのこちら側 Genesis 3:31 完

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