「手を上げろ。」

後ろから声がした。
振りかえって、広間の入り口を見ると、マシンガンを構えた戦自の隊員とおぼしき男達が立っていた。
「手を上げて、ゆっくり立ちあがるんだ。」
静かに手を上げて、立ちあがった。
私達に照準を合わせた三人を残し、他の隊員が駆け寄ってきて、私達に手錠をかけた。
「サードインパクト誘発の容疑者として連行する。」
隊員の一人が言う。
「どこへ？」
ミサトの声がした。
「第２新東京市拘置所だ。」
ミサトを見た。
「そう。」
ミサトが、厳しい表情をしながら、ほんの少し安堵したような目をしていた。
後ろを見た。
シンジが私を見て、頷いた。
 

第２新東京市拘置所で、私は、連日取調べを受けた。

「では、君は、ネルフがサードインパクトを起こそうとしていたということは、まったく知らなかったと？」
取調官が言う。
「はい。あの世界で、綾波レイに聞いて初めて知りました。」
「ふむ．．．」
取調官が、調書らしきものを見ながらため息をついた。

最後には自白剤が使われた。

「では、君は、殺されそうになったので、戦自を攻撃したんだね？」
「．．．はい．．．」
「サードインパクトが起きるのを避けるためだと、葛城三佐に命令されて量産機を倒したと。」
「．．．はい．．．」

その後、国連監視の元、形式的な裁判が行われた。
私には、ほとんど一生に近い執行猶予付きの終身刑が求刑され、その通りの判決が出た。
私が、監視付きで釈放されたのは、サードインパクトから３年近くたってからだった。
 

２０１８年８月某日 松代市 メゾン松代

「ただいま。」
そう言って、ドアを閉め、鍵を閉めた。
「おかえり。」
中から、ミサトの声がした。
ダイニングに入ると、ミサトが夕飯を温めていた。
「シンジは？」
「部屋にいるわ。アスカの分も温める？」
「うん。」
沈黙が流れた。
 

以前の知り合いとの接触を避けるために、シンジと私は、通信制の高校に通わされていた。日中、シンジ、ミサト、そして私は、戦略自衛隊の松代駐屯地で、それぞれ、ネルフ関係の資料の作成に従事していた。もちろん、これは、私達を拘束するための方策であって、実質的な仕事は何もなかった。
 

その２時間前

松代駐屯地からの帰り、駅で電車を待っていた。
「アスカ？」
聞き覚えのある、その声の方を見ると、ヒカリが立っていた。
「ヒカリ．．．」
しまった。
そう思いながら、ヒカリを見て、笑顔を作った。
「久しぶりね。この近くにいるの？」
ヒカリが微笑みながら言う。
「うん。ヒカリは？」
「伯父さんが、この辺りにいたから、あの時からずっと．．．」
ヒカリが、私を見つめる。
なるほどね．．．
ヒカリを見ていた。
「少し、時間ある？」
ヒカリが言う。
「うん．．．ただ、話せないこともあるけど．．．」
私は、真顔になって答えた。
「ええ。」
ヒカリが真顔になって答える。
「分かった。」
ヒカリが歩き出す。私も歩き出した。
 

カフェ カプチーノ

「お待たせしました。」
ウェイトレスが、アイスコーヒーをヒカリと私の前に置く。
「ごゆっくりどうぞ。」
ウェイトレスが離れていった。

アイスコーヒーにガムシロップを入れながら、ヒカリが口を開いた。
「伯父さんから、駐屯地で外人の女の子を見かけるって聞いて、アスカじゃないかなって、思ってた。」
ヒカリがアイスコーヒーにストローを入れてかき混ぜている。
「そう．．．」
そう言いながら、アイスコーヒーにガムシロップを入れた。
ミルクを入れて、ストローを入れて、かき混ぜる。
ストローに口をつけて、一口飲んだ。

「今日も、アスカが帰る時間を調べてもらって、それで、声を掛けたの。」
ヒカリが口を開く。
「そう。」
アイスコーヒーのグラスに視線を落したまま呟いた。
「碇君とか、他の人もいるんでしょ？」
「ええ。シンジとミサトとは、相変わらず一緒に住んでるの。」
「．．．」
「監視の都合らしいわ。」
「そう．．．」
沈黙が流れた。

「綾波さんは？」
ヒカリが言う。
ストローに口をつけて、アイスコーヒーを一口飲んだ。
「レイは、あの時から行方不明なの。」
「そう．．．」
ヒカリが俯いた。
沈黙が流れた。

「何かあったの？」
私から口を切った。
「ううん。別に。」
ヒカリが微笑む。
「そう。なら、いいけど。」
ヒカリを見ていた。
「鈴原や相田君は元気よ。相変わらず同じ高校なの。」
「そうなの。鈴原とはうまくいってるの？」
そう口にして、ハッとして、ヒカリを見た。
ヒカリが軽く俯いていた。
「．．．うまく行ってるかは、よく分からないけど．．．」
ヒカリが顔を上げる。
「けど、足は治ったの。あそこから帰ってきたら、治ってたの。」
ヒカリを見ていた。
「そう．．．よかったわね。」
「うん．．．」
ヒカリが微笑んだ。
沈黙が流れた。

「アスカ？」
ヒカリが、ストローから口を離して言う。
「何？」
ヒカリを見た。
「もう大丈夫なの？」
ヒカリが少し心配そうな顔で言う。
「もう大丈夫．．．？
  何のこと？」
ヒカリが何を言っているのか分からずに聞いた。
「あの時、家出して、私の家に泊まりに来たじゃない．．．」
あ．．．
「ああ．．．
  うん。もう大丈夫。ありがとう。心配してくれて。」
「そう。よかった。」
ヒカリが微笑む。
私も微笑んだ。
涙出てないよね．．．そんな風に思いながら。

その後、ヒカリは、学校でのことを話しつづけた。
それなりにうまく行ってそう．．．そんな感じがした。
 
 

部屋着に着替えてダイニングに行くと、ミサトが、椅子に座っていた。
「お待たせ。」
ミサトが私を見る。
「ううん。」
ミサトが微笑んだ。

椅子に腰を下ろす。
「食べようか。」
「うん。」
「「いただきます。」」
スープを口に運んだ。

コロッケを箸で切りながら、口を開いた。
「今日ね、帰ってくる途中で、ヒカリにあったんだ。」
「ヒカリ？
  ああ、学級委員だった子だっけ？」
「そうそう。何度か家にも来たんだけど。」
「確か、ユニゾンの時と、昇進祝いの時だっけ。それに、ペンペン預かってもらったわよ。」
「あ、そうだっけ。けど、ペンペンのことは、一言も言ってなかったわよ。」
「そっかぁ。まだ、元気かなぁ、ペンペン。」
「一度、会いに行ったほうがいいかもね。」
「そうね。それで、何か言ってた？」
「そうね．．．あ、鈴原って憶えてる？」
「ええ。フォースチルドレンでしょ？」
「うん。足、治ったんだって。って言うか、帰ってきたら治ってたんだって。」
「そう．．．」
ミサトを見た。
ミサトが遠くを見る目をしていた。
「よかった．．．」
ミサトが呟いた。
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モニターのこちら側 Genesis 3:29 完

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