小一時間程歩くと、街中を抜けて、山に入り始める。
「あと、どのくらいだっけ？」
ミサトに聞いた。
「距離的には半分くらいだと思うけど、登りだから２／３くらいかな。」
「まだ、１／３かぁ。結構あるわね。」
「ごめんね。わがまま言って．．．」
ミサトが俯く。
「ミサト．．．」
ミサトの手を握った。
「．．．」
ミサトが私をみる。
「私も、あそこ、結構好きだから。」
「．．．」
「わがままなんかじゃないよ。」
ミサトが前を向いて俯く。
「ありがと．．．」
ミサトが呟いた。

道が、高度を上げるために蛇行し始める。
しばらくして、道が広がって、平らになったカーブに来た。
「少し休まない？」
シンジが言う。
「賛成。」
シンジに答えた。
「私も。」
ミサトが答えた。
シンジが、ナップザックを下ろして、マットを敷く。
水色で、裏が銀色のマットだった。
「それ、何？」
シンジに聞く。
「ああ。テント用のマットらしいんだけど、敷いてみたら暖かかったから。」
シンジが、私を見て言う。
「夜になっても大丈夫ってこと？」
「そう思って。」
「ふーん。上がっていい？」
「いいよ。」
マットの端にナップザックを下ろして、靴を脱いで、マットに乗る。
座ってみた。
そんなに厚くないのに、ふわふわした感じがした。
「ふわふわしてる。」
「うん。不思議でしょ？」
「不思議。いろんな物あるね。」
「うん。」
シンジが、腰を下ろした。
ミサトも、ナップザックを下ろして、マットに座った。

水筒から、口を離して、蓋を閉める。
「けど、道、結構残ってるね。」
ミサトに言う。
「実は、戦自の攻撃を受ける直前に、車で行ったから．．．」
ミサトが言う。
「．．．」
「その後、Ｎ２弾道弾使われたから、まだ、行きつけるかは分からないけど。」
「そう。」
沈黙が流れた。

「そろそろ行く？」
シンジに聞いた。
「そうだね。」
ミサトを見る。
ミサトが頷いた。
ミサトに頷いて、立ちあがった。

シンジが、マットを畳んで、袋に入れてナップザックに入れた。
「お待たせ。」
シンジが言う。
「ううん。」
首を振った。
「じゃ、行こうか。」
シンジが微笑む。
「うん。」
シンジに微笑んだ。

「そろそろかなぁ？」
ミサトに聞いてみた。
「うーん。一本道だから、あんまり憶えてないのよね。」
ミサトが、前を見たまま言う。
「なるほど。それもそうね。」
「ごめん。」
「ううん。
  まあ、そのうち着くでしょ。」
「うん．．．」
ミサトが、少し厳しい顔をして俯いた。

しばらくして、道幅が広がり、見覚えのある展望台に着いた。
「着いたね。」
思わず、微笑みながら、ミサトを見た。
「うん。」
ミサトが、表情を変えずに、前を見たまま呟く。
前を見た。
第３新東京市のあった辺りに、湖が広がっていた。
ミサトと並んで柵の方に歩いていく。
柵の前に立った。
シンジが、ミサトの向こうに立った気配がした。

「酷いわね。」
誰にとも無く呟いた。
「そうね。
  さらに破壊されてるわ。」
ミサトが言う。
「Ｎ２弾道弾ね。」
「あと、ジオフロントが、掘削されてたような気がしたけど．．．」
ミサトが、シンジを見る。
「ええ。」
シンジが答えた。
「私は、レイが自爆した時も、あまり見てないから。」
ミサトに言う。
「そう言えば、そうね。」
沈黙が流れた。

「これで終わったのかな。」
ミサトが呟く。
ミサトを見た。
沈黙が流れた。

不意に、ミサトの体が、前に倒れるように動いた。
「ミサト！」
ミサトの腰めがけて、体ごと突っ込む。
ミサトを下敷きにして倒れこんだ。
足を引き寄せて上半身を起こす。
向こうにシンジが、倒れていた。
ミサトを見る。
「ミサト．．．」
「．．．」
ミサトが、第３新東京市の方を見ていた。
沈黙が流れた。

「私が、そんなに大事？」
ミサトが呟く。
「よく分かんないわ。」
「．．．」
「ただ、ママって呼ばれたから、私が、ママにされたようにしてるだけかもしれない。」
「．．．」
「ずっとエヴァから見ててくれたのよ。」
「．．．」
「結局、死んじゃったけど。」
「．．．」
「けど、あそこで、量産機に殺されつづけてた私を、助けてくれた。」
「．．．」
「だから、私も、死のうとする、あんたを助けてるのかもしれない。」
「．．．」
沈黙が流れた。

「ここに行こうって言うのを聞いたとき、死ぬつもりなんじゃないかと思ったんだ。」
「．．．」
「案の定、そうだったみたいだけど。」
「．．．」
「けどね、苦しいのは、そうプログラムされてるのよ。」
「．．．」
「あそこで、レイに言われたわ。
『苦しくなければ考えないでしょ。』って。
『苦しくなければ調べないでしょ。』って。
『苦しくなければ動かないでしょ。』って。」
「．．．」
「それを聞いて、私は、思わず、あの女の首を締めたけど。」
「．．．」
「けど、ここで死んだら、あの女に笑われるわよ。」
「．．．」
「ミサトは、レイに笑われても、別にいいかも知れないけど、私は、絶対に嫌。だから、あんたが死ぬのを、私は、許さない。」
「．．．」
「絶対に。」
「．．．」
沈黙が流れた。

「どいてくれる。」
ミサトが言う。
「ええ。」
そう答えて、立ちあがった。
ミサトが立ちあがり、第３新東京市の方を見る。
沈黙が流れた。

「帰ろうか。」
第３新東京市の方を見たまま、ミサトが呟く。
シンジを見た。
シンジが頷く。
「ええ。」
ミサトを見て、呟いた。

学校に着くと、辺りは暗くなり始めていた。
昼の熱気の残る校舎を通り、シェルターに入る。
「食事の入った袋貰える？」
シンジが言う。
「あ、ちょっと待って。」
ナップザックを下ろして、紙袋を取出した。
「はい。」
シンジに渡す。
「ありがと。」
シンジが言う。
「はい。」
ミサトが、シンジに紙袋を渡した。
「はい。
  夕飯、シャワーの後でいいですか？」
シンジが言う。
「「ええ。」」
ミサトと一緒に答えた。
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